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速攻レースインプレッション

これほど美しいG1勝ちもそうはない

文/出川塁


今年の菊花賞は皐月賞馬エフフォーリアが天皇賞・秋、ダービー馬シャフリヤールがジャパンCに出走を予定していて、春の二冠を制した馬が不在で行われることとなった。これはそこまで珍しいことではなく、過去10年(2011~20年)でも2013年、2015年、2019年と3回あった。

スピードが重視される現代競馬において、3000mは評価をされづらい距離。すでにG1を勝って将来の種牡馬入りが見えている牡馬にとって、価値を高めやすい2000mや2400mのG1に狙いを定めるのは合理的な選択と言える。菊花賞がいちばん好きなG1であるにとって残念なことではあるが、それが現実だ。

そうした現状を考えたとき、「それでも勝ちたい馬」が出走してくるのが現在の菊花賞、という見方もできるだろう。たとえば春の二冠で惜敗した馬。あるいは春のクラシックには出走が叶わなかった馬。もうひとつ、本当は適距離とは言えないが三冠が懸かる馬にとっても「それでも」出走したいレースとなるが、今年のパターンではないのでここでは置いておこう。

実際、春の二冠勝ち馬が不在だった過去10年のうちの菊花賞は、春の二冠惜敗馬か不出走馬のどちらかの馬が勝っている。2013年と2015年は前者で、皐月賞とダービーでともに②着のエピファネイア、皐月賞③着のキタサンブラックがそれぞれ最後の一冠を奪った。2019年は後者で、春の二冠には出走していなかったワールドプレミアが菊花賞制覇を飾った。逆に言えば、春の二冠勝ち馬が不在の菊花賞において、皐月賞・ダービーに出走したが馬券に絡めなかった馬が勝つパターンはないということでもある。

今年もどちらかのパターンが踏襲されるのであれば、春の二冠惜敗馬に該当するのは皐月賞②着のタイトルホルダーと皐月賞・ダービーで③着のステラヴェローチェの2頭。あるいは、春の二冠に出走しなかった10頭。勝ち馬はこのなかに潜んでいることになる。

いかんせん計12頭と全然絞り込めていないのだが、今年の菊花賞には42年ぶりの阪神開催というテーマもある。同じく阪神で行われた天皇賞・春は3000mの勝ち鞍がある2頭によるワンツー決着で、③④着にもG1実績がある2頭が入った。高速決着になりやすい京都に比べ、阪神の3000m級G1ではスタミナや地力がより求められそうで、となれば実績で上回る春の惜敗馬が勝つパターンになる可能性が高いのではないか。

となればタイトルホルダーステラヴェローチェか。阪神の菊花賞であれば、鋭い末脚で追い込んでくるステラヴェローチェより、先行して粘り込むタイトルホルダーのほうが適性が合いそうだ。直線で行き場を失った前走セントライト記念⑬着の影響で多少なりとも人気を落としているであろうことや、この週末の阪神は前残り決着が目立っていたことからもますます魅力的に映った。

とはいえ、ゲートが開いて一目散にハナに立ったときにはさすがにうろたえた。が競馬を見るようになってから菊花賞を逃げ切ったのは1998年のセイウンスカイが唯一で、その後の22年間は1頭もいない。そのセイウンスカイにしても39年ぶりのことで、要するに菊花賞は滅多に逃げ切れないレースなのである。

ただし、セイウンスカイとタイトルホルダーには同じ名字のジョッキーがまたがっていた。もしかして、父の再現を狙っているのか。そんなことが脳裏をよぎったのは「1000mを1分ちょうどで通過しました」というレース実況を耳にしたときだった。

果たして、レース後に発表されたラップからタイトルホルダー&横山武史騎手の1000mごとの通過タイムを表すと「60秒0-65秒4-59秒2」。23年前のセイウンスカイ&横山典弘騎手「59秒6-64秒3-59秒3」だから実によく似ている。前半1000mは速めの逃げを打ち、そうすると差しタイプのライバルは追いかけるべきか控えるべきかの判断が難しくなる。前半で少し飛ばしたぶん、中盤1000mはしっかり脚を温存。そして、最後の1000mで再び後続を突き放す。このペース配分が見事に結実し、5馬身差の圧勝で23年ぶりの逃げ切りをやってのけた。

後方で繰り広げられた激しい②着争いを制したオーソクレースは「父エピファネイア×母父ディープインパクト」かつ「Sadler's Wellsのクロス」の配合を持つが、これは昨年の菊花賞②着馬であるアリストテレスとまったく同じ。また、牝馬ながら③着に健闘したディヴァインラヴも同じ父と母父の組み合わせを持っている。この配合馬は今後も数多く登場することが予想され、来年以降の菊花賞でも要注意の血統となりそうだ。

タイトルホルダーの父は今年8月に9歳の若さで急死したドゥラメンテ。その父は春の二冠を制しながら故障のため菊花賞の舞台に立つことはできなかったが、これで2代にわたる三冠達成となった。亡き父の産駒としては最初のG1勝ちで、タイトルホルダーはその血をつなぐ役割も期待される。人馬ともに父から子へとバトンを渡したかたちでもあり、これほど美しいG1勝ちもそうはないだろう。いいレースだった。


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