速攻レースインプレッション
好相性の鞍上が、最後の一冠を勝利に導いた
文/木南友輔(日刊スポーツ)、写真/森鷹史
史上7頭目の三冠牝馬を狙うスターズオンアースには、負けた経験が4回あった。新潟の新馬戦は追い込み届かず、赤松賞はナミュールに突き放され、フェアリーSはライラック、クイーンCはプレサージュリフトに差し切られた。
1986年メジロラモーヌが2敗、2003年スティルインラブが2敗、2010年アパパネが3敗、2012年ジェンティルドンナが2敗、2018年アーモンドアイが1敗、2020年デアリングタクトが無敗。秋華賞(古馬解放前のエリザベス女王杯)に挑む時点で、過去の三冠牝馬のどの馬よりも負けを知っていた。
牡馬でイメージするなら2011年オルフェーヴル。オルフェーヴルは新馬戦を勝った後に4連敗しているが、三冠競走を圧倒的な競馬で制した。
スターズオンアースは桜花賞を7番人気、オークスを3番人気で勝って、今回は堂々の1番人気。4回の敗戦はスターズオンアースの危うさを示すものなのか、スターズオンアースの絶対的な能力、厩舎や牧場の修正力、驚異的な成長力を示すものなのか。その答えを見ることができるのが今年の秋華賞だった。
注目された先行争い。ハナを切ったのは短距離で連勝してきたブライトオンベイス。サウンドビバーチェ、アートハウスが続いた。タガノフィナーレは好位に控え、ラブパイローは行けなかった。スタニングローズは好位馬群。ナミュールは中団の外でいつでも動ける絶好の位置だった。
驚いたというか、残念だったのが、スターズオンアースだ。他馬との接触もあり、1コーナーは後方3番手。これは誤算だったはずだ。
7頭立てでスローペースだった土曜の能勢特別(古馬2勝クラス、勝ち馬ダノンドリーマー)は前半61秒5で、2分0秒7(良)の決着。昨年の秋華賞(勝ち馬アカイトリノムスメ)は前半61秒2で、2分1秒2(良)。それと比べると、前半59秒7は速めの流れ、締まった展開だったように思えるが…。4角までスターズオンアースのルメール騎手は動かないまま。外のプレサージュリフトが邪魔で動けなかったのかもしれないし、2週連続で追い切りにまたがっており、直線で必ず脚を使える、さばける、という自信があったのかもしれない。
同じ後方から外をまわしたプレサージュリフト、ライラックに対し、直線は真っすぐに馬群の中を突いてきたが、終始スムーズに運んでいたスタニングローズ、ナミュールには及ばなかった。二冠馬の力は間違いなく示したのだが…。馬群を縫う形で上がりは33秒5。悔しい結果になった。好位を進んだスタニングローズ、中団から伸びたナミュール、直線入り口で最後方から追い込んだスターズオンアース。見た目のバランスはいいが、結果的には位置取りの差が出た。
勝ったスタニングローズは、前にアートハウスを見ながら絶好の位置で運んだ。坂井騎手は2月のこぶし賞、前走紫苑Sに続き、コンビを組んで3戦3勝。「夢に見た舞台」とG1制覇の喜びを語った。矢作厩舎に所属し、長期のオーストラリア遠征、ドバイ滞在、フランス遠征など、さまざまな場所で自分を磨いてきた若手騎手。まだ25歳。これからG1レースで存在感を見せる機会は多くなっていくだろう。
②着ナミュールも横山武騎手の完璧なエスコートだった。馬体重は20kg増(446kg)。春は馬体維持に苦しんだようだが、高野厩舎は牝馬の仕上げがうまい。ショウナンパンドラ、レイパパレ、この日ワンツーを決めたスタニングローズとナミュール。どこか不本意かもしれないが、新たな牝馬王国の誕生だ。
昨年の秋華賞は白毛馬ソダシの存在が絶大だった。一方、今年の特徴は出馬登録時点で2勝クラスを勝った馬たちが、8分の4の抽選を突破しなければならなかったこと。混戦とか、ハイレベルとか、簡単に決め付けることもできない。同世代相手ではなく、年長古馬相手に2勝クラスを勝利するのは、ひと昔前なら牡馬の菊花賞であれ牝馬の秋華賞であれ、三冠最終戦の惑星として胸を張ることができたはずだが、状況が変わってきたのを感じる。
頭に浮かぶのは、2019年夏季競馬からスタートした降級制度見直しの影響だ。降級馬がいないことで、3歳夏に2勝クラスを勝つことが以前ほど難しくはなくなってきているのだろう。秋華賞の上位3頭はオークスの上位3頭だったことも、条件戦上がりが厳しいことを示す結果になった。
スプリンターズSをジャンダルムで制した荻野極騎手に続き、スタニングローズで坂井騎手が勝利。昨年から続く、ジョッキーの世代交代を強く感じさせる秋華賞になった。