速攻レースインプレッション
父譲りの成長曲線で、文句なしの重賞3連勝
文/編集部(T)、写真/森鷹史

そんな日曜の朝、「今日の小倉は上手い騎手が揃って面白いねえ」というメッセージが、SNSを通して友人から届いた。
外国人騎手はいないはずだが?と思って改めて確認してみると、確かにそう思うのも納得。小倉記念だけをとってみても、上位人気3頭が川田騎手、武豊騎手、福永騎手というトップジョッキー。さらに浜中騎手、和田騎手、松山騎手、北村友騎手、幸騎手といった関西の実力派の名前も。さらに20代の高倉騎手、松若騎手も上位人気馬に乗っている。外国人騎手はいなくても、面白いレースが見られそうな予感がした。
馬の方も、面白いメンバーが揃った。目下4連勝、重賞2連勝中のメールドグラースはさすがの1番人気だが、今回は未経験のハンデ57.5kg。過去10年でも57.5kg以上の馬は[0.0.3.5]となっていて、これを軸にしていいのかどうか悩ましいところだ。
これに続くアイスストームも、芝1800mで連勝中ではあったが、芝2000mは2勝クラスだと⑬⑥③着。ストーミングホーム産駒も芝2000m以上の3勝クラス以上で連対した馬がまだいない。3番人気アイスバブルは月曜に亡くなったディープインパクト産駒で、6戦連続で連対中。東京の芝2500m→小回りの芝2000mへの対応は楽ではないかもしれないが、「ディープインパクト追悼競走」でディープインパクト産駒が勝つならみんな納得の結果では、などとオカルトめいたことまで考えてしまう。
それぞれ上位人気馬には不安点もあったが、それを克服して勝利したのはメールドグラース。スタートを切られる瞬間、よそ見をしていた感じで若干出負けしたが、川田騎手は慌てず騒がず馬群で脚を溜めると、勝負所ではゴチャつく内を横目に大外へ。そこから上がり34秒9を使い、一気に差し切った。現在リーディングを走る川田騎手らしい、冷静な手綱捌きだった。
ちなみにその川田騎手、デビュー2年目の05年に小倉記念に初めて参戦し、17年まで13年連続で挑戦したが(昨年夏は英国遠征で不参戦)、②着3回はあるもののなかなか勝てず、これが初勝利となった。九州出身の同騎手にとって、ある意味"念願の"勝利だったのではないだろうか。
②着に食い下がったカデナは3戦連続の馬券圏内となり、ディープインパクト追悼競走で、同産駒が意地を見せる形になった。2歳時に芝2000m重賞を連勝した実力馬、完全とはいえないまでも、これで復活と考えていいだろう。
レース後のインタビューで、川田騎手は「一戦ごとに力を付けて……」という言葉を何度か使った。初騎乗となった昨年12月の境港特別ではシルヴァンシャー(次走で3勝クラス勝ち)に競り負けたが、次走で馬体重を10kg増やすと、それから5連勝。3走前の斤量54kgから56kg→57.5kgと増えても問題なかったところを見ても、確かに力を付けていることが窺える。
この成長曲線は、父ルーラーシップによく似ている。こちらは3歳12月の鳴尾記念が斤量55kgでの重賞初制覇で、有馬記念(⑥着)を挟んだ次の日経新春杯が56.5kgで勝利、ドバイシーマクラシック(⑥着)を挟んだ次の金鯱賞が58kgを克服して勝利している。
ルーラーシップはそこで本格化を告げたかと思わせたが、続く宝塚記念⑤着、有馬記念④着と、なおもG1の壁に跳ね返され続けた。しかし、めげずにさらに力を付け、5歳春のクイーンエリザベス2世Cで悲願のG1初制覇を飾ることになる。
その子のメールドグラースはG3を3連勝としたことで、ハンデを考えても、さすがにもう夏のG3への出走はなさそう。いずれはG1に参戦していくのだろうが、ステップを使うとなると、夏に使うなら札幌記念、秋ならオールカマー、毎日王冠や京都大賞典あたりか。
そこで、いきなり結果を出せるかどうかは分からないが、父譲りの成長曲線がこの馬にも受け継がれているとしたら、一度や二度の敗戦で見限ってはいけない。芝2000mで見せた強さを考えると、初G1制覇が暮れの香港Cや、来年のクイーンエリザベス2世Cでの親子制覇になる可能性もありそうだ。血統的な面を考えても、中距離路線で楽しみな逸材が登場したことは間違いない。