速攻レースインプレッション
重賞未経験の「第三の馬」がみせた完勝劇
文/浅田 知広、写真/森 鷹史
菊花賞では23年ぶりとなる皐月賞馬vsダービー馬。これまでの対戦では皐月賞馬が優勢で……、などという話はあちこちで報じられていたのでご存じの方も多いだろう。
筆者自身も調べていたのだが、その調べる前の段階でそもそも最近、皐月賞馬とダービー馬がどちらも菊花賞に出た年というのがまったく浮かんでこない。年を取ると最近のことが記憶に残りづらくなる、などという問題ではないレベルに出てこない。ということで探ってみると、2000年(皐月賞馬エアシャカール①着、ダービー馬アグネスフライト⑤着)以来の23年ぶりということだった。
それ以降、直接対決云々を抜きにしても、菊花賞を含む二冠を達成した馬は、2012年のゴールドシップ1頭だけ。三冠はディープインパクトなど3頭、春二冠はこれに加えドゥラメンテなどやはり3頭が達成しているのに比べると、どういうわけか春秋二冠の難易度はかなり高い。
さて、今年である。皐月賞馬・ソールオリエンスかダービー馬・タスティエーラかという下馬評ではあったが、これが難しいとなれば「第三の馬」に俄然注目が集まるところ。神戸新聞杯を勝ったサトノグランツが差なく続き、4連勝中のドゥレッツァ、そしてダービーで接戦を演じたハーツコンチェルトまでが単勝10倍以下でスタートを迎えた。
レースを引っ張ったのはその中の1頭、スタートでは少々後手を踏んだドゥレッツァだった。坂の下りで勢いづいて2ハロン目が11秒7、3ハロン目が11秒1というラップは、京都に戻った菊花賞らしい展開だ。タスティエーラは中団から位置を下げ気味に後方から7~8番手へ、これを見るようにソールオリエンスやサトノグランツと上位人気3頭は後方で脚を溜める形になった。
そんな展開に変化が訪れたのは向正面で、ドゥレッツァは3番手へ後退。このシーンだけを切り取れば「譲った」が正しいのだろうが、序盤に脚を使ったのを見ているだけに「後退」という言葉が頭をよぎる。
一方の人気3頭は後方で位置をキープしていたが、2周目の3コーナーにかかるとソールオリエンスが外からじんわりと進出を開始。サトノグランツはこの動きに対応できず追い通しになり、タスティエーラは外への進路を封じられて馬群の中。これに対しソールオリエンスはそのままマクリ気味に前へ前へと上がっていき、やはり皐月賞馬かという態勢に見受けられた。
ところが。そんな見応えある攻防に目を奪われていたすきに、直線で内めからスパッと抜け出すピンクの帽子。なんと、一時先頭を「譲った」だけのドゥレッツァだった。うまく馬群をさばいたタスティエーラや、外から脚を伸ばすソールオリエンスのはるか前で、最後はタスティエーラをさらに突き放し気味にゴールを駆け抜けたのだから驚きだ。
数字を見れば、ドゥレッツァの上がり3ハロンはメンバー中最速の34秒6。後方にいたタスティエーラ(34秒8)やソールオリエンス(35秒1)がかなうはずもなく、終わってみれば②着タスティエーラには3馬身半、さらにソールオリエンスには1馬身半の差。最後の一冠は「第三の馬」ドゥレッツァの完勝劇となった。
冒頭で触れた「〇年ぶり」という話をもうひとつすれば、重賞未経験馬の菊花賞制覇はなんと33年ぶりで1990年のメジロマックイーン以来。23年ぶりで驚いていたが、さらに大きな数字が出てきたものだ。
この年は②、③着のホワイトストーンやメジロライアンも強い馬だったが、皐月賞馬ハクタイセイとダービー馬アイネスフウジンは不在だった。対して今年のドゥレッツァは、皐月賞馬もダービー馬も下してのタイトル奪取である。メジロマックイーンのその後の活躍ぶりはここで語るまでもないが、今回のレースを見ればドゥレッツァにも同様の活躍を期待したくなるところだ。
しかし、4連勝中とはいえいずれも②着とは1馬身以下の差だった馬が、いきなりこの舞台、この相手で3馬身半もの差をつけて勝ったという事実を、まだ消化しきれていないというのも正直なところ。もっとも強い馬が勝つと言われる菊花賞で、単に勝つだけではなく強い勝ち方をしたドゥレッツァ。そのうち「〇年ぶり」どころか、「史上初」の偉業をいくつも達成してくれたりはしないだろうか。
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