速攻レースインプレッション
強烈で決定的な2馬身半差、大きな賞金加算になったはず
文/木南友輔(日刊スポーツ)
朝から小雨が降り続いた福島競馬場、JRAの3歳限定競走で唯一のハンデ戦「ラジオNIKKEI賞」は昨年に続く稍重発表の芝で行われた。
開幕週の福島競馬場。例年とは大きく異なるのが、春の福島開催が地震のために行われず(新潟で代替開催)、夏の福島が"今年最初"の福島開催だったこと。取材中、厩舎関係者とは「春に使わなかった分、芝は結構な高速馬場になるかもしれないね」などと話していたのだが…。終わってみれば、例年同様の時計がかかる状態。土日のレース全体で極端に前が残る傾向や上がりが速くなる傾向はなかった。上がりのかかるタフな馬場。展開次第で差し追い込み馬が台頭する競馬になることも十分考えられた。
ハナを切ったのは岩田康騎手のノースブリッジ。他にも逃げ馬候補はいたが、しっかり主張していくのが、さすが百戦錬磨のベテランだ。2走前の葉牡丹賞(中山)は同騎手が乗って、4馬身差の逃げ切り。ツメの不安で実戦から長く離れ、復帰戦の青葉賞は⑬着に敗れたが、ここは距離短縮で強気の競馬に出てきた。
同じ芝1800mで行われた前日土曜10Rの松島特別(2勝クラス)が1000m通過59秒7。稍重に悪化していたが、1000m通過が60秒7だから重賞ではスローペースの部類だったのではないか。うまく2番手からインに控えたのがワールドリバイバルの津村騎手。テン乗りだったが、過去のレースを研究していたのだろう。逃げなくても競馬ができると確信しているようなレース運びだった。
3コーナーで馬群が凝縮し、4コーナーで大きく外に広がって、直線の末脚勝負。スローの流れで外をまわる馬には厳しい展開だったが、真ん中を1頭だけ別格の脚で伸びてきたのが、ヴァイスメテオールだった。昨年バビットの5馬身差も強烈だったが、この2馬身半差も強烈だし、決定的だった。個人的にこの勝ちっぷりは2015年のアンビシャスに近いものが感じられた。
昨秋の東京、デビュー週の取材で「まだまだ全然緩くて、この仕上がりで新馬戦を勝つようだとクラシックにいけるんじゃないかな」と木村厩舎のスタッフが言っていた素質馬がヴァイスメテオール。その新馬戦はジョッキーが何度も後方を振り返る着差以上の楽勝だったのだが、その後は京成杯④着、不良馬場の中山1勝クラス①着、プリンシパルS④着で春のクラシックには縁がなかった。
今思い出しても厩舎スタッフのあの惚れ込み方は半端ではなかったし、歯車がかみ合えばG1も狙えるポテンシャルを持っているはず。お母さんのシャトーブランシュは5歳夏にマーメイドSを勝っているが、3歳夏の小倉で500万(現1勝クラス)を勝って、秋はローズS②着から秋華賞というローテをたどっている。ヴァイスメテオールも古馬になって完成する印象があるキングカメハメハ産駒。路線は未定だが、秋へ向けて、大きな賞金加算になったと思う。
ハンデ戦になった2006年以降、トップハンデで勝ったのは2015年アンビシャス(56.5kg)、2018年メイショウテッコン(56kg)の2頭。今年はアーリントンC②着&NHKマイルC④着のリッケンバッカー、スプリングS②着のアサマノイタズラがトップハンデの56kgを背負ったが、前者は2番人気で⑨着、後者は直線で狭くなるシーンもあり、⑫着に終わった。機動力が活きる小回りの福島が舞台だし、3歳夏の時点で重いハンデを背負うのはあらためて酷だと感じた。1番人気ボーデンは後方から外をまわる展開。チグハグにも見えたが、それでも⑥着までよく追い上げていた。
ハンデ戦になる以前も含め、面白いのはラジオNIKKEI賞の②着馬にその後、G1で活躍する馬が多くいることだ。2004年②着カンパニー(2009年天皇賞・秋とマイルCS制覇)、2006年②着ソングオブウインド(同年菊花賞制覇)、2007年②着スクリーンヒーロー(2008年ジャパンC制覇)、そして、2018年フィエールマン(同年菊花賞制覇、2019&20年天皇賞・春連覇)。
小回りの福島芝1800m、蒸し暑い梅雨時期のタフな馬場…、勝つことはできなくても、ここで頑張った経験がいつの日か活きてくる。ワールドリバイバル以下、敗れた馬たちの今後にも注目していきたい。