速攻レースインプレッション
この後は史上7頭目の天皇賞春・秋制覇を期待したい
後藤正俊(ターフライター)
天皇賞・春はG1勝ち馬がフィエールマン、キセキの2頭だけという、G1シリーズの中ではやや寂しいメンバー構成となった。昨年の②着馬で香港ヴァーズ勝ち馬のグローリーヴェイズが直前中止となったドバイ遠征帰り、昨年の菊花賞馬ワールドプレミアも体調不良でともに回避したこともあるが、同距離の重賞が他にはなく、3000m以上のレースは年間6鞍しか組まれていない偏ったレース体系も、伝統の3200m戦を孤立化させる一因になっている。
だが、ディープインパクトは別格にしても、フェノーメノやゴールドシップは初年度産駒から期待以上の成績を残しているし、初年度産駒が1歳を迎えたキタサンブラックも馬産地での評価が高い。種牡馬選定という意味では依然として存在感の高いレースである。いずれはフィエールマンがディープインパクトの最良後継種牡馬の1頭となるはずで、史上5頭目の連覇を達成してその価値をさらに高めるかに注目していた。
人気はそのフィエールマンが有馬記念以来4ヵ月半ぶりの実戦、不利と言われている大外枠にもかかわらず2.0倍の圧倒的な1番人気。2番人気には前哨戦の阪神大賞典を制したユーキャンスマイル、3番人気は鞍上に盾男・武豊騎手を迎えたキセキが続いた。
レース展開を占う意味で注目はスタートだったが、ゲート再試験明けのキセキは問題なく発馬し無理をせずに3番手に抑え、先頭はダンビュライト、2番手はスティッフェリオの展開。だが正面スタンド前に差し掛かりペースが落ちるとキセキが行きたがり、武豊騎手は馬に逆らうことなく先頭に立った。
フィエールマンは中団から後方の外目を追走し、一時は先頭から20馬身近い差がついた。武豊騎手は前半1分39秒1(後半1分37秒4)の楽なペースに持ち込んだが、中間にゲート練習を続けた馬は闘争心を失ってしまう場合がよく見られるように、本調子ではなかったのだろう。直線で馬群に飲まれてしまった。
直線でそのキセキに代わって先頭に立ったのは3番手追走の11番人気スティッフェリオ。使われつつ復調していたのだろう。一時は突き抜けてセーフティリードをつけたかに見えた。だがやはりフィエールマンが外からやってきた。3角の坂を下り切るまで仕掛けを遅らせていたフィエールマンだったが、4角を回ると一気に先団に取り付き、1頭だけ34秒台となる34秒6の末脚を炸裂。
スティッフェリオに馬体を合わせると、ゴール板を測ったようにハナ差だけ差し切って連覇を達成した。2頭から2馬身半離れた③着は後方からフィエールマンよりひと息早く仕掛けたミッキースワロー、④着は直線で最内を突いたユーキャンスマイル、⑤着は最後方から追い込んだトーセンカンビーナ。キセキは⑥着だった。
フィエールマンは昨年もグローリーヴェイズとクビ差、菊花賞もエタリオウとハナ差の接戦を制しており、並んだら抜かせない勝負根性は際立っている。だがそのわずかハナ差も、ルメール騎手は計算ずくだったのではないかと思えるほど落ち着き払った騎乗に見えた。これで天皇賞は春・秋通算4連勝で、まさに平成・令和の盾男。馬主のサンデーレーシングが「ルメール・ファースト」でローテーションを組むのも仕方がないと思えてしまうほどだ。
フィエールマンにとって今後もアーモンドアイ、サートゥルナーリアなどとの競合がローテーション決定に影響してくるかもしれないが、個人的には中距離G1でも王者になれる器だと見ている。特に印象に残っているのが②着に敗れたとはいえデビュー3戦目のラジオNIKKEI賞で、小回り福島コースで4角13番手の絶望的な位置からぶっ飛んできた末脚は強烈だった。
休み明けの今回は決して万全な状態ではなかったはずで、今後のローテーションは不明だが、秋にはタマモクロス、スーパークリーク、スペシャルウィーク、テイエムオペラオー、メイショウサムソン、キタサンブラックに続く史上7頭目の天皇賞春・秋制覇を期待したい。アーモンドアイらを破ってこそ、ディープインパクトの最良後継種牡馬の座に近づくことになる。
②着スティッフェリオの激走には驚かされたが、ステイゴールド産駒はこのコースでフェノーメノ、ゴールドシップ、レインボーラインなど実績を残し続けていることを考えると、気を付けておかねばならない馬だった。ステイゴールド産駒も残り少なくなってきたが、インディチャンプ、ウインブライト、オジュウチョウサンとその存在感をいまでも見せ続けてくれている。スティッフェリオもコンスタントに好走を続けるタイプではないかもしれないが、気分良く走った時の怖さを忘れないようにしたい。
③着ミッキースワローは自分の能力を出し切っての成績。G1ではひと息足りなくても、G2、G3では今後も勝ち星を挙げ続けるだろう。④着ユーキャンスマイルはやはり右回りに不安を抱えている。ラチ頼りの競馬になると馬場の広さを使えないため、信頼性に欠けてしまう。左回りに替わった時に注意が必要だ。⑤着トーセンカンビーナは着実に力をつけており、直線の長いコースでいずれ穴をあける予感がする。