速攻レースインプレッション
現代の選手権距離とは何かを示す意義のあるレースだった
文/出川塁、写真/川井博

これは日本でも同じだ。賞金上では2400、2500mのダービー、ジャパンC、有馬記念が最高のレースだが、実際に競走馬の層がもっとも厚いのはどう見ても2000m路線である。近年のチャンピオンホースでいっても、マイル最強だったモーリスは2000mでさらに強かった。キタサンブラックも距離を不安視されたG1昇格初年度の大阪杯で文句なしの走りを見せた。
誤解を恐れずに言えば、現在の1600mや2400m以上の距離では、2000mベストの馬が余技として走っているにすぎない。今の日本の一流馬にとってもっとも走りやすく、優れたパフォーマンスを引き出すことができるのが2000mという距離なのである。
だから、アーモンドアイとレイデオロの古馬ツートップに、昨年の覇者スワーヴリチャードがドバイに向かってもなお、今年の大阪杯には興を削がれないだけの好メンバーが揃った。本当は、それらの馬に加えて、前哨戦の金鯱賞で高らかに復活したダノンプレミアムも出走する真の最強決定戦を2000mで見られたらとは思うのだが、まあそれは胸の内に秘めておこう(秘めていない)。
最終的に出走馬に名を連ねたのは14頭。そのうち、ノーザンファームを中心とする社台グループの生産馬が12頭を占めた。最近のG1では珍しくもない光景だが、昨年のジャパンCや有馬記念、マイルCSなどと比べても占有率は高い。まずは2000mで強い馬を目指して生産すれば、結果的に1600mや2400mも勝てる。日本を代表するブリーダーたちもそう考えているという傍証にはなりそうだ。
そんななかでレースを引っ張ったのが、2頭しかいない非社台グループの生産馬だったとは興味深い。レース前から陣営が逃げ宣言をしていたエポカドーロが予告どおりにハナを主張し、昨秋のG1戦線を熱い逃げで沸かせたキセキは2番手を追走する。キタサンブラックの功績のひとつに「ノーザンファーム生産馬の瞬発力に対抗するには先行力を磨くのがいちばん」だと身をもって証明したことがあると思うのだが、それは見事に息づいている。
前半1000mの通過は61秒3。ただ、良馬場とはいえ前日の雨の影響で明らかに時計がかかる状態だったので、平均より若干遅いぐらいといったところか。人気どころのブラストワンピース、ペルシアンナイト、エアウィンザーといったあたりは、いずれも中団~後方につけて仕掛けのタイミングをうかがっている。
そのなかで最初に動きを見せたのは、ペルシアンナイトとブラストワンピースのハービンジャー2騎。3~4コーナーの中間地点でいずれも馬群の外からポジションをじわっと上げていく。
しかし、これは裏目に出た印象だ。レース後に発表されたラップを見ると、ここはちょうど12秒台から11秒台にペースアップした箇所にあたる。ここで外を回って位置を上げていくのは消耗も大きく、両馬ともに直線では伸び脚を欠いた。結果、ブラストワンピースは⑥着、ペルシアンナイトは⑪着に終わってしまった。
逆に、ラチ沿いで脚を溜められたのがアルアインとワグネリアンだ。特に前者は、他馬のジョッキーが手綱を動かすなか、インの4番手という絶好位で持ったまま4角を回る。さらには直線でも難なく前が開き、あとは北村友一騎手が渾身の力を込めて追い出しにかかると、先に抜け出しを図るキセキをかわして先頭でゴールした。
G1でこんなに上手く行くことがあるのかというぐらいの会心のレース運びで、北村友一騎手は中央G1初制覇。先週の高松宮記念では1番人気のダノンスマッシュで④着と悔しい思いをしたことだろうが、それを糧としてすぐさま結果を出してみせた。
クビ差の②着に入ったキセキは逃げずとも力を出せることを証明し、さらにクビ差でワグネリアンが③着に続いた。この3頭はいずれもクラシックホースで、皐月賞馬が菊花賞馬とダービー馬を従えたかたち。さらに④着のマカヒキもダービー馬で、有馬記念馬と2頭のマイルG1馬も参戦していた。
勝負は水物で、一戦の結果で語るのは早計ではある。それでも、2000mの皐月賞馬アルアインが異なる距離のG1勝ち馬を軒並み下した今年の大阪杯は、現代の選手権距離とは何かを示す意義のあるレースだったように思う。