速攻レースインプレッション
父のダービーを彷彿とさせる末脚だった
文/出川塁、写真/瀬戸口翔
2019年にはレース史上初めて外国馬の来日がゼロになったジャパンC。コロナ禍の影響なら仕方ないとも思えるところだが、実際にはその前年のことである。
日本馬が強くなったこと、欧州との馬場の差が広がったこと、香港国際競走など同時期に魅力のあるレースが増えたことなど複数の理由が考えられるものの、レース創設の趣旨からすると残念な事態といえた。
さすがにJRAも手をこまねいてばかりではなく、今年は東京競馬場に国際厩舎を新設。直接府中に入って検疫ができるようになり、検疫中に運動するためのダートコースも設けられ、外国馬にとっては負担がかなり軽減された。
また、指定外国競走を勝った馬には褒賞金が交付されるようにもなった。たとえば、オネストはパリ大賞を勝ったことで条件をクリアしており、ジャパンCを勝てば1着賞金4億円に加えて褒賞金300万米ドルを獲得できることになる。
その甲斐もあったのだろう、今年は前述のオネストなど計4頭の外国馬が来日。凱旋門賞馬アルピニスタが故障により断念したことは惜しまれるが、ひとまず体裁は整ったとはいえるだろうか。
ただし、掲示板に載ることができた外国馬はおらず、今年も厳しい結果となった。そのなかで悔やまれるとしたらグランドグローリーだろう。4コーナーから直線半ばにかけてまったく前が開かず、まともに追われたのは残り200mほど。それでも最後は⑥着まで来て、昨年の⑤着に続く外国馬最先着を果たしている。
表立った結果にはつながらなかったが、日本の馬場への適性は高そうで、レース前には社台ファームが所有権を購入したという報道があった。ディープインパクト後継との交配ならだいたい良配合になりそうな血統で、数年後に日本のターフで産駒を見るのが楽しみだ。
今年も外国馬は苦戦に終わったジャパンCだが、外国人騎手は①~④着に入った。また、天皇賞・秋からジャパンCまで外国人騎手がG1を4連勝ともなった(中央所属のルメール騎手を含む)。
勝ったのはムーア騎手騎乗のヴェラアズール。今年1月まではダートの2勝クラスに在籍していた馬が、1年も経たずにジャパンCを制す驚異の出世街道を歩んだ。初芝となった3月の淡路特別を勝ち、6月のジューンSでオープン入り。夏場は休んで重賞初出走の京都大賞典を快勝すると、続くG1初挑戦のジャパンCで大仕事をやってのけた。
芝に転向してからのジャパンCまでの6戦、そのすべて上がり1位を記録する抜群の末脚の持ち主。近親にトールポピーやアヴェンチュラなど活躍馬多数の牝系出身で、芝適性を有してまったく不思議はないが、以前は脚元を考慮してダートを使わざるをえないところがあったようだ。それが無理使いを避けることにもつながり、成長曲線にマッチして、5歳になってからの急上昇につながった面もあるのだろう。管理する渡辺薫彦調教師にとってもG1初勝利となったが、その手腕もますます注目を集めそうだ。
また、ヴェラアズールの父エイシンフラッシュにとってもG1初勝利となった。現役時代は漆黒の映える馬体で高い人気を誇ったが、種牡馬としては苦戦が否めず、近年は種付け頭数もかなり減少していた。ドイツ系の重厚な血統の持ち主で、スピード優先の現代競馬で成功しやすい種牡馬でないことはおそらく事実だろう。
ただ、このジャパンCでヴェラアズールが披露した末脚は、同じ舞台で自身が煌めいた2011年ダービーを彷彿とさせるものだった。道中は同じように馬群の中で脚を溜め、直線で前が開いたらあっという間に突き抜けた。
②着に敗れたシャフリヤールが、エイシンフラッシュを育てた藤原英昭厩舎の所属というのも何かの縁だろうか。先頭に突き抜けるかという場面もあったが、末脚の切れではヴェラアズールのほうが一枚上だった。なお、鞍上のC.デムーロ騎手は直線で内側に斜行し、短期間で不注意騎乗を繰り返したことから9日間の騎乗停止処分を受けている。
そのあおりを受けたのが⑤着ダノンベルーガで、ゴール前では川田将雅騎手が立ち上がるほど不利を受けた。ただし、すでに脚色は衰えつつあったところで、不利がなくとも③着以内はなかっただろう。直線の半ばでは突き抜ける勢いだったが脚が続かなかったあたり、距離が若干長いのかもしれない。
そして、③着ヴェルトライゼンデと④着デアリングタクトの2頭に関しては、とにかく労をねぎらいたい。前者は屈腱炎、後者は繋靭帯炎という競走生命にも関わる病を克服しての力走。特にデアリングタクトはエリザベス女王杯からの中1週という厳しい臨戦だった。三冠牝馬の誇りにあふれた走りをしっかりと目に焼き付けておきたい。