速攻レースインプレッション
馬の強さ、完璧な騎乗が噛み合って完勝
文/鈴木正(スポーツニッポン)
優勝したエフフォーリア・横山武史騎手が左腕をスタンドに向けて伸ばし、人さし指を1本掲げたシーンを見て、父・横山典弘騎手が1998年にセイウンスカイで制した皐月賞を思い出した。ゴール後のポーズはまったく同じ。無意識のポーズだったのか。そうなら父子の血の濃さを感じるし、もし意識的に同じポーズをしたのなら、そこまで22歳の若手に気持ちの余裕があったのかと驚く。
完璧な騎乗ぶりだった。道中は4番手の内。力み気味の馬もいる中、万全の折り合いだった。このあたりがデビューからすべて手綱を取り続けてきた強みだろう。4角手前が勝負どころ。目の前にワールドリバイバルとタイトルホルダーがいた。両馬ともに下がれば進路がなくなり万事休すとなる。ワンテンポ待ってもおかしくない場面だが、横山武史騎手は馬を叱咤して前に出した。ワールドリバイバルが後退し、エフフォーリアはタイトルホルダーの直後につけた。ここで進路ができる。タイトルホルダーが1頭分、外に進路を取り、エフフォーリアの前にスペースができた。まさにVロードが開けた。
横山武史騎手が白星を積み重ねる理由を見た気がした。初クラシックが目前という、自分を見失ってもおかしくない状況下で、タイトルホルダーにまだ脚がある(バテて下がってこない)ことを判断できる冷静さ。そして、そのジャッジを馬に伝えて前に押し出せる決断力。さらには、タイトルホルダー・田辺騎手の内1頭分が空くだろうという読みだ。
田辺騎手の乗り方の癖、パターンを分かっているのか、直線ではあの位置を走りに行くだろうと読んでいたのかもしれない。だから、ワールドリバイバルとタイトルホルダーの間1頭分は空くと信じたのだろう。結果的には3馬身差を付けたわけで、タイトルホルダーの外に持ち出すロスがあっても勝ったと思うが、それはそれ。横山武史騎手の才能の一端を4コーナーでの攻防から見て取れた。
先頭に立ってからは馬の強さが際立った。先頭に立ち、あっという間に1馬身半差。坂でしっかり我慢し、坂上でもう一度ギアを上げて3馬身差、完勝。パワーのいる馬場での平均ペースでの戦いはエフフォーリアにとってもっとも望む条件だったという可能性もあるが、それを考慮しても強かった。
父・横山典弘騎手は22歳の時、メジロライアンとともにクラシックを戦い、③②③着。その後に父が積み上げた実績は素晴らしく、今回の優勝で父を超えたなどと言う気持ちはさらさらないが、父と比較できるような騎手に成長するであろうことは確信できた。
横山武史騎手のデビュー前、横山典弘騎手と話した。父子で乗れるうれしさより、周囲に迷惑をかけずに乗れるか、そっちの方で頭いっぱいと話していた。そうですよねと同意したが、その後にぼそっと語ってくれた。「でもね、いい騎手になる気がするんだよ」。その言葉は頭からずっと離れなかったが、この皐月賞Vで確信できた。この度胸。この情報分析力。この判断力。この決断力。これらが父が息子を高く評価した理由だろう。横山武史騎手は棋士が正しい手を打ち続けて勝ったかのように、正確なジャッジを続けて理詰めで皐月賞を制したように自分には見えた。
②着タイトルホルダーは、田辺騎手が最高の乗り方でこの結果を引き出したと思う。菊花賞⑤着馬メロディーレーンの弟。姉と同じく本番で強いタイプか。③着ステラヴェローチェ。4コーナーでは勝ち馬とほぼ同じところを回ってきた。先週の桜花賞をソダシで勝ち、近年、白星を量産している吉田隼人騎手の手綱。さすがの分析力と言うべきだ。パドックでの雰囲気は素晴らしかった。これまたソダシの須貝尚介厩舎。貫禄の仕上げだったと思う。
そして1番人気で⑮着に大敗してしまったダノンザキッドに触れないわけにはいかない。パドックから力みが見られた。トモの膨らみは素晴らしく、陣営の仕上げは申し分なかったはずだが、馬体重が減っていて、輸送で消耗したのかもしれない。道中も力んだ。4コーナーで川田騎手が促して上昇したが…直線では余力をなくして下がっていった。
ネット上には「ダノンザキッドがこんなに負けるなんてショック」といった言葉がいくつも見られた。現代競馬は有力馬といえど能力が接近し、ちょっとしたボタンの掛け違えで大敗もあり得る。これで終わるような馬ではないだろう。しっかりと立て直して大舞台に戻ってきてほしい。