速攻レースインプレッション
陣営の読み、作戦の実行力、馬の実力が噛み合ったG1初制覇
文/浅田知広
8→3→7番人気の順で3連単53万7590円。注目されるG1競走でこんな馬券を的中できたら、予想の過程云々を問わず相当に気持ちがいいものだろう。そして、もしそれが展開を読み切って的中できたとすれば、これは会心の一撃と言っていい。
今年の大阪杯は、そんな会心の一撃を決められた方がある程度はいたのではないか、決められないにしても「選択肢のひとつ」くらいには挙げられていた方も多かったのではないか。そんなことがふと頭をよぎる結果になった。
今回のメンバーで実績ナンバーワンといえば文句ナシに昨年の年度代表馬エフフォーリア(1番人気)で、これに次ぐ存在が「昨年の覇者」というレース相性も含めレイパパレ(3番人気)。そして、この間に割って入ったのが展開のカギを握ると思われたジャックドール(2番人気)だ。
金鯱賞をレコードタイムで逃げ切った栗毛馬、ということでレース前にはジャックドールとサイレンススズカを比較する記事などもいくつか見られた。見た目からはヤエノムテキが思い起こされたりもするのだが、展開とは関係ないのでそれはさておき。サイレンススズカとの比較では、大方「違うタイプの逃げ馬」という結論に至っている。簡単に言えばサイレンススズカは序盤から飛ばすタイプ、ジャックドールは中盤~後半が速いタイプだ(金鯱賞は前後半1000mは59秒3-57秒9)。
今回はアフリカンゴールドが「逃げ宣言」こそしていたようだが、同馬も決して前半から速いタイプではなく、しかも枠順抽選の結果は8枠15番。対して控えてもいいという話だったジャックドールは内目の2枠4番。どちらがハナを切るにしても、序盤からハイペースという展開はなさそうな印象だった。と、これで納得してしまった当方などは「会心の一撃」を繰り出せなかったのである。
内からじんわりとハナに立ったジャックドールに、外からアフリカンゴールドが迫ってきたときにはもう1周目のゴール板前。ジャックドールからすれは、1コーナーを目の前にしてわざわざ外のアフリカンゴールドにハナを譲る必要はない。しかし、後から振り返ればこの「2ハロン目10秒3」というのが、これまでジャックドールが経験したことのないラップだったのだ。
●2022年大阪杯のラップ
前半1000m…12秒3-10秒3-12秒0-12秒2-12秒0
後半1000m…12秒1-11秒7-11秒5-11秒8-12秒5
全体を見渡すと前半~中盤に12秒台が多く、残り800mから11秒台の3連発と、パッと見ではこれまで通り後半のほうが速そうに思える。しかし、この「2ハロン目10秒3」があったこと、そして後半の「11秒台3連発」に近走のような「11秒0前後」ほど速いラップが含まれなかったことで、前後半は58秒8-59秒6。ジャックドール自身にとって初めて前半1000mの方が速い展開になったのだった。
さらに、レース中には右後肢の落鉄もあったとのこと。4コーナーで後続を突き放しにかかったときには、G1の舞台でもこれまで通りの競馬になったかに見えたが、その中身がまったく違った結果の⑤着敗退だった。
そして、この遅くはないが極端に速くもないという展開をモノにしかけたのが昨年の覇者レイパパレ、実際に勝利を挙げたのがG1で重賞初制覇のポタジェだった。レイパパレは昨年のエリザベス女王杯(⑥着)のような差し決着ですらゴール寸前まで2番手で粘っていたように、少し速いくらいなら問題にしない先行型。今回も、残り200mあたりでジャックドールを捕らえたときには、大阪杯連覇達成かと思われた。
それに待ったをかけたのが、大金星のポタジェである。先行した昨秋の天皇賞は瞬発力勝負では分が悪かった感じで⑥着に敗れたあと、2走前のAJCCは中団馬群で包まれている間に位置取りが悪くなった感じで⑤着。そして前走の金鯱賞は後方からメンバー中最速の上がり34秒2を記録したものの④着に敗れていた。
そんな流れを受けた今回。鞍上の吉田隼騎手は序盤から少し押っつけて好位を確保。コメントによれば、先行馬を見ながら進めるというのはこの日の馬場傾向やメンバーを見た陣営の作戦だったようだが、これがズバリという形になった。一歩先に抜け出したレイパパレをきっちり捕らえ、直後から迫るアリーヴォの差し切りまでは許さないという絶妙のタイミングでのゴールだった。
もう少しペースが速くても、あるいはもう少し位置取りが後ろでも勝利はなかったかもしれない。陣営の展開の読みと、それを受けた作戦の実行力、馬の実力が素晴らしかったというほかにない。そして冒頭の話に戻るが、これらを読み切って馬券を当てられた方もまた見事だ。
これでひとつ、ポタジェの勝ちパターンは見えたところだが、まだ伸びしろがあっても不思議はない。さらに大きな舞台で勝利を重ねる可能性も十分にあるだろう。
一方、冒頭以外ここまでまったく名前が出てこなかったのがエフフォーリア(⑨着)である。その血統面で「2011年以降の優勝馬はすへてサンデー系」(エフフォーリアはロベルト系のエピファネイア産駒)だとか、休み明け(3ヵ月ぶり)で状態面が万全には至っていないのではないか、という不安材料も見受けられたとはいえ、掲示板外に敗れてしまったのは意外だった。しっかりと立て直し、またこの馬らしい競馬を見せてくれることを期待したい。