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速攻レースインプレッション

桜花賞に続き、強烈な末脚を武器とするクラシックホースが誕生

文/出川塁、写真/瀬戸口翔


稀に見る混戦とも評された今年の皐月賞。ただ、近年はキャリア2、3戦や休み明けで出走するのが普通となり、本番以前に有力馬同士が対戦することが少なくなっている。出走各馬の能力や適性、力関係を正しく把握するのは簡単なことではなく、そもそも断然の人気馬が現れにくくなっているのも事実だろう。

逆に言えば、それでも皐月賞で抜けた1番人気に推されるようなら、相応の器の持ち主と考えていいのではないか。17年にホープフルSがG1に昇格し、おおよそ現行の番組になった18年以降の皐月賞で、単勝2.9倍以内の1番人気に推されたのは19年のサートゥルナーリアと20年のコントレイル。ともに2歳時は3戦3勝で、ホープフルSを1番人気で制し、3歳初戦で皐月賞に出走している。

あとの3回の皐月賞では、1番人気が単勝3倍台にとどまった。これらの世代のホープフルS勝ち馬がどうだったかといえば、18年のタイムフライヤーと21年のダノンザキッドは皐月賞に直行せず、前哨戦に出走したものの敗れていた。また、22年のキラーアビリティは皐月賞に直行したものの、2歳時にすでに2敗を喫しており、ホープフルSでも2番人気の支持だった。

まとめると、ホープフルSで圧倒的な支持を集めた無敗馬がいて、休み明けで出走してくれば、その馬が不動の本命馬となる。そうした馬がいなければ混戦模様。これが現在の皐月賞というレースの大枠なのではないだろうか。

この法則に従うならば、ホープフルS勝ち馬であるドゥラエレーデがドバイ遠征を決めた段階で、もっと言えば同馬が2歳時に3度敗れ、ホープフルSで14番人気の評価だった時点で、今年の皐月賞が混戦となることは決まっていたのかもしれない。

実際、今年の皐月賞で1番人気に推されたファントムシーフの最終的な単勝オッズは3.8倍ハービンジャーマニアである私としては応援に力が入る1頭であり、ルメール騎手騎乗ということも大変心強かったのだが、どちらかといえば不安が先立ったというのが正直なところである。

レース前に血統好きの間で言われたのが、Danzigの直系が日本ではクラシック未勝利ということだった。代を重ねて距離をこなすようになってきたとはいえ、元々は短距離向き。クラシック5レースのうち、桜花賞以外はそもそも距離的に合わないという見方もできる。

また、Danzig直系は気性的に前向きすぎるタイプもいて、直線の長いコースへの適性も高いとは言えない。距離的にいちばん向いている桜花賞が外回りコースになったことも不運ではあっただろう。

その意味で、クラシック5レースで唯一の小回り戦である皐月賞はおそらくベストの舞台。しかも今年は土曜から道悪で時計勝負にはなりそうもない。サンデーサイレンスの血を持たないハービンジャー産駒であるファントムシーフにとって、これ以上ない条件が揃ったようにも思えたのだが……。

結果は③着まで。鞍上のルメール騎手によると向正面で落鉄したとのことで、滑りやすい重馬場だとさらに不利があったかもしれない。それでも最後は差を詰めて馬券圏内を確保して地力の高さは見せた。実質2×2とも言える強烈な血統(父父Dansiliと母母Promising Leadが同血馬)の持ち主。近親交配馬が種牡馬として成功した例は少なくないし、前述したようにサンデーの血を持たないことも大きな利点となる。今回はならなかったが、どこかで大きな勲章を得ることを切に望んでいる。

それにしても、勝ったソールオリエンスの末脚の鮮やかなこと。前半1000m通過58秒5ハイペースで展開が向いた面もあるだろうが、上がり3Fタイムは2位の馬より0秒9も速い圧倒的なもの。桜花賞のリバティアイランドに続いてちょっと見かけないレベルの差し脚だった。正攻法で抜け出し、普通なら勝っていてまったく不思議ない競馬をしたタスティエーラにとっては相手が悪かったとしか言いようがない。

今になって思えば、4角で外に膨れてキャリアの浅さを見せたものの、京成杯の走りには相当なインパクトがあった。ホープフルSばかりに注目していたが、こちらも同じ中山芝2000mの重賞だ。ここで高いパフォーマンスを披露した無敗馬が直行するようなら、来年以降も要注意となりそうだ。

最後に、その父キタサンブラックにも触れておかなければならない。切れ味を備えている産駒や、馬体重に不安のない産駒が多いこともセールスポイントだ。種付け料も、今年は大台の1000万円と伝えられている。イクイノックスに続いて牡馬の大物を輩出し、完全に成功軌道に乗った。


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