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速攻レースインプレッション

鮮やかな復活劇には頭が下がる思い

文/鈴木正(スポーツニッポン)


ダノンキングリーの勝利を目の当たりにして、競馬の奥深さをまた教えられた気がした。昨年の天皇賞・秋⑫着以来、7ヵ月ぶりの実戦が悲願のG1制覇。この大逆転劇は競馬という枠だけに収まらない大アップセットだったように思う。長く語り継がれて不思議ない復活劇だったのではないか。

長くトレセン取材をしてきた身としては、まずは陣営の苦労に目が行く。天皇賞の後、なかなか体調が戻らなかったようで、ようやくメドが立つと、4月1日に早々とトレセンへ。そこからの調整過程が注目に値する。5月の上旬はウッドチップコースで追い切ったが、そこからは南B(ダート)コース中心の調整に切り替え、追い切りも同コースで行った。

ダートコース中心の調整と聞いて、取材陣が考えることはいくつかある。まずは脚元のことを考えて負荷が掛からないようにしているのではないか、ということだ。そう考えて印を回さなかった予想者もいただろうし、その影響で8番人気にとどまった可能性はある。予想サイドとしては猛省の材料だが、過去の例から考えて致し方ないとも思える。

一方で、ダートコース中心の調整によるメリットもある。ウッドチップコースに比べて入る馬が少ないので混雑がなく、気持ちが過剰に高ぶらない。ダノンキングリーにとっては、この効果が大きかったように思える。非常に真面目な馬という印象のダノンキングリー。ウッドチップコースに入るたびに「また追い切りか。カリカリした馬が多いな。しんどいな」と考えていたかもしれない。ダートコースに入ることで気分が紛れたり、精神的に追い込まれることがなくなったのであれば、そのメリットは大だろう。もし、昨年の天皇賞の敗因が精神面にあったのなら、気持ちを立て直す効果は大いにあったのではないか。

川田騎手のエスコートも素晴らしいものだった。スムーズにスタートを切りつつ、まずはグランアレグリアの横に付けた。そして前へ。グランアレグリアを後ろから差すことが難しいことを考慮すれば、「グランアレグリアの雰囲気を感じながらグランアレグリアより前にいる」という位置はベストと思えた。関係者がよく使う表現を当てはめれば「4列目の外」。1000m通過57秒8というペースから考えても、ぴたり勝負圏だった。

4角を回ってスムーズに外へ。これまでのダノンキングリーはエンジンの掛かりが少し遅い印象だったが、今回はそうではなかった。気持ち的にリフレッシュされていたのと、道中で川田騎手が完璧に折り合わせ、ストレスの少ない位置で回れたことが大きかったのだろう。直線ではシュネルマイスターとの叩き合い。4キロ差ある3歳馬をねじ伏せ、馬群を突いて伸びてきたグランアレグリアもアタマ差抑え切った。

元々、休み明けは得意な馬だが、今回ばかりはもっと深い苦労があったであろうダノンキングリー牧場厩舎が必死の調整で馬の気持ちを立て直し、最後は川田騎手が最高の形でゴールへと誘導した。鮮やかな復活劇には多くの人の苦悩と汗があったはずだ。頭が下がる。

単勝1.5倍の支持を受けながら②着に敗れたグランアレグリア。これが競馬の難しさだ。生涯初の中2週。影響は、やはりあったと言うべきだろう。スタートして馬のリズムに任せ、11番手。欲を言えば、もう少し前にいたかったはずだ。ベストは勝ったダノンキングリーがいた位置。1列前だ。

ここから先はグランアレグリアの気持ちを想像するしかないが、さすがにG1連戦で前走のような「ドンと来い」という気持ち、テンションを馬がキープできなかったのではないか。人間だって大きな仕事が舞い込んで残業が続けば、朝、スキッとは起きられないこともある。人間に例えて想像すると、グランアレグリアの遅めのスタートは、G1業務の連続でスキッとダッシュできなかった感じか。

勝負どころで外に出せなかったことも大きい。道中はケイデンスコールが、4角手前からはカテドラルが外にいて、進路を確保する機会を失った。圧倒的1番人気馬の宿命だ。直線では半ば強引に進路を取った感じだったが(過怠金が発生)、ダノンキングリーにアタマ差届かなかった。

昨年は単勝1.3倍のアーモンドアイを3番人気の身で打ち破ったが、1年たって今度は自らがアーモンドアイの立場となり、同じ②着に敗れた。勝負というのは本当に難しい。大本命馬となった時こそ、戦い方が一気に難しくなる。とはいえ、グランアレグリアはよく戦った。外野が思う以上に中2週は厳しかったと思うが、②着を確保したことは称賛に値する。素晴らしいトライだった。

競馬は馬が走るスポーツだが、ターフに送り出すまでにも、さまざまな戦いがある。そしてそこでの成否がレース中に少しずつ表れる。それもまた競馬の大きな魅力だ。そういった楽しみをくれた①②着馬に(③着以下の馬にも)大きな拍手を送りたい。


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