速攻レースインプレッション
ミクロで見ると道悪の影響あり、マクロで見ると例年通り
文/出川塁
過去10年、上がり1位馬が[3.2.2.4]かつ2連勝中。あるいは、前走上がり1位馬が[3.2.1.13]かつ3連勝中。こうしたデータが示す通り、府中牝馬Sはとにかく上がりの脚を重視すべきレースだ。
その線でいくと、ディープインパクト産駒のラヴズオンリーユーが目につくのは当然ではあっただろう。デビューからオークスまで、すべて上がり1位を記録して4連勝。以降は休み休みの出走になってエリザベス女王杯、ヴィクトリアマイルと不本意な結果に終わったものの、前走の鳴尾記念②着で復調の兆しを見せ、今回は1番人気に推されることとなった。
2番人気にもディープインパクト産駒の4歳馬であるダノンファンタジー。2歳女王に輝いたあとはトライアル勝ち→本番負けの歯がゆいレースが続き、今年も阪神牝馬S、ヴィクトリアマイルといずれも⑤着に終わっているだけに、今回はローズS以来の勝利が欲しいところだ。以下、芝1800mで重賞2勝のフェアリーポルカ、京成杯AHを連覇したトロワゼトワルまでが単勝10倍を切ったが、最低人気のサムシングジャストでも20.9倍。8頭立ての少頭数戦ということもあるにせよ、さほど差のないメンバー構成ではあった。
人気を概観したところで話を冒頭に戻す。府中牝馬Sは上がり重視と述べたが、今年はあいにくの重馬場。道悪の巧拙によって切れ味を削がれる馬が出てくれば、思わぬ脚を見せる馬も出てくるかもしれない。データ通りの上がり勝負になるのかどうか、こうなると見極めるのはなかなか難しい。
かくなるうえは、先に結果を見てしまおう。人気のディープインパクト産駒2騎、ラヴズオンリーユーとダノンファンタジーは末脚不発の⑤⑥着。その一方で、同じディープインパクト産駒のサラキアが上がり1位を記録して①着となり、同じく3位のシャドウディーヴァが②着、同2位のサムシングジャストが③着と、速い上がりを使った馬が馬券圏内を独占した。
つまり、ミクロで見ると道悪の影響があった馬はいたと思われるが、マクロで見ると例年通りの上がり勝負という、微妙にねじれた決着となった。8頭立てながら7番人気→6番人気→8番人気の人気薄3頭で決まる波乱となったのも、そう考えると仕方のないことだったのかもしれない。
今から思い返せば、シゲルピンクダイヤがゲート入りを嫌がって発走が遅れたことも波乱の予兆ではあったか。もっとも、同馬は前走でも同じように枠入りを嫌がり、再審査に合格して出走停止期間が明けたばかり。この馬も4歳になってから苦戦が続き、復調のきっかけをつかみたいところなのだが、馬生は思うに任せないものである。
それでもなんとか全馬態勢が整ってゲートオープン。快速馬のトロワゼトワルがハナを切るのは予想通りで、ダノンファンタジー、フェアリーポルカ、ラヴズオンリーミーといった人気どころが続いていく。1000m通過は59秒6。昨年の京成杯AHを55秒4で飛ばして逃げ切ったトロワゼトワルにとってはなんてことないかもしれないが、重馬場にしては結構なペースだ。
さすがに8頭立てでゴチャつくことはなく、4コーナーを回って直線へ。ラチ沿いを逃げるトロワゼトワルは残り400mを切ってもまだまだ粘っている。むしろ、前半から追走していた人気の3頭の動きが悪く、後方待機勢たちが追い上げてきた。まずはサラキアが大外から一気に突き抜けると、次いでシャドウディーヴァが馬群を割り、最後にインからサムシングジャストがトロワゼトワルをクビ差かわして③着に上がった。
勝ったサラキアは重賞初勝利を飾るとともに、毎日王冠を制した半弟サリオスに続く東京芝1800m重賞制覇ともなった。前走の小倉日経オープンを上がり1位で制し、ここでも上がり1位を記録。それにしても、今年のエプソムCでは不良馬場のなか⑬着に終わっていたのに、同コースかつ道悪の似た条件で今度は末脚が炸裂。これが血の勢いというものなのか。
かと思えば、不良馬場の中山牝馬Sを勝ったフェアリーポルカは、ここでは最下位の⑧着に終わった。太め残りだった前走から馬体重も絞れ、実績に加えて父ルーラーシップなら道悪巧者なのかとも思ったのだが、意に反して結果は出ず。これは血の不思議というものなのか。