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速攻レースインプレッション

今年もスペシャリストが輝きを放ってみせた

文/山本武志(スポーツ報知)


競馬記者となって、もう15年が過ぎた。経験を積み重ね、もう数万レースも予想をしていると、自分の中で勝手な思考回路が出来上がったりする。例えば未勝利戦。芝からダートに矛先を変えてきた時は適性の吟味より、今まで戦ってきた相手関係を重視して、積極的に重い印を打つ。芝の方が強いメンバーに揉まれていると思っていて、これと同じ考え方でマイルから距離を短縮してきた組も結構、重視する傾向があると思う。

今年の春の短距離王決定線。カギは「新興勢力」だった。1番人気に推されたレシステンシアは昨秋から徐々に距離を詰めてきたとはいえ、今回が初の6ハロン戦。一昨年にはマイルG1・2勝で最優秀短距離馬に輝いたインディチャンプもスプリント戦への出走は今までない。さらに3年前の阪神JFを制して2歳女王に輝いたダノンファンタジーなど、18頭中6頭が6ハロン戦未経験。今までにないメンバー構成だった。

レース前。少し気になって、過去の勝ち馬の名前を見た。キンシャサノキセキ、カレンチャン、ロードカナロア、ビッグアーサー、ファインニードル、そして昨年のモズスーパーフレア…。意外だった。もっとマイルなどを主戦場とする地力上位組が名前を連ねていると思ったが、大多数は6ハロン戦を主戦場としてきたスプリンターたち。この大一番はお試し的な感覚では取れない、スペシャリストたちがもっとも輝きを放つ場所だったのだ。

午後から一気に雨が激しさを増し、馬場は「重」まで悪化。午後の芝のレースでは徐々に各馬の進路取りが外へシフトしていったが、序盤から生粋のスプリンターで昨年の覇者でもあるモズスーパーフレアが敢然とハナを切る。前半3ハロン34秒1と力を要す馬場では厳しいペースで飛ばしながらも、内ラチ沿いをぴったりと回りつつ、ラスト50m近くまで先頭で踏ん張り通す。

その光景もゴール前で一変。馬場の真ん中から外にかけて、各馬が一気に脚を伸ばす中、1番人気のレシステンシアをねじ伏せるようにクビ差だけ前に出たのは6ハロンでメンバー中、モズスーパーフレアと並んで最多タイの7勝を挙げるダノンスマッシュだった。

このレースで過去2年は④⑩着。どちらも上位人気に支持されながら、結果を出せなかった。レース前日。安田隆行調教師に過去2年のことについて聞くと、まったく悲観するような表情はなかった。「左回りでも重賞を勝っていますし、その時は色々と条件が合わなかっただけですから」。2年前は内が圧倒的に有利な馬場で外枠(7枠13番)が響き、昨年は道悪で本来の走りができなかった。確かに、敗因ははっきりとあった。

ただ、今年も道悪だったが、しっかりと結果を出した。これはダノンスマッシュ自身の成長ということに尽きる。世界のスプリント王となった父ロードカナロアは強い姿ばかりが印象的だが、重賞初制覇は3歳11月の京阪杯。そこから一戦ごとに地力を強化し、2年連続の香港スプリント制覇など世界制圧につなげた。高い素質に成長が加わったからこそ、あれだけの地位まで上り詰めたのだ。

そして、この勝利を見た瞬間、真っ先に安田隆行調教師のことが頭をよぎった。自らが手がけ、誰よりも愛した父ロードカナロアの子供でようやく送り出せたG1ホース。同じ父を持つアーモンドアイが現役だった頃、G1を勝つたびに、自厩舎の馬のような笑顔を浮かべていたことをふと思い出した。

先週までロードカナロア産駒のJRAの調教師別勝利数を見ると、2位の国枝調教師が15勝に対し、断トツ1位の70勝。暑さに弱かった現役時代の経験なども子供たちの管理で踏まえつつ、その扱い方を誰よりも知るトレーナーがついに悲願を成就した。これでJRAのG1は13勝目だが、6ハロン戦で半分近い6勝。この人もまた、スプリント戦の勝ち方を知る「スペシャリスト」だった。

レシステンシア武豊騎手のケガによる急きょの乗り替わり、初距離など決して楽な条件ではなかったが正攻法で踏ん張っての②着。インディチャンプはスムーズに流れに乗り、巧みに内をさばいてきたが③着だった。ともに今後もこの距離で経験を積み重ねれば面白い存在になっていくかもしれないが、地力の高さは十分に示した形だろう。

ただ、個人的に驚いたのは外差し馬場にシフトしていた中で自分の競馬を貫いた末に⑤着と踏ん張ったモズスーパーフレアと、16番人気の低評価ながら最後にしっかりとした脚で追い込んだ④着のトゥラヴェスーラ。今年も、いや、今年は特にスペシャリストたちがその走りで自らの意地と誇りを証明したような気がする。


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