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速攻レースインプレッション

グランアレグリアらしい引退レースだった、とも言えるだろうか

文/浅田知広、写真/森鷹史


「この馬が強いことは知っているけど、これほどの走りを見せてくれるのか」。さて、グランアレグリアにはこれまで何度、鳥肌の立つようなレースを見せてもらっただろうか。

……、などと思っていたら、先にテレビの競馬中継で同じようなことを言われてしまったのだった。まあ、競馬ファンなら誰しもがそんな感激、驚きを何度も味わってきたということだろう。

マイルCSでのラストランを勝利で飾ったグランアレグリアについて、「こんなに強かったのか」といったことを書いた記憶があるのは2019年阪神Cの『速攻レースインプレッション』だった。1400m戦初出走での圧勝から、この先スプリント路線で云々と、マイルよりも1200m向きという判断も下していた。

実際、翌2020年には高松宮記念②着、スプリンターズS①着と結果を出した。しかし、2020年の残る2戦が春秋マイルG1連覇なのだから、「どちらでも良かった」ということだろう。今年は大阪杯④着、天皇賞・秋③着で「中距離以下の絶対王者」にまでは至らなかったが、そこにも手が届くかという果敢な挑戦をしてくれた上に、きっちり自分の庭では勝利を手にする姿には頭が下がる思いだ。

もちろん、そういったチャレンジができることは相応の力があってこそ。ごく一握りの超一流馬を除けば、自分の持ち場でトップに立つことが最初の目標になる。ただ、その「持ち場」を決めるにあたって少し驚かされたのがシュネルマイスターだった。

弥生賞ディープインパクト記念で②着に敗れたあと、皐月賞を回避してNHKマイルCへ向かうと発表されたのは、弥生賞の10日後くらいだっただろうか。その判断も理解できる一方、最初にこの報に接したときは「え、もうその路線(マイル)に?」という印象だった。

しかし、シュネルマイスターは今春、NHKマイルCを制して3歳マイル王の座に就くと、古馬相手の安田記念にも出走して③着に好走したのだ。今になってみればこのシュネルマイスターの好走がまず、今年の「3歳馬強し」を最初に印象づけたレースだったと思う。

そして迎えたマイルCSシュネルマイスターにとっては今後「持ち場」でトップに立つにあたり、絶対に破っておきたい相手がマイル路線の現役ナンバーワンと言える存在、かつ引退レースとなる予定のグランアレグリア。その最後のチャンスとなる勝負の一戦である。

前走・毎日王冠では出遅れを喫したシュネルマイスターだったが、今回は互角に出て中団のインを確保。一方、天皇賞・秋では先行策に出たグランアレグリアも、今回は後方寄りに待機して、4コーナーでは外めへと持ち出していった。逃げたホウオウアマゾンが作った流れは1000m通過59秒3。マイルG1にしてはゆったりとした流れで、直線での決め手比べが予想された。

早め先頭のサリオスを目がけて2019年の春秋マイル王インディチャンプが襲いかかり、シュネルマイスターはその後ろで前が詰まり気味でやや苦しい態勢。一方のグランアレグリアは馬群の大外でやや伸びあぐねているようにも見えた。

しかし、あとからVTRを見てみれば、このときのグランアレグリア&ルメール騎手はまだまだ手加減した感じの追い方だった。そして「大丈夫なのか?」というところから、とてつもない豪脚を何度も繰り出してきたのがグランアレグリアである。

ルメール騎手が追いを強めると、その瞬間にグイっと加速。わすが数秒のうちに、「大丈夫なのか?」「あ、勝った」に変わった。先頭に立ちかけたインディチャンプをあっという間に交わし去り、前が開いたシュネルマイスターの追撃も3/4馬身差で抑えてマイルCS連覇を飾ったのだった。

いや、グランアレグリアが強いことも、とんでもない末脚(今回の上がりはメンバー中最速の32秒7)を使えることも知っていましたけどね……。グランアレグリアらしい引退レースだった、とも言えるだろうか。

これが最後というのは惜しいところたが、今は名牝の子孫が活躍する時代である。グランアレグリアが仮にもう1年走ったとしても、繁殖入りが1年遅れたこと自体が、その後の日本の競馬界を大きく左右してしまう、なんてこともあり得る話だ。彼女の血を受け継ぐ馬から、数多くの名馬が誕生することを期待したい。

一方、打倒グランアレグリアを果たせなかったシュネルマイスター。3歳の身でこの結果、しかも直線で前がすんなり開いていればもっと接戦になっていたはずで、その健闘を素直にたたえたいと思う。

ただ、仮にシュネルマイスターグランアレグリアの内外が逆だったらどうなっていたか。グランアレグリアならあの態勢からでも勝っていたのではないか。いや、さすがにそこまでは彼女でも無理だったかもしれないが、それくらいのことをファンに考えさせるのが王者というものである。

そして、シュネルマイスター。今回は相手が悪かっただけとも言えるが、この馬にはまだまだ現役馬としての未来がある。もちろん不利などないに越したことはないが、今回のような状況からでも差し切るくらいのさらなる強さを身につけ、またファンを沸かせる走りを見せてほしいところだ。


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