速攻レースインプレッション
粘り強い末脚で父子制覇達成、さて本番は!?
文/浅田知広
先週のダービートライアル・青葉賞は、オーソリティが優勝。このレースで勝ち時計2分23秒0とは、少し前の感覚ならひっくり返って驚くくらいの好時計だが、それでもオーソリティの楽勝にはならず、上位3頭クビ+クビ差というのだからもう言葉がない。
ともあれ、そのオーソリティは皐月賞への優先出走権(弥生賞③着)を持ちながら回避した馬だった。そして今週、同じG2の京都新聞杯にも似たタイプが1頭、前走の若葉Sを制して2戦2勝としたアドマイヤビルゴだ。こちらも皐月賞はパスして、ダービーを大目標にここに駒を進めてきた形。超高額馬が無傷の3連勝で日本ダービー出走となれば、競馬ファンならずとも大いに注目されることになりそうだ。今回は、単勝オッズ1.4倍という断然人気に支持された。
離れた2番人気(6.0倍)はファルコニア。前走・スプリングSは④着で、③着のサクセッションとハナの差で皐月賞への出走権を取り損ねた……のだが、出ようと思えば出られた、というのはまた後になっての話である。
そして3番人気・デビュー2戦目から2連勝中のマンオブスピリット(8.6倍)を挟み、4番人気は皐月賞に出走できたディープボンド(10.7倍)。1月の福寿草特別⑥着のあと短期の休養があり、皐月賞2週前のアザレア賞は②着。皐月賞に出るようなローテーションでもなければ、例年なら出られるような賞金でもなかったが、⑤着からは0秒3差の⑩着とまずまずの走りを見せている。
さて、皐月賞出走権を持ちながら出なかった馬、出走権を獲り逃した馬、そして賞金的に運良く出走できた馬。ちょっとマンオブスピリットには申し訳ないが、この3頭が果たしてどういう順番になるかと興味深い一戦だった。
レースは、今回ブリンカー初装着・シルヴェリオの逃げ。スタート直後こそもたついたものの、先頭に立ってからはもう走る気満々といった感じで、2ハロン目に10秒3をマークするなど前半の800m通過は46秒4のハイペース。離れた4番手を追走したアドマイヤビルゴでも、目視で48秒0くらいだっただろうか。その後ろにディープボンド、7~8番手にファルコニアと続き、マンオブスピリットは10番手あたりの追走となった。
前はバラバラ、4番手のアドマイヤビルゴが馬群を引っ張る形になり、その内にファルコニアが併せていって3コーナーへ。先頭との差が一気に詰まる中、人気2頭の直後でディープボンドは押っつけ気味、そしてその後ろからマンオブスピリットも追撃態勢。前の人気2頭は、アドマイヤビルゴがそのまま外へ出したのに対し、ファルコニアは内めに入れて4コーナーを通過した。
そして直線。そのファルコニアはコーナーこそ距離損なく通過したものの、前にいたキングオブドラゴンが内にもたれたあおりを受けて内ラチ沿いへ。対して外のアドマイヤビルゴはすんなり先頭と、一瞬はこれで勝負あったかという態勢になった。
しかし、アドマイヤビルゴの道中4番手でもまだペースが速すぎたということか、それとも他の要因があったのか、そこからの伸びがひと息だった。残り200mを切ると、ディープボンドとマンオブスピリットが並んでアドマイヤビルゴに襲いかかった。
アドマイヤビルゴに抵抗する余力は残っておらず、ここからはディープボンドとマンオブスピリットの一騎打ち。アドマイヤビルゴを交わすまではマンオブスピリットのほうが脚色良く見えたが、最後はディープボンドの勝負根性がこれを上回り、マンオブスピリットをクビ差競り落として勝利を飾ったのだった。
終わってみれば上位4頭が4→3→2→1番人気という決着。そして、この中では唯一「G1出走経験」があったディープボンドが重賞タイトルを獲得。2013年にこのレースを制したキズナとの父子制覇も達成した。
そのキズナは3歳春に毎日杯を制したが、皐月賞には出走せず京都新聞杯からダービーというステップを踏んで、重賞3連勝でダービー馬の栄冠に輝いた。同じ京都新聞杯→ダービーというステップでも、そこに至る過程はまったく異なるディープボンド。とてつもない爆発力を発揮した父とはまた違う、粘り強い末脚が武器になる。皐月賞とは距離もコースも替わり、その持ち味が活きる展開になれば、強敵にひと泡噴かせる場面も見られるかもしれない。