速攻レースインプレッション
厩舎ゆかりの血統馬が最後の一冠で劇的な勝利
文/木南友輔(日刊スポーツ)
今年の秋華賞予想の最大のポイントは"阪神開催"だと思っていた。美浦であるジョッキーに「秋華賞って毎年追い込み競馬になるじゃないですか? 今年はどうなるんでしょうね」と聞かれた。なるほど、「確かに京都内回りを意識し、前残り狙いの予想で失敗ばかりしてる気がする」。過去の反省が浮かんできた。
"白毛のアイドル"ソダシが戦前の圧倒的な主役。この馬が好位にいると、競馬はどうなるのか。阪神内回りは「序盤がスローになりやすく、先行馬有利になりやすい」という認識。特に「タフな馬場になると、差し・追い込みがまったく利かない馬場になる」こともある。例年と異なる秋華賞。そう思いながら、天気予報とにらめっこし、馬場傾向に思いをめぐらせ、初心に帰った。そもそも「ソダシは絶対的な存在」なのか…。
札幌記念のときもこの「速攻レースインプレッション」を書かせてもらった。重圧の中で参戦する英断をたたえ、レース運びも称賛させてもらった。ただ、「白毛のクラシックホース」という点は歴史的な存在ではあるけど、阪神JF、桜花賞、札幌記念はいずれも紙一重の勝利。距離不安があり、序盤で揉まれたオークスは⑧着に敗れた。阪神外回りマイルのスピード勝負では無類の強さだが、阪神内回り2000mでは絶対的な存在ではないのかも…。
阪神は土曜の競馬終了後から降雨があり、日曜の芝は稍重発表のスタートになった。同じコースの6R(1勝クラス)は2分2秒9の決着。レースの上がり3ハロンは36秒2。良馬場に回復したが、高速馬場ではなかった。そして、前が残る。自分は東京競馬場で取材だったので現地の状況はわからないが、かなりの強風で、タフなコンディションになっていた。
こん身の◎はエイシンヒテン。クイーンCや忘れな草賞で逃げる形になれば、しぶといのは証明済み。期待して◎を打った前走ローズSは②着に頑張ってくれた。父を思わせる逸走しそうなコーナーリング、ロスの大きな直線の走り、1週前追い切りの抜群の動き、父は道悪の鬼(イスパーン賞を10馬身差で圧勝)…、印を打つときに迷いはなかった。阪神の3Rと9Rでエイシンヒカリ産駒が勝利し、条件は完璧に整ったと感じていたのだが…。
1000m通過は61秒2。6Rの1勝クラスが63秒3だったので、スローペースではなかったと思う。エイシンヒテンの単騎逃げ。2番手にソダシ。それをマークするようにアールドヴィーヴル、内からはスルーセブンシーズが積極的に運んだ。アンドヴァラナウト、アカイトリノムスメ、少し後ろにファインルージュの人気勢という位置関係。
勝負の分かれ目となったのは、3、4角でエイシンヒテンがペースを一気に上げたところか。ソダシはついていったが、アールドヴィーヴル、スルーセブンシーズは激しく手が動いた。アカイトリノムスメやファインルージュはその後ろで脚をためられた。ここで脚を使った分、ソダシは直線で脚が鈍ったように見えた。札幌記念ではブラストワンピースのマクリに対応し、直線でラヴズオンリーユー、ペルシアンナイトの追撃を封じたソダシだが…。エイシンヒテンが④着に残り、前有利のレースだったという見方もあるだろうが、どちらかといえば消耗戦だったというのが自分の見解だ。
坂を上がって先頭に立ったのがアカイトリノムスメ。内をすくったのがアンドヴァラナウト。外を追い込んできたのがファインルージュだった。最後は関東馬のワンツー。アカイトリノムスメは1週前に戸崎騎手が乗った追い切りが抜群だった。母アパパネ、その母ソルティビッドから続く国枝厩舎ゆかりの金子真人オーナーの血統で、母と同じ福田助手が担当。陣営の喜びもひとしおだろう。
「最後の一冠ということで、この馬に乗せてもらったこともうれしかったですし、勝つことができて良かったと思います。ある程度いいポジションは取ってと思って、馬もスタートが良くて、二の脚もついてくれたので、いいリズムでいけました。(直線は)反応良く伸びてくれて強い競馬だったと思います」(戸崎騎手)
この春の印象的な出来事で個人的に思い出すのは、アカイトリノムスメが2月のクイーンCを勝った後、なかなかその後の予定が決まらなかったこと。理由は戸崎騎手の中東遠征。サウジに行き、ドバイへ行った。「今までの自分は突拍子もないことをするタイプではなかったんですが…」と彼は言っていた。アカイトリノムスメの春のクラシックではなく、チュウワウィザードに騎乗し、世界を相手に競馬する機会を選んだ。「突拍子もない」行動を陣営が評価し、3冠最後の勝利につながった。そう考えると、劇的な勝利だったように思う。
敗れた馬たち、ファインルージュはルメール騎手が状態面に自信を持っていたし、実力を発揮した。アンドヴァラナウトも福永騎手と素晴らしい立ち回りだったと思う。オークス馬ユーバーレーベンはやはりまだ本調子ではなかったのかもしれない…。
最後にソダシについて。レース後に須貝師が「歯が折れていた」と発表したとのこと。詳細はわからないが、レース中のアクシデントで能力を発揮できなかったのかもしれない。ゲートへの突進があったとすると、母ブチコがゲート難だったことと無関係ではないだろう。アカイトリノムスメの母子制覇とソダシの敗戦…、血統が大事なファクターなのだとあらためて感じた秋華賞だった。