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速攻レースインプレッション

馬の能力を引き出した厩舎力、鞍上の手腕は見事

文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/瀬戸口翔


流暢な日本語で「弟に負けられないからね」と語った言葉がすごく心に響いた。第73回阪神ジュベナイルフィリーズ。勝ったのはミルコ・デムーロ騎手騎乗の3番人気サークルオブライフだった。

「スタートは上手く出てスムーズに運べました。直線はちょっと外に行きましたが、外の馬が伸びていましたし、ずっと信じて(追って)、最後はすごく良い脚を見せてくれました」と回顧したが、M.デムーロ騎手の奮闘も大きい。向正面で馬の後ろに付け、力が入りそうになる馬を懸命になだめていた。あの細やかな配慮がなかったら、最後にあそこまで伸びたかどうかは分からない。

コース取りも抜群。外が伸びる馬場であることは騎手全員が分かっていたと思うが、あからさまに外に出すのではなく、ギリギリまでベルクレスタの直後で風の抵抗を抑えながら、ここぞのタイミングで外に出した。打つべき手をすべて打っての快勝。喜びもひとしおだったことだろう。

振り返ってみると、新馬戦は3番人気だった。伸びかけたが、最後のひと押しが利かず③着。次走で陣営は1F距離を詰め、馬体も8キロ絞った。この中山での未勝利戦が圧巻だった。完全に出遅れながら4角手前で一気に上昇。残り200mで先頭に立つと、そこからもう1回伸びて②着馬に2馬身半差を付けた。長く脚を使いながら、坂上でもう1度、エンジン点火。なかなかお目にかかれない芸当だった。

ここで出遅れという新たな問題が起こった。しかし、続くアルテミスSではスタートはかなりマシになった。ロケットスタートではないが、スムーズに7番手に付けられたことからも、それが分かる。そして、ここでも鋭い決め手(メンバー中最速の上がり33秒5)を繰り出し、重賞初制覇を決めた。

つまり、課題は見つかるが、そのたびに次走でクリアしてきたのがサークルオブライフだったのだ。これは美浦のトップステーブルのひとつである国枝栄厩舎の実力によるものが大きいと思うが、M.デムーロ騎手とコンビを組み続けてきた、ということも理由として大きいのではないだろうか。

実はM.デムーロ騎手はこの勝利でJRA2歳G1(朝日杯FS、ホープフルS、阪神JF)をコンプリートした。朝日杯FSに至っては4勝(2010年グランプリボス・5番人気、2012年ロゴタイプ・7番人気、2015年リオンディーズ・2番人気、2018年アドマイヤマーズ・2番人気)。すべて1番人気馬ではない。しかし、グランプリボス、ロゴタイプ、アドマイヤマーズは前走からの継続騎乗でG1制覇へとつなげた。

課題をしっかりと見つけ、時間をおかずに修正できる能力がM.デムーロ騎手には備わっているのではないかと思う。2歳馬に高度な技術を教え込むのは、かなり難しいと思うが、それをスムーズにやってしまうのがM.デムーロ騎手の凄みなのではないか。また、それを口に出さず、馬を称えて手柄を馬に渡すところがM.デムーロ騎手らしい。

もう未勝利戦で見せた危なっかしさは今回のレースでは感じさせなかった。桜花賞も主役だろうが、もっと興味深いのがオークス。昨年、M.デムーロ騎手騎乗で優勝したユーバーレーベンと末脚の雰囲気が非常に似ている気がするからだ。母シーブリーズライフが短距離馬だったので距離の克服がポイントになるかもしれないが、昨年のソダシ同様、クラシックの楽しみが大きい馬が勝ったと思う。

②着ラブリイユアアイズも勝ち馬同様、新馬戦から同じ騎手が手綱を取り続けた。団野大成騎手。前走・京王杯2歳Sでは出負けした上に道中で少し力み気味に追走して③着。そこから1F延長して臨む今回。さまざまなことを考えながら乗ったことだろう。道中は6番手付近にいたが、しっかりと折り合っていた。見たままを勝手に解釈するなら、力もうとする馬の気持ちをうまく別方向に逃がしていたように見えた。このあたりの真実は団野騎手に聞かなければ分からないが、デビューから乗り続けてきたことで何か、得たものがあるのだろう。21歳の団野騎手にとって、今後の飛躍につながるような何か大きいものが得られたように思えた。

ウォーターナビレラは③着。馬場コンディションや枠など、トータルで考えて、勝ち切るのは容易ではないという印象を持っていたが、それでもいったんは先頭に立ってレースを盛り上げた。武豊騎手武幸四郎調教師との兄弟タッグでのG1制覇は、今回こそ成らなかったが、いつか達成できそうな気がする。決して悲観するような負け方ではなかったと思う。


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