速攻レースインプレッション
3冠ジョッキーの言葉通り、会心の勝利だった
文/木南友輔(日刊スポーツ)
朝日杯FS覇者、ホープフルS覇者、東スポ杯2歳S覇者に、京成杯覇者、きさらぎ賞覇者、共同通信杯覇者、弥生賞覇者、スプリングS覇者、若葉S覇者、札幌2歳S覇者、京都2歳S覇者…、こうして書いてみてわかる通り、今年の皐月賞は豪華メンバーの激戦にも見えるし、重賞を複数回勝っている馬がいない実力拮抗の世代の1冠目にも見える。果たして、どんな皐月賞になるのか、ドキドキしながら第82回の牡馬クラシック初戦当日を迎えた。
木曜、金曜に降雨があり、私の住む都内では土曜早朝にもパラッとひと雨降った。土曜の中山芝は重発表で競馬がスタートした。9R山藤賞(皐月賞と同じ芝2000m)はローシャムパークが圧勝。稍重馬場で2分0秒3。②着に7馬身差。強い。共同通信杯当日、雨が降り始める前で馬場状態が違ったとはいえ、共同通信杯より速い時計で未勝利戦を勝っていた馬、ローシャムパークの圧勝劇はあらためて「東京芝1800m」という舞台の素晴らしさを強調してくれた気もする。
今年の皐月賞、私が狙ったのは、共同通信杯の「速効レースインプレッション」で書かせてもらった馬、◎ジオグリフだった。できれば、その過去記事を読んでもらいたい。今、レースが終わってみて、少しは読み応えのあるものを書けたのかな、と思うのだが…。
この2年ほど、新型コロナウイルスの流行でなかなか栗東トレセンへ取材に行けず、G1レース後の会見取材程度しか福永騎手の言葉を聞くことができなかったが、今週は美浦で名手の言葉を久々に直接聞くことができた。「(今年の3歳は)牝馬は桜花賞はどの馬にもチャンスがあった。牡馬に関してはレベルの高い馬がそろっていると思う。ハイレベルな馬が何頭かいるけど、ただ、その中で抜けた存在がいるわけじゃない」。客観的に、オブラートに包まず、こうキッパリと言える人は武豊騎手と福永騎手、現役で3冠ジョッキーであるこの2人ぐらいだと思う。
その上で、「トラックバイアス(馬場傾向)にアジャストできるかどうかが結果に多分に影響してくると思う。トラックバイアスを味方にできる馬じゃないと厳しいし、ジオグリフ自身も今年の皐月賞で十分に①着を狙える馬」。聞きたかったことがすべて聞けた思いだったし、共同通信杯のレースインプレッションで書いたまま、自信を持って、◎ジオグリフで勝負できた。
別の騎手の取材では「岩田(康)さんが育ててきた2頭、どちらも速いし、アスクビクターモアも速いでしょう」という声を聞いた。1コーナー、押し出されるような形でアスクビクターモアがハナに立ったのも、自在に動く田辺騎手なら想定内の立ち回り。2番手にデシエルト、好位にボーンディスウェイ、ビーアストニッシド。新馬戦で好ダッシュを見せていたイクイノックスは大外枠から早めに好位を確保した。イクイノックスを見る形で福永騎手のジオグリフ。その内からインの進路を選択したダノンベルーガ。意外だったのは向正面で後方2番手のポジションだったドウデュース。パドックでは弥生賞から確実に上向いてきた印象を受けたし、あそこまで後方になってしまったのは誤算だったかもしれない。
押し切りをはかるアスクビクターモア、内を狙ったダノンベルーガを抜き去ったのが木村厩舎の2頭。イクイノックスが一瞬引き離したように見えたが、坂を上がってジオグリフが差し切った。レース後のダメージを考え、東スポ杯2歳Sからの直行ローテを選択したイクイノックスは最後に息切れした感じだが、ダービーへ向け、あらためて世代最上位の実力を見せつけたし、ジオグリフは経験値の高さ、共同通信杯からさらにパフォーマンスを上げる走りで、こちらもダービーが楽しみになった。
大外から追い込んだドウデュースの③着は当然光っていたし、馬場の悪い内を走らされたダノンベルーガも評価を落とすものではないと思う。馬名で話題になっているオニャンコポンも渋太く伸びていたが、直線でスムーズに追えていなかったのがホープフルS②着以来だったジャスティンパレス。この馬はダービーに出走できれば楽しみな1頭になるだろう。
土日とも中山競馬場で取材だった。好天に恵まれた2日間。私は皐月賞を終え、表彰式を見ながら、社台スタリオンステーションの関係者に電話をかけた。ドレフォンの日本導入に尽力された人で、思い出すのは、5年前の秋、ある日の朝にその人からかかってきた1本の電話だ。「すごい馬が日本に来ることになったよ。ダートの短距離で走っていたけど、バファートさん(ボブ・バファート師)がブリリアントスピードと評価していて、スピードが突出していたから。馬体もフットワークも素晴らしいんだ。日本の競馬を変えるかもしれない」。その興奮が伝わってきたことを思い出す(たしか、栗東トレセンのスタンドで自分は取材中だった)。まだまだ早いけど、ドレフォン産駒◎ジオグリフの皐月賞は取材の過程も含め、会心の勝利だった。
来週からは東京開催。G1の空き週(香港チャンピオンズデーの日本馬遠征が不可能になったのは残念)があって、再来週は天皇賞・春、そして、東京のG1連続開催が続いていく。波乱の決着が続いているけど、ひとつひとつのレース、その裏側も丁寧に取材していきたい。