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速攻レースインプレッション

名手たちが織りなした知恵比べ、あっという間の1分33秒3だった

文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/森鷹史


内枠3頭で決まった一戦。今年のマイルCSはそのように記憶されていくのだと思う。ただ、イン有利の馬場で内枠が単純に上位を占めたと評論するのは正しくない。インが有利であることを騎手たちが理解した上で、そこをめぐる頭脳バトルが繰り広げられたことは知っておきたい。

見どころがいきなり序盤から訪れた。スタートしてアルアインロジクライが行きかける。アエロリットも悪くないスタートだったが、無理をせず他馬を行かせた。スローに落とそうと試みるロジクライC.デムーロ。これに反応したのがアエロリットムーアだった。あまりにスローになって瞬発力勝負になっては勝ち目はない。そこそこ流れた上でねじ伏せる形が理想だ。ならば、俺が行く。アエロリットは再びスピードを上げてハナを取りにいった。

結果論を言う。ここでポジションの上げ下げをしたことがアエロリットにとっては最終的に響いた。だが、いきなり自分にとってノーチャンスとなりそうなペースをつくられるよりは、少々無理してでも自分が流れをつくった方がいい。ムーアの判断は責められない。C.デムーロの動きを見て動き出したムーアのタイムラグは2秒あるかないかだった。世界レベルの名手の判断の速さがよく分かった。

勝ち馬ステルヴィオは、いつもより出していって6番手のインを確保した。インを狙う馬は多い。せっかく1番枠を引いている以上、自ら取りにいきたい。そういうビュイックの判断だ。出していくことによるデメリットもあったはずだが、しっかりと折り合わせて流れに乗せた。ビュイックのうまいところだ。

このステルヴィオの動きを見て、舌打ちしたであろうと思われるのがM.デムーロ騎手だ。ペルシアンナイトが理想としたのはステルヴィオの位置だったはずだ。このあたりが枠順の妙。「何でステルヴィオがその位置なんだよ。もっと後ろじゃなかったのかよ」M.デムーロはそんな思いだったはずだ。

馬群は4コーナー手前を迎えた。アエロリットの逃げ。内ラチ沿いに続いたのがアルアインステルヴィオペルシアンナイト。結局はこの3頭が①~③着を占めた。

先に先頭に立ったのはアルアイン。気持ち、早めのスパートだが、2000mを主戦場としてきたこの馬にとって、最後にひと踏ん張り、スタミナを要求される競馬は悪くない。川田騎手の考え抜かれた騎乗だった。その後ろからインだけを狙ってステルヴィオペルシアンナイトがチャンスをうかがう。最初はスペースがなかったが、じきにアエロリットアルアインの間に2頭分の空間ができた。

ここしかない。ビュイックM.デムーロがこん身のアクションを繰り出した。2頭で間を割って伸びる。前のステルヴィオペルシアンナイトを抜かせない。アタマ差しのぎきり、G1初制覇を決めた。

どうだろう。名手たちが織りなした知恵比べ。どの騎手も明確な狙いを持って、馬を前に出したり、ラチに付けたりしている。もちろん、その狙いに対応できるだけのセンスが馬にはあった。ベストコンディションに仕上げた厩舎の力もさすがだ。

さらに思考を深めるなら、インが伸びる馬場状態にありながら、外からいい脚を繰り出した④着カツジ、⑤着ミッキーグローリーは力を示したといえるだろう。この2頭が兄弟という事実がまた面白い。個人的にはカツジの健闘を称えたい。前走、まったく見せ場なく敗れながら、追い切りでは抜群の動きを見せた。それなりの結果も出した。厩舎がよくぞ仕上げたものだと思う。今回は枠に恵まれなかったが、どこかで今後に一発あるならカツジなのだろう。

競馬は生き物だ。局面ごとに次々と変化が訪れる。今回は馬場がポイントだった。ただ、インを狙いすぎると、時には詰まることもあるし、危険が伴うこともある。そのあたりをどう気持ちに折り合いをつけて、馬を御していくか。瞬時の判断を求められ続けた今年のマイルCS。1分33秒3は、あっという間に感じた。


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