速攻レースインプレッション
地力勝負で世界ランキング1位の独壇場となった
文/出川 塁、写真/川井 博
先週の菊花賞では、皐月賞馬とダービー馬の対戦が23年ぶりに実現したことが話題となった。前回が2000年ということは、21世紀になってからは初。3歳春までは同じ道を歩んでも、秋からは個性や適性に合った路線に進むのが当たり前の時代になったのである。
3歳限定の菊花賞でもそうなのだから、古馬になればもっと路線が分かれていく。先ほど書いた「23年前」の2000年といえば、同世代のテイエムオペラオー、メイショウドトウ、ナリタトップロードが古馬G1で何度も対戦していた年。古くはTTGなど同世代のライバル物語は競馬の醍醐味のひとつだが、最近はあまり見かけなくなった印象がある。
路線の細分化に加え、海外遠征が身近になったことで選択肢が広がっている。以前に比べてG1の賞金が高額になったこともある。ライバル同士で分け合うよりも、別々のレースを目指したほうが効率的という価値観の変化もあるかもしれない。
そうした状況にあって、今年の天皇賞・秋には昨年のクラシックを沸かせた4歳牡馬が数多く出走してきた。その中心はイクイノックスとドウデュースの2頭。いまや世界ランキング1位にまで上り詰めた前者にとっても、ダービーで先着された後者との久々の対戦には期するところがあったはずだ。
ほかにも、そのでダービーで1番人気に推されたダノンベルーガ、天皇賞春秋連覇を狙うジャスティンパレスなど4歳のトップクラスが集結。5歳にも大阪杯勝ちのジャックドール、上昇中のプログノーシスという強豪2騎がいるのだが、今回ばかりは4歳馬に目がいくのは仕方ないだろう。
なお、イクイノックスとドウデュースには、デビュー戦から同じ騎手とのコンビを継続中という共通項もあった。一流馬でも乗り替わりが普通になった現在、人馬一体の有力2頭が激突する構図もあまり見られない光景といえる。これもまた戦前の盛り上がりにひと役買っていたところもあったのではないか。
ところが当日の午後、武豊騎手が負傷したため9R以降で乗り替わることが発表される。代わってドウデュースの手綱を取る戸崎圭太騎手が関東の第一人者であることに疑いの余地はないが、予期せぬ乗り替わりはさすがに痛恨といわざるをえない。
イクイノックス&ルメール騎手とドウデュース&武豊騎手の対決が見たかった。戸崎騎手に何ら責任がないことはわかっていても、それが率直な心情には違いない。いささか対決ムードが削がれてしまった感は否めず、実際にレースはワンサイドゲームに近いかたちに収束していくことになる。
スタートから引っ張ったのは大方の予想通りジャックドールで、2F目から11秒台のハイラップを刻んでいく。2番手に4歳馬のガイアフォースが続き、イクイノックスは3番手に収まった。
ドウデュースはその直後の4番手につけた。スタートを決めたこともあり、いつもより前目の位置でイクイノックスをマークするかたちとなった。ダノンベルーガとジャスティンパレスは控えて、プログノーシスは最後方から末脚に賭けている。
3コーナーに差し掛かって1000m通過は57秒7。パンサラッサが大逃げを打った昨年より若干遅いものの、今年は2番手以降も離れずに追走している。展開がまぎれる余地は小さく、直線で余力のない馬から脱落していく地力勝負になるだろう。
そして、地力勝負になれば世界ランキング1位の独擅場なのだった。ルメール騎手の手綱は動かないまま、残り400m地点で前の2頭に並びかける。満を持して仕掛けられ、右ムチが一発、続いて左ムチが一発。これだけで後続を軽々と突き放した。ゴール前では手綱を若干緩めながらも走破タイムは1分55秒2。もちろんレコードで昨年に続く連覇を達成した。
これでG1を5連勝としたイクイノックス。次は当初よりジャパンCに向かう予定で、三冠牝馬リバティアイランドとの対戦が実現する。同世代の戦いにけりをつけ、今度は世代間の戦いが待っている。
2馬身半差の②着に入ったのはジャスティンパレス。上がり1位の脚(33秒7)を使って最後までよく伸びていた。厳しい流れになってスタミナが活きた面もあるだろう。③着のプログノーシス、④着のダノンベルーガと後方待機組が続くなか、2番手先行のガイアフォースが⑤着に粘ったのも立派で、やはりこの馬は高速決着に強い。
一方、ドウデュースは直線で見せ場をつくることなく⑦着に敗れた。休み明けでの出走は①②着馬も変わらないが、こちらはドバイ遠征で出走を取り消したあと。ひと頓挫があった次戦で息の入らないレコード決着、急遽の乗り替わり、さすがに厳しいものがある。
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