速攻レースインプレッション
ノーザンファームの有力馬が器の違いを見せて快勝
文/出川塁、写真/川井博
ノーザンファーム系列のクラブにはシルクレーシングもあって、2018年は三冠牝馬を送り出し、有馬記念も勝つなど席巻したのだが、ホープフルSには登録なし。ならば、順番からいっても今年はキャロットファーム。しかも、サートゥルナーリアという有力馬がいるのは偶然にしてもよくできている。出馬登録を見たときに思ったのは、そんなことだった。
そのサートゥルナーリアは最終的に単勝1.8倍の圧倒的な支持を集めることになるのだが、レースでは抜群のスタートを決めてハナを奪う勢いを見せている。過去2戦も3、4番手を進んでいたので驚くほどではないかもしれないが、さすがに逃げる展開は予想しておらず、思わず声が出てしまった。
ここで見逃せないのが、アドマイヤジャスタのルメール騎手がすかさずサートゥルナーリアを外からマークする位置を確保したこと。同日の6Rで武豊騎手の年間最多勝記録を更新したばかりの名手は、この馬を負かすことを命題としていたのだろう。だからといって実戦で思い通りの位置をとれるものではないはずなのだが、それを苦もなくやってしまう(ように見える)ところに凄みがある。
馬群はやがて1コーナーへ。サートゥルナーリアのM.デムーロ騎手も逃げたくはなかったのだろう、外から来たコスモカレンドゥラにハナを譲ってインの2番手に収まった。その外にアドマイヤジャスタがつけ、サートゥルナーリアの1列後ろに重賞連勝中のニシノデイジーと、上位人気馬は揃って先行している。
2コーナーまでに隊列が整ってからは淡々と進み、前半1000m通過は62秒5。時計が出にくい今の中山の馬場でもスローといっていい。このペースになったことで馬群は密集。3~4コーナーではブレイキングドーンやヒルノダカールらがマクり気味に上がっていき、アドマイヤジャスタはサートゥルナーリアをラチ沿いに封じ込んでいる。期せずしてなのかどうか、本命馬は包囲網を敷かれるようなかたちとなった。
しかし、これも結果的には勝ち馬の器の違いを際立たせるためのお膳立てでしかなかった。直線を向いたときには前が開いていなかったが、アドマイヤジャスタとブレイキングドーンのあいだに狭いスペースを見つけると、ほとんどフットワークが乱れることもなく一気に伸びてくる。M.デムーロ騎手は左手で軽くガッツポーズをとる余裕を見せつけて、先頭でゴール板を駆け抜けた。
②着に入ったアドマイヤジャスタは、おそらくルメール騎手の青写真通りの競馬だったことだろう。それでも1馬身半の着差をつけられてしまった。もちろん、巻き返すための時間はたっぷりと残されている。父ジャスタウェイ譲りの成長力で、3歳クラシック路線での逆襲を誓う。
ニシノデイジーはサートゥルナーリアの後ろにいたこともあって、4コーナーの位置取りがかなり下がってしまったのが痛恨。最後はよく追い上げたものの、③着までが精一杯だった。来春の激戦を戦い抜くためにも、まずは2歳重賞を3つ使った疲労を十分に癒やして欲しい。
それにしてもサートゥルナーリアである。6月の新馬戦、10月の萩Sをいずれも馬なりで制し、楽な競馬しか経験していないことを懸念する声も聞かれたが、杞憂にすぎなかった。
半兄のG1馬、エピファネイアやリオンディーズには繊細な面もあっただけに意外な感もあるが、このあたりは父ロードカナロア譲りなのだろう。初年度の代表産駒となったアーモンドアイやステルヴィオと同様、豊富なスピードを持ちながらもレースに行って引っ掛かるところがない。来年より種付料が1500万円に引き上げられたロードカナロアだが、牡馬で2000mのG1を勝ったことでその価値はますます高まりそうだ。
思えば2018年は、ノーザンファームによって数々の常識が覆された年でもあった。特に休み明けに関しては、過去の傾向はまったく参考にならなくなったといっていい。桜花賞や秋華賞のアーモンドアイに、菊花賞のフィエールマン。今回のサートゥルナーリアも、前走後は外厩で約1カ月調整されている。そして、そのとき鞍上にいるのは「デムルメ」のどちらかなのであった。