速攻レースインプレッション
世界に注目されたレースで「世界最高」の馬を見た
文/木南友輔(日刊スポーツ)、写真/瀬戸口翔
イクイノックスが「2023年の世界最強馬」であることを確定させたジャパンCになった。2分20数秒、場内の大歓声はスタートからゴールまで止めどなく続いた。主役がいて、素晴らしい敗者(グッドルーザー)がいた。多くの海外メディア、競馬関係者も来場し、注目度も今年の競馬で「世界最高」だったのではないか。
スタートを決め、1コーナーの入りでパンサラッサ、タイトルホルダー、イクイノックス、リバティアイランドという隊列ができあがった。2コーナーでパンサラッサが2番手以下を引き離し、1000m通過のタイムは57秒6の表示。2コーナーで2番手タイトルホルダーとの差は5馬身ほどだったのが、向正面から3角で10馬身、15馬身に開く。どこで止まるのか。パンサラッサは3、4コーナーも極端にペースを落とすことなく、最後の直線半ばまで自分の競馬を貫いた。吉田豊騎手とパンサラッサ、矢作厩舎。世界最高賞金額のサウジCを制し、数え切れない競馬ファンを興奮させた究極の逃げ(※もちろん勝利の可能性を追求した逃げ)を最大限に称賛したい。
ラップは12秒7-11秒3-11秒5-11秒0-11秒1-11秒5-12秒0-12秒1-12秒1-12秒4-12秒4-11秒7。明け方、今朝の早い時間のレース中には霧雨、小雨があった東京競馬場。先週や前日と比べ、わずかに時計がかかる馬場になっていた印象がある。レコードタイムではないが、3番手で追走。上がり3ハロン33秒5で上がられてしまってはイクイノックスの後ろにいた馬たちはノーチャンスだった。
記者が狙ったのは◎タイトルホルダー。4月、春の天皇賞で悪夢の競走中止。慎重に立ち上げ、絶不調に見えたオールカマーで②着。質量ともに前走とは別次元に仕上がった今回、好勝負になると見込んだのだが…。出来は良かったと思う。ただ、終わってみれば、うまくマークを薄められると思ったパンサラッサの参戦、そのパンサラッサの状態が想像以上にハイレベルだったこと、そして、イクイノックスに完璧にマークされる形になってしまったことで、最後は粘りきれなかった(⑤着)。タイトルホルダー自体の上がり3ハロンは35秒0。最後の坂を上がった後も止まっている感じはなかったのだが…。
完敗だったが、②着リバティアイランドは最強馬を懸命に追ったし、天皇賞を回避し、久々だった③着スターズオンアースも地力の高さをあらためて証明した。ダービー馬ドウデュースも返し馬が抜群に良く、主戦武豊騎手不在ながら意地を見せた(④着)。フランスから参戦のイレジンも軽めの調整に終始しながら、しっかりと走り切った(⑨着)。ホリー・ドイル、マリー・ヴェロン、そして、藤田菜七子騎手の女性騎手3人の騎乗はジャパンCの新たな歴史をつくった。
このまま今年の世界ランク1位はイクイノックスで間違いないだろう。木曜にJRAがどのような数字を発表し、それを世界のハンデキャッパーがどうように評価するのか。レーティング128は昨年のフライトラインやバーイードの数字にははるかに及ばないが、今年の競馬界のナンバーワンとして、十分にふさわしい数字だと思う。
世界ランク1位になれば、現在の「ロンジンワールドベストレースホースランキング」のランキングシステムが始まってから2頭目となる日本馬のチャンピオン。前回はドバイターフをぶっちぎったジャスタウェイ。願わくは、「ドバイでたたき出したレーティング世界一」ではなく、日本の競馬場で、日本のレースで、世界最高のレーティングがマークされての世界一であってほしい。イクイノックスの前走、天皇賞・秋のレーティングは127だったが、ジャパンCの数字が129、あるいは、それを超える数字になってほしいと思う。天皇賞・秋で上位馬のレーティングの基準となった④着馬ダノンベルーガとの着差は今回ひろがった。一方、今回④着のドウデュースとの着差は天皇賞・秋との比較で縮まっている。
1着賞金5億円というのは円が安くなり、海外にいくつも高額賞金レースが生まれているなかにあって、決して特筆すべきものではないのかもしれないが、それでも競馬関係者が低い賞金にあえぐ欧州競馬から見れば、魅力的な金額なのは間違いない。昨年のシャフリヤールもそうだったが、ドバイシーマCを勝ったことで生じる、ジャパンC優勝ボーナスの権利。3月に勝って、11月にここを勝つ、机上の計算は簡単だが、牧場関係者、厩舎関係者の卓越した仕事がなければ成されなかった偉業だ。はたして、連覇がかかる有馬記念参戦はあるのか、来年の現役続行があるのか、引退→種牡馬入りとなるのか。シルクレーシングがどのような選択をするのか。大いに注目したい。場内インタビューのルメール騎手の第一声は「今日は世界一の馬を見ましたね」。心からうなずける、イクイノックスの走りだった。