速攻レースインプレッション
来年の活躍にも期待を抱かせる馬が勝利する締めくくりになった
文/浅田知広
その年の中央競馬を締めくくる大一番、グランプリ・有馬記念……、などというのは良く目にするフレーズだ。ただ、このところは有馬記念のあとにもう1日という年が多く、そこにまた「G1」ホープフルSがあると、有馬記念を「締めくくる大一番」と言い切ってしまうのもどうなのか。今年はそんな疑問を抱えることなく、すっきり締めくくる開催日程になった。
今年も十分な実力馬たちが揃ってくれた有馬記念となり、その筆頭格は、半年前に宝塚記念を制したクロノジェネシス。秋初戦の天皇賞も僅差③着に入り、堂々ファン投票1位・1番人気での出走だ。
天皇賞・秋でそのクロノジェネシスに先着(②着)したフィエールマンが2番人気。こちらは今年初戦となった天皇賞・春で連覇を達成。そして前走が秋の天皇賞と、今年はまだ2戦のみという珍しい臨戦過程。昨年の有馬記念は積極的に動いて前崩れの展開となり④着に敗退したが、今年は前年以上の結果が期待された。
注目のスタートは、その宝塚記念③着以来の実戦だったモズベッロがかなり大きく出遅れてしまい、キセキも2~3馬身ほどの遅れ。当方、宝塚記念と同じクロノジェネシス→キセキ→モズベッロ(30万馬券)という3連単も100円買っていたのだが。
一方、好ダッシュを決めたのはオーソリティだったが、これを同じ3歳勢バビットが内から交わして先頭へ。1枠2番を活かすべくブラストワンピースが3番手につける積極策を見せ、カレンブーケドールやワールドプレミアは好位の一角。クロノジェネシスやフィエールマンは後方からの追走となった。
と書くと、2周目3~4コーナー中間あたりからのVTR映像を見た人からすれば、間違ってるんじゃないか、と思われてしまいかねないような展開がこの後に待っていた。
人気どころでまず大きな動きを見せたのはフィエールマンだった。「動いた」というよりは「自然とそうなった」くらいが正解かもしれないが、スタンド前でペースが落ちたところで無理に引っ張ったりはせず、後方からじんわりと2番手の外まで上がっていった。
前半の1000m通過(画面表示の参考タイム)は1分2秒2と、馬場状態を考慮してもゆったりした流れ。このままフィエールマンをノーマークで行かせてしまって良いものではないのは明らかで、さて人気どころはどう動くのか。
向正面に入るとカレンブーケドールが中団から徐々にフィエールマンの直後まで接近。そして後方にいたクロノジェネシスやキセキが動きはじめたのは向正面半ばあたり。同時にブラストワンピースは後退(心房細動)してしまったが、3コーナーにかかるあたりではもう、フィエールマンもカレンブーケドールもクロノジェネシスもみんな前。ここから自力勝負の展開だ。
直線に入ると、フィエールマンがすぐに先頭にかわり、2番手には外からクロノジェネシス。2頭の間でカレンブーケドールは手応えが見劣り、フィエールマンとクロノジェネシスの一騎打ちかという態勢になった。
そこに大外から襲いかかったのが、なんと11番人気のサラキアだった。有力どころが動いた向正面でも、後方でじっくり脚を溜めて直線一気。クロノジェネシスとフィエールマンの争いからは残り100mでクロノジェネシスが前に出て、2頭の勝負はここで決着。しかし脚色は大外のサラキアが抜群で、果たして③着止まりか、②着まで上がるのか、はたまた先頭まで突き抜けるのか。大接戦のゴール前となったが、最後はクロノジェネシスがサラキアをクビ差で抑え、春秋グランプリ連覇を達成した。
昨年の秋華賞でG1初制覇を達成したクロノジェネシス。今年は2つのG1タイトルを重ね、文句なしに牡馬も含めたトップホースの仲間入りを果たす1年となった。中央競馬のラストG1、今年は「ホープフル」Sではなく有馬記念だったが、来年の活躍にも期待を抱かせる馬が勝利を手にする締めくくりになったと言えるだろう。再びグランプリで強さを見せつけるのか、それとも海外やジャパンCか、さてどんな路線になるだろうか。
一方。「惜しい」「残念」「もったいない」といろいろ言葉が出てくるのがラストランのサラキア。こちらは繁殖馬として、今度は多くのファンで埋まる競馬場を沸かせる子どもたちを送り出してほしいものだ。