速攻レースインプレッション
文句なしのクラシック、皐月賞有力候補
文/木南友輔(日刊スポーツ)
力がなければ勝てない。それが共同通信杯が行われる「東京芝1800m」のコースだと思う。昨年のダービーは◎グレートマジシャンを狙った。1月のセントポーリア賞の勝ちっぷりに衝撃を受け、「同じ府中のダービーで世代の頂点に立つ馬はこの馬だ」と心に決めたのだが…。
ダービーでハナ差の激闘を演じたのは、セントポーリア賞と同じ東京芝1800mの共同通信杯覇者エフフォーリアと同③着シャフリヤール。グレートマジシャンは最後に追い比べで及ばず④着に敗れた。ダービー③着には共同通信杯で⑤着だったステラヴェローチェが入った。「府中の1800展開いらず」という格言がある。展開は大事だと思うのだが、間違いなく言えるのは「府中の1800mはチャンピオンを決めるための大事な舞台」であることだ。それは府中牝馬Sがのちの名牝、G1好走馬を多く送り出していることも証明している。
昨年は1回東京開幕週の3歳未勝利戦でボーデンが1分45秒2という衝撃的な数字を記録したように、時計比較のしやすい高速馬場だった。その翌日のセントポーリア賞のグレートマジシャンは1分46秒5、上がり3F33秒3をマーク。開催3週目の共同通信杯のエフフォーリアは1分47秒6、上がり3F33秒4だった。共同通信杯当日の3歳未勝利戦が1分46秒7の決着だったが、このときの勝ち馬ゴールデンシロップも昨秋に3連勝でオープン入りを決めている素質馬だ。
さて今年は…、セントポーリア賞をドゥラドーレスが1分45秒7の好時計で制し、共同通信杯当日5Rの3歳未勝利戦(ローシャムパーク)も1分47秒3と上々の数字。昨年に近い高速馬場だったのだが、残念ながら当日午後になって、雨が目立つコンディションになり、芝は稍重に悪化。単純な数字の比較はできなくなった。
ハナを切ったのは岩田康騎手のビーアストニッシド。1000m通過は61秒1。好位組は力んでいるように見えたが、逃げている馬は別。4F目からは12秒5のラップを3F連続で刻み、しっかり脚を溜めていた。母系はダートや時計のかかる芝を得意にしているタイプもいて、父はダンジグ、ウォーフロントという父系のアメリカンペイトリオット。血統的に瞬発力勝負の馬場では分が悪そうに感じるが、今日のような馬場なら重賞で今後もチャンスがあるかもしれない。見事な③着だった。
勝ったのはダノンベルーガ。前日に行われたクイーンCも1戦1勝のプレサージュリフトが豪快な差し切りで制していたが、その流れに続いた。メンバー中最速の上がり3F33秒7。中団外でしっかり折り合い、直線の伸びも素晴らしかった。初戦に続く差し切り。母コーステッドは2016年のBCジュヴェナイルフィリーズターフで②着。自分はヌーヴォレコルトのBCフィリー&メアターフ遠征を取材に行っていたので、現地でその走りを見ていたが…。
ドゥラメンテ、サトノクラウン、モーリス、さまざまなスターホースを送ってきた堀厩舎からまた大物が登場した。面白いのは、現役で堀厩舎の馬で浮かぶのは来週のフェブラリーSに向かうカフェファラオはもちろんだが、芝で活躍している馬となると、サリオス、ヒシイグアス、どちらもハーツクライ産駒だ。共同通信杯でデビュー2連勝を果たした、こちらのハーツクライ産駒はクラシックでどのような結果を残すのか。
自分は◎ジオグリフを狙った。ゲート内の駐立に課題がありそうだが、我慢してスタート。序盤で力んでいたが、直線もジワジワ伸びた。勝つことはできなかったが、価値のある②着だと思う。過去の記録を見ると、57キロを背負って共同通信杯で連対した馬(平成以降)には名馬が多い(下表参照)。
年 | 馬名 | 人気 | 着順 |
1993年 | ビワハヤヒデ | 1 | ② |
1994年 | ナリタブライアン | 1 | ① |
2006年 | アドマイヤムーン | 2 | ① |
2006年 | フサイチリシャール | 1 | ② |
2007年 | フサイチホウオー | 1 | ① |
2012年 | ゴールドシップ | 2 | ① |
2012年 | ディープブリランテ | 1 | ② |
2014年 | イスラボニータ | 1 | ① |
2019年 | アドマイヤマーズ | 1 | ② |
平成以降、共同通信杯で57キロを背負って連対した馬の9頭中7頭がのちにG1を勝っている。ジオグリフと同じ木村厩舎で東京スポーツ杯2歳Sから皐月賞直行が伝えられているイクイノックスの存在があり、皐月賞に向かうのか、鞍上がどうなるのか、という問題はあると思うが、個人的にジオグリフは皐月賞本番でかなり楽しみな1頭になった(人気面も含めて…)。
2番人気のアサヒは出遅れが響いた格好の⑤着。調教の動きが素晴らしく、12キロの馬体増はほぼ成長分だろう。直線は内から追い上げてきたが、スタートのロスが悔やまれる競馬になってしまった。ここまで5戦すべて1800mを使われており、今後のレース選択に注目だ。上位人気馬では、ダノンスコーピオン(⑦着)は本調子にはなかったという気がする。レッドモンレーヴ(⑥着)はキャリア3戦目で上位と差のない競馬ができたし、次につながる競馬だったと思う。
単純な数字の比較はできないが、9Rの初音S(牝馬限定の3勝クラス)はメイサウザンアワーが1分48秒7の時計で勝った。共同通信杯は1分47秒9でこの数字を上回った。ちなみに、共同通信杯の同日にこの初音Sが行われた過去4年(2018~21年)はすべて初音Sの方が勝ちタイムが速かった。今年の共同通信杯を勝ったダノンベルーガはハイレベル。共同通信杯からは過去10年で5頭の皐月賞馬が出ている。ダノンベルーガがどのようなローテを選択するのかわからないが、文句なしのクラシック、皐月賞有力候補になったと思う。