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速攻レースインプレッション

“16年ぶりの快挙”は非常に値打ちがある

文/石田敏徳、写真/小金井邦祥


暮れのチャンピオンズCで無傷の戴冠を果たしたクリソベリルと同②着のゴールドドリームは、新設された世界最高賞金レースのサウジカップへ進路の矛先を向けた。前哨戦の東海Sを快勝したエアアルマスは骨折のため戦線を離脱。それでも今年のフェブラリーSには昨年の4頭を上回る7頭のG1(Jpn1)ウイナーが集結し、例年以上に多彩なメンバー構成によって争われた。

改めて勢力図を整理しておくと、人気を二分したのは芝&ダートの二刀流G1制覇に挑むモズアスコットと、レース史上2頭目の連覇がかかる昨年の覇者インティ。このうちモズアスコットはダート転向初戦の前走・根岸Sで、非凡な適性をアピールした。スタートで出遅れながらすぐに挽回して中団にとりつき、力強い末脚を繰り出してコパノキッキングを圧倒。その勝ちタイムは1分22秒7だが、「東京ダート1400m、良馬場」の根岸Sを1分22秒台で勝った馬は過去にサウスヴィグラス(2002年・1分22秒8)しかいない。しかも「もともと、休み明けはあまり走らないし、状態的にも完調手前だった」(矢作芳人調教師)というのだからダート適性の高さは疑いようもなかった。

一方、7連勝での戴冠を果たした昨年のフェブラリーSの後、勝ち星からは遠ざかり続けているインティも、その間の内容は悪くなかった。特に強調したいのがペースを緩めずに飛ばす"剛の逃げ"を打って③着に粘りこんだチャンピオンズCで、結果的にはクリソベリル、ゴールドドリームの軍門に下ったものの、この馬自身の走破タイム(1分48秒7)も「破格」といえる記録。先着を許した2頭が不在のうえ、今回は単騎の逃げが見込めるメンバー構成とあって、昨年の再現も十分に考えられた。

そんな2頭に次ぐ支持を集めた南部杯の①②着馬、サンライズノヴァアルクトスにとって、東京のダート1600m戦はまさに「ベストの舞台」と映る。また、今回は中央の加用正厩舎に移籍しての出走となるブルドックボス(昨年のNARグランプリ年度代表馬)を含め、大井のノンコノユメモジアナフレイバーらの地方所属馬も中央の一線級と互角に渡り合えるだけの下地は示しており、こちらは馬券的な妙味から食指が動いた。

で、あれこれ悩んだ末に下したの結論は、「こいつはマイラー」と睨んでいたモジアナフレイバーを軸にした3連複馬券。ゲートの課題はクリアしてよく頑張ってくれたけどね(ちなみに⑥着同着)。スタート直後の芝であんなに置かれるとは思わなかったよ……。

軸馬のダッシュのつかなさに私が悶絶している間、前方では予想外の形でレースが進んでいた。出足が今ひとつ鈍かったインティを尻目に、ワイドファラオアルクトスが雁行して後続を先導。「馬は力んでいなかったし、ワイドファラオを行かせて直後の2番手につける形はとりたくなかった(砂を被らせないため)ので、主張していきました」という田辺裕信騎手アルクトスが少し前に出る形で緩みのないラップを刻む。

直後の好位につけたインティは早々に手応えが怪しくなり、よもやの大敗(⑭着)を喫してしまう。「返し馬では唸っていく感じだったのに、今日は走りのバランスが悪かった。こんなことは初めて。何もなければいいけれど……」とレース後の武豊騎手は首を捻るばかり。単に馬の気持ちが乗らなかっただけなのか、ちょっと心配だ。

力を出し切れずに敗れた一方の雄に対し、モズアスコットC.ルメール騎手のコンビは理想的かつ完璧にレースを運んだ。後手を踏んだ根岸Sとは一転、五分のスタートを決め、道中はインティを見る形で中団を追走。「前走は安全策で外を回りましたが、今日は馬の間に入れても(砂を被らせても)大丈夫だと思った」というルメール騎手はソツなく内めを立ち回り、直線に向くと今度は外へ持ち出してゴーサインを送る。これに応えてモズアスコットもしっかりとした末脚を発揮。「ボクもビックリしたぐらいの加速」で後続を突き放し、完勝のゴールを駆け抜けた。

芝&ダート双方でのJRA・G1制覇は過去にクロフネ、アグネスデジタル、イーグルカフェ、アドマイヤドンが記録している。2年前、連闘で臨んだ安田記念を勝ったモズアスコットは砂の新天地で未知の素質を大きく開花。史上5頭目の「二刀流G1ウイナー」に君臨したわけだが、直近のアドマイヤドン(2004年・フェブラリーSで達成)から16年もの歳月が流れていることは強調しておきたい。

その間には路線の整備が着々と進み、日本のダート馬たちのレベルは間違いなく上がった。二刀流で活躍するためのハードルも明らかに高くなっているのが現状で、"16年ぶりの快挙"は非常に値打ちがある。

「安田記念のころは芝のスピード勝負(が身上)の馬と思っていましたが、年齢を重ねて体つきがパワー型に変化してきた。今のこの馬にはダート、そして少し時計がかかる芝が合っています」矢作調教師。ただし「距離はマイルまでだと思うので、1800mや2000mのレースは考えていません。今後は予定通り、(オーストラリアの)ドンカスターマイルへ向かいます」とのこと。新天地で勝ち星を重ね、馬の"気力"も甦ってきた感があるだけに、芝の大舞台での活躍も楽しみだ。

そんなモズアスコットの②着に食い込んだのは、最低人気のケイティブレイブ東京大賞典は3秒2差の⑧着、川崎記念は1秒8差の⑥着と見せ場のない凡走が続いていた前2走とは一転、「しまい(末脚)を活かす競馬を心掛けた」という長岡禎仁騎手に導かれてアッと驚く変わり身を見せた。

レース後の検量室前では「本当によく頑張ってくれた。勝ったも同然ですよ」と満面の笑みを浮かべる瀧本和義オーナーを記者たちが囲み、超異例の"②着馬オーナー取材"が行われる場面も。何だかちょっとほっこりしたけれど、考えてみれば中距離に良績が集中していた実力馬がマイルの舞台で新境地を開拓したことになる。今年のフェブラリーSのキーワードはやっぱり"二刀流"だったのですね。


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