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速攻レースインプレッション

これが競馬の底力、3冠馬3頭の物語は永遠に語り継がれる

文/鈴木正(スポーツニッポン)


胸の奥がやけに熱い。競馬を見て、こんな気持ちになったのは、いつ以来だろうか。オグリキャップが引退戦を飾った90年有馬記念以来かもしれない。自分が競馬にのめり込む前にTTGと呼ばれた3頭(トウショウボーイ、テンポイント、グリーングラス)が時代をつくったことがあった。それにならえば、今回はACD(アーモンドアイコントレイルデアリングタクト)決戦だろうか。おそらく後世にいつまでも語り継がれる大激闘。そしてアーモンドアイによる大団円。もの凄いものを目に焼き付けたことで心の奥の興奮がいつまでも冷めないのだ。

アーモンドアイは好スタート。最後の戦いで好発を決めるあたりが千両役者たるゆえんだ。逃げ宣言のヨシオがダッシュしていくが、キセキが主張した。浜中騎手、お見事。3強を倒すには何か奇策を打つしかない。それがこの大逃げだった。

グローリーヴェイズ川田騎手も勝負にいった。大外15番から1角までの間に積極的に切れ込み、4番手を取りに行った。アーモンドアイより前で競馬をする。その信念が見えた。3冠馬なにするものぞ。俺は勝ちに行く。ダービージョッキー2人が、まずは鋭い矢を放った。

アーモンドアイは5番手のイン。理想的なポジション。ルメール騎手は8割方、勝利を確信しただろう。デアリングタクトは7番手。アーモンドアイを視界に入れる位置。悪くない。コントレイルはさらに後ろ。9番手付近。自分の競馬に徹する福永騎手の姿勢が見えた気がした。馬を信用する気持ちが伝わってきた。

1000m通過は57秒9。ただ、キセキの大逃げによるものであり、後続は60秒をわずかに過ぎる程度か。例年通りの平均ペースと言っていいだろう。

直線を向く。驚くのはルメールの落ち着きっぷりだ。グローリーヴェイズの後ろで風の抵抗を抑えながら、残り400mで外に出す。何という冷静な判断。一方、3歳3冠2頭は外に進路を取った。一気に噴き上がるコントレイルデアリングタクトもスパートをかけたが、外からコントレイルプレッシャーをかけられ、進路を内にずらさざるを得ない誤算が起きた。オークスほどではないが、わずかなロスの発生。これによりアクセルを踏み遅れた。

その間にぐんぐんとスピードを上げるアーモンドアイ父ロードカナロアの本質がそろそろ出るんじゃないか、2400mはそろそろもう長いんじゃないか。そんな外野の声を一掃するもの凄い決め手。アーモンドアイは最後までアーモンドアイだった。中3週でも関係なかった。芝G1・9勝目日本競馬史上最強の名にふさわしい、堂々のゴールだった。

外から迫ったのはコントレイルだった。メンバー中、上がり最速の34秒3。無敗3冠はどれも強い競馬だったが、これまでのどのレースよりもコントレイルの強さを見せた銀メダルだった。この相手で、外から、これだけの脚を使える。これだけの迫力をもってアーモンドアイに迫れる。3冠ロードで見せてこなかった、もう一段上のギアを見せた気がした。ついに本当のコントレイルが顔をのぞかせた。そのことがうれしい。だから強いライバルに向かっていくことは大事なのだ。連勝はストップしたが、コントレイルはもっと大きなものをこの②着から受け取った。

デアリングタクトが最後に③着を確保したことは大きな意味がある。これによって、より、後世に語り継ぎやすい名勝負となった。前述のようにコースを切り替えるロスがあった。それでも最後、接戦の末に銅メダルを奪い取ったことは3冠牝馬の意地だ。

ただ、デアリングタクトはあまりにも正攻法すぎたかもしれない。アーモンドアイの直後を狙いにいくなり、インにこだわるなり、何か打てる手はなかったか。最強馬アーモンドアイでも過去の栄光の中にはインから抜けた効率のいい勝ち星もある。ずるさ、というと響きは良くないが、サッカーでいうマリーシア。駆け引きを身につけてほしいと感じた。そういう競馬だって王道だ。

夢の決戦が終わってしまった。祭りの後。そんな気持ちでボーッとしている。改めて思うのは、このコロナの時代にあっても競馬が継続され、しかもこんな50年に一度の名勝負が実現したことだ。競馬が少しの期間でも中止になっていれば、ダービーやオークスの日程がずれ込み、この決戦は実現していないだろう。強いライバルがいることを承知でぶつけ合った陣営にも大きな拍手を送りたい。激戦になれば、それだけ馬にもダメージがのしかかる。それでもファン最高のカードを提供するためにリスク覚悟で送り込む。なかなかできることではない。

「見せましょう。競馬の底力を」。どこかで聞いたセリフが頭をよぎった。日本中に競馬の底力を見せつけた一戦。3冠馬3頭の物語は永遠に語り継がれる。この速攻レースインプレッションが、このジャパンCを扱ったもっとも速いレース後記なのだとすれば、こんな幸福はない。


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