速攻レースインプレッション
着順の明暗を分けた要因として考えられるのは!?
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/森鷹史

もちろん、ファン投票1位のアーモンドアイをはじめ、上位投票のフィエールマン、ブラストワンピース、ワグネリアンらが元気であるにもかかわらず、様々な理由で違ったローテーションを取って回避したことを残念に思うファンもいただろうが、梅雨時期、春シーズン最終週の開催で気候、馬場状態に不確定要素もあるだけに、これは仕方がない。
その心配されていた馬場状態も、天候が回復して3歳1勝クラス(旧500万)の阪神8R出石特別(芝1800m)で1分45秒6の勝ちタイムが出たように急速に回復した。総合力が問われる舞台設定が整った。
注目された1番人気は最後までもつれたが、キセキが3.6倍でレイデオロの3.9倍を抑えて、菊花賞に続くG1での1番人気に推された。1番枠を引き当てて、楽に先手を奪ってマイペースに持ち込めそうなこともキセキの人気を後押ししたのだろう。だが、そのキセキはスタートからあまり手応えが良くない。川田騎手が必死に手綱をしごいて先頭に立ったものの、得意とするハイペースの逃げには持ち込めなかった。
一方、これまでは後方待機が常套手段だった大外枠のリスグラシューが抜群のスタートと手応えで、キセキに並び掛ける勢い。様子を伺いながら先頭はキセキに譲ったものの、まったく楽な手応えで2番手を追走する。ドバイシーマクラシックで先頭に押し出されて敗退したレイデオロは、レース前から待機策を明言しており、5~6番手の内でじっと我慢する展開。アルアイン、スワーヴリチャードも3~4番手でキセキをマークした。
キセキの1000m通過は60秒0と予想外のスローペース。だがリスグラシューにマンマークをされて、精神的なダメージもあったのかもしれない。直線を向くと早くも川田騎手のムチが入った。それはレイデオロも同様で、外に持ち出す余裕もなく最内のままの進路で直線を向いたが、ステッキにまったく反応がなかった。
1頭だけ、4角を馬なりのまま回ったリスグラシューが早めにキセキを交わし、そのまま後続を寄せ付けることなく、②着キセキに3馬身差をつけてゴールした。牝馬の優勝はエイトクラウン、スイープトウショウ、マリアライトに続く4頭目。2分10秒8の勝ちタイムは11年アーネストリーの2分10秒1、95年ダンツシアトルの2分10秒2に次ぐものだった。
上位5頭はいずれもG1勝ち馬で1~6番人気。しかも前半から好位につけていた馬だった。前残りのレースが続いていた阪神だけに、実力馬は積極的なレースに徹した。①~②着3馬身、②~③着2馬身、③~④着2馬身と意外に着差は開いたものの、脚を余した実力馬がいないという点は、見ていて気持ちの良い春のグランプリになった。その中で着順の明暗を分けたのは、調整の難しい梅雨時期ということ以外に、騎手の判断力と牝馬のセックスアロワンスがあったのではないだろうか。
短期免許で初来日した25歳のレーン騎手は、この日が今回のJRAでの最後の騎乗だったが、4月末からの2ヵ月間で37勝。重賞は13戦6勝という驚異の勝率で、ヴィクトリアマイルに続いてG1・2勝目を挙げた。日本ダービーで圧倒的な1番人気サートゥルナーリアに代打騎乗して④着敗退した印象がファンには強いかもしれないが、とんでもない成績を残した天才騎手であることを改めて知らしめた。
追い込みで実績を残していたリスグラシューであっても、ペースと手応え次第で逃げることも辞さない戦法を瞬時に判断してしまう。これは騎手としてのペース把握などの才能はもちろんだが、「厩舎サイドの指示は絶対」と考えてしまいがちな日本人騎手にはなかなかできない芸当だろう。外国人騎手がこれだけ活躍している要因は、そんな日本競馬ならではの事情もあるのかもしれない。
また、いまは世界的に牝馬の活躍が際立っている。凱旋門賞はこの8年間で牝馬が7勝という状況だ。これは育成レベルが高まったことで牡馬と牝馬の能力差が小さくなり、概ね2キロのセックスアロワンスが牝馬有利の状況を作り出していると考えることもできる。気温、馬場など各種条件が違っても常に勝ち負けを続けているのは名牝リスグラシューの最大の特徴であるが、それは牝馬全般にも言えることであり、条件が厳しくなればなるほど、2キロのアロワンスがある牝馬の存在をもっと重要視していく必要がありそうだ。