速攻レースインプレッション
大熱戦を制してG1タイトルを獲得
文/浅田知広
G1での1番人気。よく「(マークされるので)人気はいらない、①着が欲しい」などと言われることもあるが、大舞台で期待に応えて勝利を挙げることができれば、人気の分だけより多くのファンに喜んでもらえることも事実だ。
とはいえ。今回の安田記念はそんな事も言っていられず、まさに「人気はいらない」。そもそもこのレースは昨年まで1番人気が6連敗中で、特に近3年はアーモンドアイ2回にグランアレグリアと、単勝1倍台の支持を受けた馬が③②②着に敗退していた。
これに加え……いや、こちらの方が大々的に報じられていたが、昨年のホープフルSからJRAの平地G1競走は1番人気が11連敗中。この間[0.1.1.9]で連対率わずか9.1%と「11連敗」という言葉以上の苦戦が続いていた印象だ。
今年、その1番人気に支持されるのはシュネルマイスターかと思っていたが、締め切り直前に逆転してイルーシヴパンサー。これはもしかして、ぎりぎりまで待って「1番人気にならない馬」の単勝を買った人が多かったのだろうか。いずれにしても断然の中心馬がいたここ3年とはまったく違って、混戦模様になったのが今年の安田記念だ。
そして、下馬評が混戦でも終わってみれば「1強」だった、というレースも少なからずあるものだが、今回はレースも大熱戦となった。ハナを切ったホウオウアマゾンは前半の600mを34秒7で通過すると、ここからペースを落として12秒0-12秒0。勝負どころの3~4コーナーが緩めば各馬とも手応え十分で、先頭から最後方までの差も開かない。見た目上はどの馬にもチャンスがありそうな展開だった。
迎えた直線。ペースが遅くなっていたのは明らかだったため、まず内ラチ沿いから後続を突き放しにかかったホウオウアマゾンが「やったか?」の1頭目だった。直線の坂にかかり、後続から抜け出してきたダノンザキッド(2頭め)と、その内に馬体を併せたファインルージュ(3頭め)が前に迫り残り200mを通過。これを追い、外から脚を伸ばしてきたサリオスがついに復活か(4頭め)と思ったところに、サリオスを挟んで外から襲いかかったソングラインと内から強襲するシュネルマイスター(5、6頭め)。フラットに見てもざっとこのくらいには目が行くほどで、他の馬から馬券を買っていた方ならそれぞれに「やったか?」の瞬間はあっただろう。
この熱戦を制したのは4番人気のソングラインだった。昨年のNHKマイルCでは先頭に立ったところで内にもたれてしまい、最後の最後にシュネルマイスターに交わされ悔しいハナ差負け。着差が着差だけに、まっすぐ走れてさえいれば、という一戦だった。しかし今回は、パトロールビデオを見てもほぼゴールに向かって一直線。今度はシュネルマイスターの追撃をクビ差で抑え、正真正銘G1タイトルを獲得した。
前々走の1351ターフスプリント(G3・サウジアラビア)で海外重賞制覇は果たしていたソングライン。この秋はマイルCSのほか、ブリーダーズカップマイルに挑戦する可能性もあるとのこと。国内の競馬を盛り上げてほしいと思う人も、海外の大レースを目指してほしいと思う人もいるだろうが、いずれにせよ秋の走りも楽しみだ。
そのソングラインに続くクビ差の②着シュネルマイスター、アタマ差③着のサリオスまでが同タイム。そして0秒1秒の④着には3歳馬セリフォスという結果になったが、この4頭は「4コーナーを10番手前後で通過し、上がり3ハロン32秒9±0秒1」で共通していた。4コーナーの見た目上は「どの馬にもチャンスがありそう」としたが、今日の競馬で実際に勝機があったのはこの4頭だった、ということだろうか。
レース直前に1番人気に上がったイルーシヴパンサーは、4コーナー16番手から上がり最速(タイ)の32秒6を記録したが⑧着に終わった。それでも勝ち馬からわずか0秒2差。直線前半ですんなり前が開いていればあるいはという走りは見せており、G1では力不足だったなどと簡単には片付けないほうがいいだろう。
ちなみに、1990年以降に行われた良馬場の安田記念で、今回と同じように4~5ハロン目が12秒台だったのは2016年の1度きり。このときは、逃げたロゴタイプが1頭だけ内ラチ沿いに入って、そのまま逃げ切り勝ちを収めていた。今日、同じように内に入ったホウオウアマゾン(⑫着)を見て一瞬「やったか?」と思ったのは、どうやらこのレースを見ていた影響が大きかったようだが、そう簡単に過去の例と同じような結果にはならないのがまた競馬の難しいところだ。