速攻レースインプレッション
今年もドンピシャリの血統を持つ馬が勝利した
文/出川塁
函館記念といえば荒れるハンデ重賞としておなじみだ。その最たる例が昨年で、15番人気のアドマイヤジャスタが勝ち、②着にも13番人気のドゥオーモが入って3連単343万2870円の大波乱となった。
前半1000mが58秒8という洋芝にしてはかなりのハイペースになって、上がり4Fは12.0-12.1-12.4-12.6という消耗戦。この流れを作って④着に残ったトーラスジェミニの粘りは大したものだが、基本的には差し馬が台頭する展開で、①②着馬も中団より後ろからレースを進めていた。
これは函館記念の典型的なパターンで、前が崩れて欧州系のスタミナ血統が台頭する例は枚挙に暇がない。具体的にはSadler's Wells、Nijinsky、Roberto、Mill Reefといった血を持つ馬がここ20年馬券になり続けている。昨年の①②着馬にしても、アドマイヤジャスタの母の父エリシオは、その父Fairy KingがSadler's Wellsの全弟にあたる。また、ドゥオーモは母がRoberto3×4のクロスを持っている。
そして、ここに時計を絡めるとある傾向が見えてくる。かつては2分を超える決着が当たり前で、当時は3連覇したエリモハリアーのほか、クラフトワーク、キングトップガン、トランスワープと「サンデーサイレンスの血を持たない欧州血統の馬」がよく勝っていた。
一方、2分を切った年はマイネルスターリー、トウケイヘイロー、ダービーフィズなど「欧州系とサンデーの血を併せ持つ馬」が勝つことが多い。1分59秒7で決まった昨年、①②着のアドマイヤジャスタとドゥオーモの母方に欧州の血が入っているのは前述した通りだが、父はどちらもサンデー系の種牡馬だ。近3年は1分59秒台の決着が続いており、現在はこちらの血統が主流とみてもいいだろう。
今年の函館記念で最大の注目を集めたのは、初めて芝に出走するカフェファラオだったのは間違いない。ただ、父方、母方ともにほぼ米国系の血が占める血統構成で、函館記念の好走パターンからはかけ離れていた。強いてプラス材料を挙げるとすれば、母の父More Than Readyが北海道の洋芝でよく好走していたサザンヘイローの系統ということだが、それは主に1200mの話である。名伯楽の堀宣行調教師がレースを選び、ルメール騎手が騎乗するとしても血統派としては手を出しづらい馬だった。
だから⑨着という結果に驚きはないのだが、着順だけで判断することはできないレース内容だったことも確かだ。ゴール前の100m弱は狭いところに入って満足に追うことができず、それでいて②着馬とは0秒2差。トップハンデの58.5キロを背負い、距離もベストより長いだろう2000mだったことも考慮すれば、少なくとも私の想像より遥かに走った。ユニコーンSからかしわ記念まで1走おきに勝ち負けを繰り返してきた馬でもあり、次も芝を使ってくるようなら軽視できない。
ここまで勝ち馬にまったく触れずにきて申し訳ないのだが、トーセンスーリヤはまったくの完勝だった。昨年より速い前半1000m58秒5の流れを3番手で追走し、4角先頭から3馬身突き放してみせた。父がSadler's Wells系のローエングリンで、母の父はデュランダル。まさしく「欧州系とサンデーの血を併せ持つ馬」で、いまの函館記念にはドンピシャリの血統を持つ馬だった。
②着以下は大接戦で、⑥着までタイム差なし。特に②着アイスバブルと③着バイオスパークはスローVTRでもわからないほどの僅差で、勝ったトーセンスーリヤを除き、⑨着のカフェファラオあたりまでは展開ひとつでいくらでも着順が入れ替わりえたように思う。
そういうレースだけに穏当な決着とはいかず、昨年ほどではないとはいっても3連単の配当は20万を超えた。トーセンスーリヤは単勝以外のオッズ動向からして実質的な1番人気馬と言っても良さそうだが、②着のアイスバブルが14番人気で③着バイオスパークも12番人気。特にバイオスパークは昨年の③着時が3番人気で、当時より2キロ重いハンデ57キロとはいえ必要以上に人気を落としていた印象を受ける。
さらに難しかったのはアイスバブルで、2019年と2020年に連続②着の得意レース・目黒記念で⑧着に敗れた直後、実績のない2000m重賞での激走だった。ただ、出走した3回の目黒記念を振り返ると、好走した2回のレース上がりが35秒8、35秒9だったのに対し、今年は3秒も速い32秒8。条件戦時代から遅めの上がりで好走しており、超スローの上がり勝負に苦しんだのだろう。それが函館記念では一転して上がり36秒0。距離実績はなくとも対応可能な上がりになり、一気に差し込んできた格好となった。