速攻レースインプレッション
先を急ぐ人馬によって改修後の良馬場レコードに…
文/編集部(M)、写真/小金井邦祥
みやこSはスマハマとインティという強力な先行型がいたし、エルムSもリアンヴェリテとドリームキラリという逃げ馬がいて、先行激化の流れが予測しやすかったと言える。だが、今回の武蔵野Sは……? なぜあそこまで淀みなく流れることになったのか。
ドリームキラリがハナを切るのは想定通りで、その外にマジカルスペルが付ける形も想像できた。1番人気だったエアアルマスが3枠5番で、これを包むようにレースをしてくる馬が現れそうなことも予想はできたが、驚いたのは追い込み型のサンライズノヴァが外の3番手に付けたことだ。鞍上(森泰騎手)が替わっていたことや斤量59kgが作用したのかもしれないが、実力馬が前に行ったことで前掛かりの展開になった。
キャリアの浅い3歳馬のデュープロセスやグルーヴィットが内枠で、先行したことも流れに影響を与えたのだろう。さらには外からスウィングビートも早めに進出し、先行集団が4コーナーを回る様は、G1デイの開門ダッシュというか、バーゲンセールの初日というか、先を急ぐ人馬が多くなった。
そんな流れでもサンライズノヴァは59kgを背負って一度は抜け出し、地力の高さを見せたが、さすがに東京競馬場の直線は長い。直線半ばからは激化した先行争いを後ろで見ていたであろう馬たちの脚色が勝り、ワンダーリーデルとタイムフライヤーが差し上がり、さらに後ろからダノンフェイスも差し込んだ。結果、3連単配当が235万円にもなる波乱の決着となった。
ワンダーリーデルは2走前に東京ダート1600mでアハルテケSを快勝していたが、その時は重馬場だった。昨春に東京ダート1400mで準OP(BSイレブン賞)を勝利した時も重馬場で、スタチューオブリバティ産駒はJRAのダートの特別競走が良馬場だと[0.0.4.36]というデータがあったから、馬場が湿って脚抜き良いダートがベストなのだろうと思っていた。
ところが今回は良馬場での差し切り勝ちで、これを見ると、湿った馬場が良いというより、時計の速い決着が向く、ということなのかもしれない。レース後、鞍上の横山典騎手は「後ろから行っても前に行ってもどうかなと思っていた」という趣旨の話をしていて、ペースを読み切った鞍上の手腕でもあったのだろう。
東京ダート1600mのレコードタイムは、2001年の武蔵野Sでクロフネが記録した1分33秒3(良)だが、同馬以外に良馬場のこのコースを1分34秒台で優勝したことがあるのは3頭で、2011年南部杯(1分34秒8)のトランセンド、2010年フェブラリーS(1分34秒9)のエスポワールシチー、2006年フェブラリーS(1分34秒9)のカネヒキリだ。
今回の決着時計は1分34秒6(良)で、つまり、コース改修後の良馬場でのレコードと言ってもいいわけだ。こんなタイムが出るとは、誰が予想し得ただろうか。
みやこSも武蔵野Sも、12月1日に行われるチャンピオンズCの重要なプレップレースだが、どちらのレースも再現性が高いかと言われると疑問符が付く。それだけに、チャンピオンズCの展開予想・馬券予想も難しくなったのではないか。
JRAでのダートG1では、昨年のチャンピオンズC(ルヴァンスレーヴ)、今年のフェブラリーS(インティ)と1番人気が連勝しているものの、それ以前の1番人気の優勝は2015年フェブラリーSのコパノリッキーまで遡り、さらにその前は2011年JCダートでのトランセンドまで戻る。
1番人気が復権したように見えるものの、みやこS、武蔵野Sの結果を見ると、今年のチャンピオンズCは予断を許さないのではないだろうか。