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速攻レースインプレッション

競馬の魅力が凝縮した、後世に語り継がれる一日になったのでは

文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/川井博


今年のG1開幕戦。次週に控えるサウジアラビア国際競走に有力馬が多く回り、この先の空洞化を心配された一戦。しかし、レモンポップが1番人気に応え、G1の魅力をしっかりと伝えてくれた。スタンドからの歓声が心地いい。この日は福永祐一騎手の国内ラスト騎乗。温かい拍手が送られるたびに気持ちが和らいだ。日本のG1ここにあり。そう思わせてくれた。

しかし、レモンポップが強い競馬を見せるまでには陣営の努力、プレッシャーは相当なものがあったと想像できる。ポイントは2つあった。前走・根岸S(①着)からの1Fの距離延長。さらに前走から中2週での臨戦である。昨年秋の武蔵野S(1600m)で②着に敗れ、この時が中1週だった。間隔を詰めてのマイル。これが鬼門である可能性があった。

根岸S優勝後、次走のアナウンスが出るまでに少し時間を要したのも、そのためだろう。根岸Sでどのくらいの疲労があったのか。その抜け具合はどうなのかを陣営は見極めていた。

ゴーサインを出した後も次々と正確なジャッジを下した。まずは当該週の追い切りに坂井騎手を乗せるか否か。乗れば事前に癖をつかんでくれる。ただ、馬に早々とスイッチが入ってしまう可能性もある。難しい判断だったが、陣営は追い切りに坂井騎手を乗せた。優勝後のインタビューで「調教に乗ったことで乗りやすい馬であることは分かっていた」坂井騎手が語ったように、この判断は正解だった。37歳と若い田中博康調教師。しかし、高度な判断を冷静に下した。

木曜追いも結果的には正解だった。追い切る馬が多くてピリピリムードの水曜より、はるかにリラックスムードで追い切れたはずだ。パドックで見せた抜群の気配は、木曜に追い切ったことも少なからず寄与したと思っている。

レースぶりも素晴らしかった。好位4番手を追走。内にドライスタウト。外にセキフウ。周囲でがっちりマークされ、まるで突風の中を突き進んでいたはずだが人馬とも冷静だった。

直線に向くと、前が空いた状態で4番手の外。理想的な位置だ。だが、ここで慌てて追い出すと最後に脚をなくす。心配された1Fの延長に対処するためにも我慢が必要だった。じっくり待つ。坂井騎手の手が動いたのは残り300mからだった。それも、ガツンと動かすのでなく、じわじわとスピードを上げた。馬に負担をかけないように。それでいて、後続馬の追い上げをしのぎ切れるように。ここぞ、という位置。それが残り300mだった。

予想通りに追い込み馬が飛んできた。レッドルゼル川田騎手の大きなアクションに導かれてグイグイと迫る。だが、レモンポップのスピードも落ちない。出遅れたメイショウハリオも懸命に詰めたが③着まで。レモンポップは1馬身半差、しのぎきった。

坂井騎手はこう語った。「精神的にどっしりしているので、馬が『緊張しなくていいよ』と言ってくれるような感じで、僕はただ乗っているだけです。そのあたりが強みです」。馬も大人になっているのだろう。③着以下に落ちたことがなく、早くから完成度は高かったが、まだ上がり目があるようだ。マイル、詰まった間隔を克服した今回は陣営にとって素晴らしい経験になったはずで、馬とともに厩舎サイドもどんどんパワーアップしていくはずだ。田中博師は騎手時代の後期に単身、フランスへ行くなど早くから海外競馬に目を向けていた。いずれ、レモンポップも海外に向かう時もあるのだろう。

レッドルゼルは猛追及ばず②着。ただ、過去2年のフェブラリーS④⑥着と来て、ついに馬券圏内に飛び込んだレースぶりは評価したい。こちらは最近、1200mの競馬が続いたということで、距離延長にスムーズに対応するため、CWコースでの長めの追い切りを重ねた。さすが百戦錬磨の安田隆厩舎。熟練の采配だった。メイショウハリオはスタートでかなり遅れたが、追い上げた脚には目を見張った。

この日は福永祐一騎手の国内ラストデー。東京3Rでの武豊騎手との叩き合いは、おおっと胸が躍った。ヒヤシンスSをペリエールで勝ち、最終レース後のインタビューでは大きな拍手が送られた。そんな日のメインを制したのは25歳の坂井騎手。「この後はお任せください」というメッセージを感じた。人の魅力馬の魅力。勝つことの難しさ喜び。いろいろなものが凝縮した2023年2月19日の東京競馬。後世に語り継がれる一日になったのではないか。


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