速攻レースインプレッション
1番人気に応え、素晴らしい人馬一体の走りだった
文/木南友輔(日刊スポーツ)
「油断騎乗か?」、「即日乗り替わりに?」…、有馬記念前日、インターネット上で大騒ぎになっていたという事象に、私がいた中山競馬場も当然、右往左往していた。12月25日(土)の中山5Rのヴァンガーズハート(②着)の横山武騎手になにかしらの制裁が下されることはレース直後に感じた。
その後、騎乗停止の日数がどうなるのか、いつからなのか、発表までに主催者側もバタバタする様子があった。結果的には年明けの1月15日、16日の2日間の騎乗停止処分。仮に翌日から騎乗停止になり、エフフォーリアが乗り替わりとなっていれば、今年の有馬記念はまた違った結果になったかもしれない。結果はわからないが、まったく印象の違う有馬記念になったはずだ。
前日から1番人気を守り続けた3歳馬エフフォーリア。皐月賞、天皇賞・秋を制し、天皇賞・秋ではコントレイルとグランアレグリアを破った。次走でジャパンC、マイルCSを勝つ古馬2頭を破っているのだから、実力に疑いはなかった。あとは「トリッキーな中山芝2500m」の舞台、有馬記念の独特の雰囲気の中で力を出せるのか否か。終わってみれば、素晴らしい人馬一体の走りだった。
大方の予想どおり、内枠(1枠2番)のパンサラッサが逃げる競馬になった。大外枠(8枠16番)に入ったタイトルホルダーもしっかりと2番手を確保。これにウインキートス、シャドウディーヴァ、ディープボンドが続く形。1000m通過は59秒5の表示だった。57秒3だった福島記念の大逃げに比べれば遅いが、中山9RグッドラックH(古馬2勝クラス)の62秒2と比較すれば、やはり速い。
向正面に入ってもペースが緩んだ感じはなく、「締まった流れの力勝負になる」という展開だった。5馬身近くあったパンサラッサとタイトルホルダーの差が詰まり、直線入口で2頭が並ぶ形。内から抜け出しをはかるディープボンド、馬場の真ん中を伸びるエフフォーリア、後ろから外を伸びてきたクロノジェネシス、その外を追い込むステラヴェローチェ…、見応えのあるゴール前は皐月賞&天皇賞・秋の勝ち馬エフフォーリアに軍配が上がった。
「天皇賞(秋)が120%くらいだったので、それに比べると落ちるかなというところだったんですけど、高い能力のある馬で、8割、9割出してくれれば十分だと思っていましたし、馬がよく頑張ってくれて、こういったいい結果が出て良かったです。初めての2500という、これまでの中でいちばん長い距離だったので、折り合いが不安でしたが、良いところでリラックスして走れて、ダービーの時と違って、余計なファイトをせず、道中すごく良いリズムで直線に向かうことができました。内側からディープボンドも来ていましたし、がむしゃらに追って、なんとか勝ってくれという思いで、それに応えてくれた馬に感謝です」。前日に騎乗停止処分を受けた騎乗についての謝罪で始まった横山武騎手のインタビュー。これまでのG1を勝った後のような陽気な表情ではなかった分、この勝利の価値の大きさが伝わってくるようだった。
②着のディープボンド、③着のクロノジェネシスの共通点はフランス(凱旋門賞)遠征帰りという点であり、どちらもフランスでは日本での主戦騎手が騎乗できなかったことが挙げられる。ディープボンドはフォワ賞をクリスチャン・デムーロ騎手で制し、凱旋門賞はミカエル・バルザローナ騎手、クロノジェネシスは凱旋門賞でオイシン・マーフィー騎手とコンビを組んだ。
遠征中に乗り替わりとなった理由は、コロナ禍で帰国後の隔離期間などが不透明過ぎる状況だったことが理由だったと思う。和田竜騎手もルメール騎手も平時ならフランスへ行って乗りたかったはずで、帰国初戦の有馬記念でコンビ復活。抜群の出来に見えたディープボンドの和田竜騎手と意地を見せたクロノジェネシスのルメール騎手の姿には気迫がこもっていた。そして、向正面から3角でクロノジェネシスに外からフタをしたエフフォーリアと横山武騎手の立ち回りも熱かった。
私が狙った◎パンサラッサは⑬着。オクトーバーS&福島記念の大逃げで2連勝、矢作厩舎の勢い、枠の並びを見て決めたのだが…。有馬記念で好走するには、緩急をつけた逃げでないと難しいのかもしれない。そのことをあらためて思い知らされた。④着ステラヴェローチェは世代トップ級の馬であることを証明し、来年が楽しみになる走り。⑤着タイトルホルダーは大外枠から自分のリズムの競馬を貫き、終わってみれば、〝痛恨の大外枠〟と言い切れるだけの素晴らしい競馬だったと思う。
勝ったエフフォーリアは来年どのような針路を進むべきか。父父シンボリクリスエス、父エピファネイア、母の父ハーツクライ…、みな4歳時に素晴らしい成績を残した馬たちだ。海外遠征の話題も自ずと出てくるだろう。冷静に考えれば、春はドバイワールドCデーや大阪杯、今年ラヴズオンリーユーが勝った香港のクイーンエリザベス2世C、宝塚記念あたりが候補か。夏はハーツクライと同じくキングジョージとか、鹿戸師が騎手時代に帯同したゼンノロブロイのようにヨークの英インターナショナルSを狙うとか…(※輸送をこなせるなら「2月のサウジC=芝の馬が活躍するワンターンのダートが舞台」を選択肢に含めたっていいと思う)。
思い起こせば、同じ3歳でバゴ産駒のステラヴェローチェは今秋の凱旋門賞に登録を行っていた。夏の函館で須貝師にその件を聞くと、「今年はやめておきたい」と冷静だった。今日の有馬記念でディープボンドとクロノジェネシスが見事に好走したことを思うと、「天候と馬場が読めない(選べない)秋のフランス遠征」はリスクも伴う選択肢であると言える。
欧州に行くなら天候の安定している夏のシーズンがいいと思うし、矢作厩舎&ノーザンファームのノウハウを学べば、今年歴史的な勝利を挙げた秋のBC開催も現実的な選択肢になるのではないか。メディアもファンも軽々に〝凱旋門賞挑戦〟を求めたり、口にしたりするのではなく、より大きな夢をエフフォーリア、すべての日本の馬に託せますように…。有馬記念が終わり、今年はそう実感できる1年だった。