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速攻レースインプレッション

「新時代の申し子」が長くて重い、閉ざされた歴史の扉を開いた

文/山本武志(スポーツ報知)


昔、現役時代に親しくさせていただいた橋口弘次郎元調教師から何度も聞いてきた言葉がある。「とにかく、勝負事というのは流れが大事なんだ」。これは自身の管理馬についての話の中でよく出てきたものだが、大局的に競馬を見た時にも、この言葉を頭をよぎることがある。例えば日本馬が海外遠征で立て続けに活躍する時期があれば、G1戦線で人気馬が負け続ける年もある。明確な因果関係が分からずとも、何かしらの連鎖反応としか思えない流れが、今までも数多くあった。

さて、ここで今回の天皇賞・秋である。秋華賞でデアリングタクトが史上初の無敗での牝馬3冠を決め、菊花賞ではコントレイルが父ディープインパクト以来、15年ぶりに無敗での牡馬3冠を決めた。競馬界で次々と大偉業が達成されていく潮流。その中でアーモンドアイ芝G1・8勝に挑むことになった。普通に考えれば「いい流れ」となるが、秋華賞や菊花賞の取材で感じたのは注目度の高まりと比例するように上がっていく当事者たちのプレッシャー。歴史を背負う、という意味をそれぞれがかみしめていた。

特に今回は「8勝の壁」とも言われる難題だった。最多タイの7勝までたどり着いたのはディープインパクト、ウオッカ、古くはシンボリルドルフなど計6頭いたが、もう1勝が届かない。実際、アーモンドアイ偉業達成のかかった安田記念は完敗の②着。長くて重い、閉ざされた歴史の扉だった。

レースは前半1000mが60秒5という緩やかな流れ。ただ、この日の東京芝は朝から前半の時計がかかるわりに、上がりの非常に速い競馬が続いていた。その中でアーモンドアイを好位へ導いたルメール騎手の選択はベストと言える。直線ではラスト300mあたりまで内で逃げるダノンプレミアムを見ながら、追い出しを待つ姿に一瞬心配したが、結果的に十分な手応えが残っていたからこそ。上がり33秒1でダノンプレミアムをとらえると、ゴール前ではフィエールマンクロノジェネシスが迫ってきたものの、半馬身差で危なげのない完勝だった。

アーモンドアイのすごさを今さら、細かく取り上げる必要もないだろうが、キャリア14戦という点は驚かずにいられない。14戦というのはディープインパクトの引退、つまりはG1・7勝達成時と同じ。ただ、ディープの競走馬生活が2歳12月のデビューから約2年に対し、アーモンドアイは2歳8月のデビューから、すでに3年2ヵ月が経っている。しかし、まだ14戦なのだ。

その戦績を振り返ると3歳春の桜花賞から出走レースはすべてG1。牧場と連携を取り、しっかりと間隔を空けて、フレッシュな状態で送り出すことを重視した。それでいて、狙ったレースでしっかりと結果を出してきたことは牝馬3冠達成や、この日の快挙が示す通り。新たな競馬のスタイルを確立した、まさに「新時代の申し子」と言えるのではないだろうか。

②着のフィエールマンは天皇賞春の連覇など長距離中心の起用で、中距離へは久々の投入。先述したように、この日の速い上がりを要求されるような競馬は本来厳しかったはずだが、ラスト1ハロンからの伸び脚はすごかった。前哨戦のオールカマーを発熱でパスしたため、天皇賞春からの直行となったが、中距離の流れに一度慣れていれば、逆転のシーンもあったのではないか。そう思えるほど、インパクトの強い脚だった。十分に中距離戦線でもトップを張れるだけのポテンシャルを秘めている。

③着のクロノジェネシスは序盤の位置取りが厳しくなったうえ、今まで上がりの速い競馬にも対応はしてきたが、どちらかと言えば長くいい脚が持ち味のタイプ。この日の馬場では上位2頭の方に分があったと見るべきだろう。とはいえ、上がり32秒8を繰り出し、④着以下には決定的な差をつけている。改めて、牡馬相手の一線級相手でも上位の存在であることは間違いない。

さて、アーモンドアイに話を戻そう。おそらく、現役でその走りを見られるのはあと一回。どこを走るんだろうと考えていると、ふと秋華賞のレース後を思い出した。②着のマジックキャッスルについて取材を受けていた国枝調教師が、横を通り過ぎようとする杉山晴調教師「ジャパンCで待ってるからな!」と笑顔で声をかけたのだ。

新記録を達成した今、もしジャパンCで新旧3冠牝馬対決が実現すれば…、そこにコントレイルも入ってくれば…。競馬記者である以前に、一競馬ファンとしてたまらない。外国馬が来なくても、間違いなく世界に発信できるレースにもなるはずだ。この夢が現実になることを祈りつつ、今後の動向を見守りたいと思う。


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