速攻レースインプレッション
今年も本番では中距離血統が来るのか、それとも!?
文/出川塁、写真/森鷹史

ただし、阪神牝馬Sは途中で距離が変更になった。15年までは1400mで、16年以降は1600m。なにより、これによってヴィクトリアマイルのレース傾向まで様変わりしたのは見逃せない。
目に見えて変わったのは好走馬の血統で、15年まではスピード系の種牡馬が強かった。初期には07年のコイウタ、08年のエイジアンウインズとフジキセキ産駒が連勝。その後もブラボーデイジー、ショウナンラノビア、ホエールキャプチャと、フレンチデピュティ~クロフネの系統も穴をあけていた。
ところが16年以降のヴィクトリアマイルでは、中距離型のサンデー系種牡馬を父に持つ馬の好走が目立つ。16~18年に好走した延べ9頭の父を見ると、ディープインパクトが5頭を占め、残りはフジキセキ、ステイゴールド、ハーツクライ、メイショウサムソンが各1頭となっている。
辛うじてフジキセキの名前があるが、これは14年から3年連続で好走し、15、16年には連覇を飾ったストレイトガール。すでに十分すぎるほどのヴィクトリアマイル実績を持っていた同馬は例外ともいえる。これを除くと、2000mや2400mのG1と見紛うようなラインナップといえる。
冒頭に述べた通り、両レースともに出走する馬は多いので、ペースも似通ってくるのは当然といえば当然だろう。15年までは阪神牝馬S、ヴィクトリアマイルともに前半3F33秒台になることも珍しくなく、このペースだと中距離血統は追走に苦労する。しかし、阪神牝馬Sが1600mになってからは前半のペースが緩くなり、中距離血統でも走りやすくなったのである。
少々前置きが長くなってしまったが、今年の阪神牝馬Sも前半3F35秒6のスローペースとなった。ゲートが開くとスプリンターのダイアナヘイローがダッシュ力の違いでハナに立つが、ビュンビュン飛ばしていくことはなく、後続を引きつけた逃げ。同馬をよく知る鞍上の武豊騎手も1600mの距離を慮ったのだろう。
レースは淡々と流れて最終4コーナーへ。直線に入っても頑張るダイアナヘイローを、残り250m地点で2番手のアマルフィコースト、3番手のミッキーチャームがかわしていく。その外からミエノサクシード、馬群の中から今回は控えたクロコスミアも脚を伸ばすが、先に抜け出した2頭に迫るほどではない。
最後はミッキーチャームがグイっと伸び、アマルフィコーストに半馬身差をつけてゴール。③着にミエノサクシードが続き、ダイアナヘイローも④着に粘った。結局のところ、⑥着カンタービレまでの4角通過順を並べると、2、2、4、1、4、6という典型的な前残り。後ろから行った馬にはノーチャンスだった。
なかでも不完全燃焼に終わったのが、1.5倍の圧倒的1番人気に推されたラッキーライラック。いつもより後ろからレースを進めたものの、枠の関係もあって馬群の真っ只中という苦しい位置に。3コーナーの入りではサラキアと接触して首を上げる場面もあった。4コーナーでスムーズに持ち出すこともできず、なだれ込むように⑧着まで追い上げるのが精一杯だった。
ラッキーライラックにとっては秋華賞に続いて生涯で二度目となる掲示板外となったが、重賞初制覇を飾ったミッキーチャームは秋華賞で②着に好走していた。同じレースでは一緒に好走できない面白い関係になっているが、果たして次のヴィクトリアマイルではどういう結果になるのだろうか。
今年の阪神牝馬Sは位置取りで明暗を分けた馬も多く、ヴィクトリアマイルに向けては着順を鵜呑みにはできないだろう。着順に影響するはずのペースは出走メンバーに拠るところも大きく、現時点ではなんともいえない。
ただ、ここ数年のように中距離血統が来る流れになると読めば、今日は後ろから行って不発に終わったラッキーライラックやレッドオルガ、サトノワルキューレあたりの巻き返しに期待する手はありそうだ。
逆に、再び15年以前のスピード血統が来る展開になるようならば。さすがにダイアナヘイローでは距離がもたないかもしれないが、1400m実績のあるアマルフィコーストやリバティハイツの一発に賭けてみてもいいかもしれない。