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速攻レースインプレッション

ダービー馬を完全復活に導き、ドラマチックな勝利でファンを魅了

文/鈴木 正(スポーツニッポン)、写真/瀬戸口 翔


凄いものを見た。胃の上のあたりがグッと熱くなっている。ドウデュースが先頭でゴールに飛び込み、武豊騎手がムチを持った右腕を振り下ろした瞬間、何かが脳裏でフラッシュバックした。

何というアクティブな騎乗か。道中は13番手の外にいたドウデュース「前半はこの馬のリズムでゆっくりと行って、ラストは良い脚を持っているので、そこにかけていました。道中、少し馬は元気が良すぎたところもありましたが、何とか我慢できました」(武豊騎手)。タイトルホルダーが先手。アイアンバローズは中団のインで絡みに行く気配を見せない。現役トップクラスの逃げ馬が自分のペースを刻んでいる。なかなか動きにくい展開の中、誰よりも早く動いたのが武豊騎手だった。

「残り700mくらいから、この馬の末脚を活かすだけ活かそうと思って。4コーナーを回る時の感じが良かったので、何とかなるかなと思いました」(同騎手)。3角付近から外を上昇するドウデュース。じっくりと上がって4角3番手につけた。手前を替えなかったが、スターズオンアースとともにタイトルホルダーを追い詰める。残り50mでついに先頭。するとドウデュースの首が猛獣のようにグッと下がった。決着の合図だった。半馬身前に出る。ダービー馬の完全復活が成った。

フラッシュバックの正体に気付いた。あの有馬記念と同じじゃないのか? すぐに武豊騎手がオグリキャップに乗って制した1990年グランプリの映像を見直した。武豊騎手は、ほぼ同じところ、残り700m付近からスパートをかけていた。この時は道中6番手。4角では前にオサイチジョージを置いて2番手を確保した。直線では外からメジロライアン、内からホワイトストーンが迫ったが懸命に押し切った。武豊騎手、4度目の有馬記念制覇は、初めて勝った時の"基本"とも"十八番"ともいえる乗り方での勝利だった。

馬柱も見直す。ドウデュースはこの秋、天皇賞⑦着、ジャパンC④着。天皇賞、ジャパンC、有馬記念は、いわゆる秋のG1王道路線だが、この3戦を皆勤する馬は近年、とんと見なかった。今年のメンバーではドウデュースだけ。昨年も皆無だった。休み明けでG1を狙い撃ちするローテーションが主流となる中、ドウデュースはかつてのテイエムオペラオーやシンボリクリスエス、ゼンノロブロイを思わせる路線で勝ち切った。ドウデュースは過去の名馬たちを次々と思い出させてくれる。オールドファンは、ついうれしくなってしまう。

お立ち台での武豊騎手の表情がいい。気分の高揚が素直に伝わってきた。それにしても何という人だろう。天皇賞・秋当日に騎乗馬に蹴られ、右太ももを負傷。復帰は予想以上に長引いた。しかし、12月16日に戦線復帰すると、翌17日には朝日杯FSで4番人気エコロヴァルツを②着へと導いた。そして、この有馬記念制覇だ。改めて言うと怒られてしまうが、御年54歳。この人に年齢の壁などないのだろうか。

「ドウデュースも私も帰ってきました!」。また、名馬がフラッシュバックした。キズナだ。2013年ダービー。苦難を乗り越えてのダービー5勝目(当時)。武豊騎手はお立ち台で「僕は帰ってきました!」と叫んだ。スタンドで涙を拭う人がいたことを今でも覚えている。自分の涙腺もグッと熱くなった。個人的事情で申し訳ないが、筆者は武豊騎手と同い年。54歳で、これだけのドラマを見せてくれる。同世代として誇りに思える。

24日の騎乗馬は、この有馬記念でのドウデュースのみだった。2017年キタサンブラックで制した有馬記念。この日も、この1鞍のみだった。ここ一番で見せる"1鞍入魂"。すべてのエネルギー、集中力をここに集約し、結果を出してみせる。またひとつ、超人伝説のページを増やした。

武豊騎手のヒーローインタビューの締めに、またしびれた。「やっぱり競馬はいいなと思います。メリークリスマス!」武豊騎手「馬に乗れることは素晴らしい」という意味で言ったのかもしれないが、自分を含めたファンも「競馬はドラマチックで素晴らしい」と思えた。誰もが幸せに思える言葉を瞬時に紡ぎ出す武豊騎手。目を閉じて、その言葉の意味をかみしめた。競馬を始めて40年近くになるが、心に強く刻まれたグランプリ。ありがとう。メリークリスマス。
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