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速攻レースインプレッション

記録と記憶に残る衝撃の走りは語り継がれていく

文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博


中学生の頃、地方競馬から地味に地道に頂点へ駆け上がったイナリワンを紹介するテレビ番組を見て、競馬に興味を持つようになった。当時のライバルだったオグリキャップ、スーパークリークは「敵」みたいなもの。特に地方出身で同じような過程を歩みつつ、国民的アイドルとなっていたオグリは正直、応援できなかった。

ただ、声援を送るレースがあったこともよく覚えている。89年のジャパンCだ。マイルCSからの連闘という異例のローテながら、大歓声の直線ではホーリックスとの叩き合いでひたむきに頑張った。今とは違い、世界の強豪たちが存在感を示していた大一番でクビ差の②着に敗れたとはいえ、当時の世界レコードとなる2分22秒2という勝ち時計が刻まれた。

まだ中学生だったは偉大さが分からなかったが、競馬を知れば知るほど、その重みが分かるようになった。個人的に東京芝2400mでの「2分22秒2」とは「聖域」に近いものがある。実際、05年のこのレースでアルカセットが2分22秒1という時計でレコードを塗り替えたものの、の中でずっと「2分22秒2」特別な響きを持っていた。

前振りが長くなったが、そんなが思わず目を疑った。アーモンドアイが涼しい顔でゴール板を駆け抜けた後、勝ち時計を見ると2分20秒6の文字。思わず呆然とした。長く競馬を見続けているが、こんな感覚、味わったことがない。東京の芝2400mで2分22秒台の決着ですら、過去に6回しかない。それが21秒台に突入するどころから、一気に20秒台へ到達した。圧倒的で、衝撃的な強さだった。

レースを簡単に振り返ろう。キセキが主導権を握った前半1000mは59秒9。徹底先行タイプが不在でスローペースが予想された中では比較的、流れている競馬だった。その中でルメール騎手は好位からの競馬を選択。最内枠から内ラチ沿いでジッと脚をため、直線では逃げるキセキを見ながら少しだけ進路を外に取り、追い出しを開始した。単勝1.4倍と圧倒的な支持を集めた主役にロスのまったくない、完璧な立ち回りを演じられては、歴戦の古馬たちも太刀打ちのしようがなかった。

今までのアーモンドアイの走りでもっとも強いインパクトを感じていたのが桜花賞秋華賞だった。後方からどこまでも伸びていきそうな瞬発力豊かな末脚こそ最大の魅力と思っていたからだ。だからこそ、ベストはマイルから中距離ではないかという疑念も少しだけあった。しかし、タフな東京芝2400mの舞台で、しかも淀みない流れの中での圧倒劇。距離適性を疑っていた考えが恥ずかしい限りだ。

驚異的なタイムで走った後も落ち着き払った姿で引き揚げてくる姿を見て、ふと思い出した話がある。随分と前になるが、父ロードカナロアを現役時代に管理していた安田隆調教師と話していた時のことだ。「実は天皇賞・秋に使ってみたかったんです。あの馬は身体能力も高かったですが、すごく賢い馬だったんです。調教でもどんどん折り合いがついていましたからね」。このオンとオフの切り替えに加え、どんな競馬にも対応できる「自在性」。世界最強スプリンターと言われた偉大な父の血の長所を、しっかりと受け継いでいる。

歴史的名牝への道を突き進むのに欠かせないのが、やはりルメール騎手の存在だろう。外国人騎手といえば豪快なアクション、大胆な仕掛けといった印象が強いかもしれないが、ルメール騎手の最大の魅力は「そつのない騎乗」にあると感じている。とにかく、無駄が少ない。柔らかい当たりでスムーズに折り合いをつけながら、道中で勝負できる位置を確保。直線に向くまでの消耗が少ないぶん、直線では一段上の「ギア」を引き出せる。勝ちっぷりに決して派手さはないが、測ったように勝利をつかむ点が名手の証し。この日も高い技術が凝縮されたようなエスコートだった。

勝ったアーモンドアイ以外では②③⑤着に4歳馬が入っている点が気になった。天皇賞・秋では4歳のレイデオロ、サングレーザーが①②着で、マイルCSは3歳のステルヴィオと4歳のペルシアンナイトが叩き合った。エリザベス女王杯を勝ったリスグラシューも4歳馬。この秋は若い馬たちの活躍が目立ち、急速な「世代交代」が進んでいる印象だ。

そんな日本競馬の中心にアーモンドアイが立った。の記憶の中で特別な輝きを放っていた「2分22秒2」は平成最初のジャパンC。そして今年、平成最後のジャパンCは誰も想像できなかった領域に手が届いた。例え元号が変わったとしても、アーモンドアイ衝撃の走りは記録と記憶に残るパフォーマンスとして語り継がれていく。


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