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西塚助手

【対談・野中悠太郎騎手④(終)】辛かったけど、アイルランドに行って良かった


野中悠太郎騎手…以下[野]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]アイルランドの話をしながら、松岡さんがアイルランドに行った当時の姿を思い出してきました。上手く言えないけど、この仕事をしていると、眼前にいる馬がどうやったら良くなるかということが大事で、そういうことを反射的に考えるわけですよ。ただその一方で、1人で仕事をしているわけではありません。そうなると、他者の顔色を伺いながら仕事をしなければならないケースも出てくるわけですよ。ブッチャけさせていただきますけど、馬の順番が後回しになることもあります。でも、アイルランドではそんなことないでしょ?

[野]ないですね。みんな言いたいことを言いますし、馬の立場というか、馬の都合で話をしています。実際、馬の状態が良いときは詰めて使ったりしますけど、いまひとつだったり、悪いときにはトコトン使わなかったりします。春にシーズンが始まって、1回出走して調子が悪くなってしまったら、平気で次の春までレースに出走させないこともあるんですよ。

[西]日本では絶対にあり得ないよね。でも、馬のことを思えば、本当はそうあるべきなのかもしれないですよ。例えば、みんな最初は馬のことを考えて相談しているのに、いつのまにか「とりあえず出走させてみよう」という雰囲気になったりすることがあると思うけど、そういうのがアイルランドではないでしょ?

[野]ないですね。そういう考えが、基本的にないです。

[西]いろいろな兼ね合いもありますから、仕方がないのかもしれないけど、なかなか現実として難しい部分はありますよ。馬のために、馬のことを考えて働いているはずなんですけどね。アイルランドでは、騎手が調教師に意見を言うことは多いの?

[野]調教師さんだけでなく、オーナーも、レース前とレース後は必ずジョッキーのところに来て話を聞いています。レースの中で感じたことや動きなど、細かい部分まで聞かれることがほとんどです。そして何より、「走らないのならば走らないと言ってくれ」ということをオーナーに言われるんです。あと、騎手同士の関係も日本とは違います。日本だと、やはり先輩、後輩がありますが、向こうはそれこそ"先輩"という言葉も、"さん"付けもありません。しかも、デビュー2、3年目の騎手が、大ベテランに対して「危ない」とか「いい加減にしてくれ」というようなことを平気で言っています。

[西]日本ではほとんど見かけない光景ですよね。そういう環境のなかで、2着、3着はあったけど、勝つことはできませんでした。悔しいのは当たり前だと思うけど、何が難しいと感じましたか?

[野]どうですかね? 馬のレベル、特に下級条件は、日本の方が圧倒的にレベルが高いです。

[西]松岡さんも、それはよく言ってる。

[野]ただ、競馬の質が違うというか、日本ではスピードが第一ですけど、向こうではパワーや、スタミナが求められます。馬場も、日本はフラットというか、凹凸がそれほどありませんけど、向こうは自然の草原のままに競馬場を作っていますので、縦横無尽にうねっていますし、凹凸なんて当たり前ですから。ヨーロッパのなかでも比較的日本に近いと言われるフランスでも、質が違うと感じます。

[西]松岡さんも凹凸のある坂をキャンターで下りたときには気持ち悪かった、と言っていましたけど、それほど違うものなんだ?

[野]乗っていても、まったく違うと感じました。

[西]逆に、同じだったことはありましたか?

[野]日本でもアイルランドでも、騎手は馬のリズムを絶対に崩さないように乗っているということです。日本のジョッキーは、競馬学校の時代からできる限りサラっと馬の邪魔をせず、負担がないように乗るように言われます。それに対して、アイルランドではハミをかけて、馬を抱えながらも、行きたがる馬を無理矢理抑え込んだり、あるいは出ていかない馬をむりやり行かせたりポジションを取ってガッチリと持つというのではない。とにかく馬のリズムを崩さないんです。逆に言うと、馬のリズムを崩さないようにしながら、コントロールしているということなのでしょう。それを、日本に来ている外国人ジョッキーたちはできている。これは向こうに行ってみて痛感しました。

[西]日本に来ている人たちは、みんなスーパースターですからね。

[野]うねっていて、凹凸が激しい中で、馬は躓いたりしてバランスを崩すことはありますけど、乗っている人間は大きくバランスを崩さないんです。馬がバランスを崩して戻ってきたとき、人間は正しいバランスがとれたポジションで乗ることができている。そのバランス感覚というか、フィジカルの強さみたいな部分を、トップジョッキーたちは持っていると感じました。また、それが自然とできている感じがあって、そこの部分は違いを感じました。

[西]こういう言い方をしたら語弊があるのかもしれないけど、野中君がアイルランドに行く前と後で、コース取り、乗り方、あるいは競馬の仕方が劇的に変わったという印象は受けないんですよね。細かい技術論の部分は、騎手じゃないと分からない部分だけど。ただ、ツイッターなんかを見ていると、帰国後に人気薄を好走させた時に、乗り方が変わったというような書き込みを見受けるんです。本人としてはどうなの?

[野]ひょっとしたら、劇的に乗り方を変えた方がアピールにはなるのかもしれません。ただ、僕自身はもちろんレベル的に向上しているという感覚がありますし、頭の中でレースに対しての考え方が変わったことが大きいと思っています。極力コースロスしないのか、馬の邪魔をしないのか。距離ロスと馬のリズムのバランスで、馬のリズムを崩さないようにするならば、多少の距離ロスは仕方がない、というようなレースでの判断。この部分で、大きく変わったと思います。あと、帰国してからの方が、いろいろな先輩に聞くようになったかもしれません。

[西]それ以外に、自分でどこが変わったと思いますか?

[野]メンタル面で成長したんじゃないか、と思うところはあります。後悔したくないという思いがあって、レース後に伝えるべきことはしっかりと伝えるべきだと思っています。

[西]結論として、アイルランドに行って良かったですか?

[野]良かったです。22年間で一番辛かったですけど、行ってよかったです。競馬に乗ることができないことが、こんなに辛いものかということを痛感させられました。前年に600鞍乗せていただいて、現地では毎日作業ばかり。「何をしに来たんだろう」と思うことも多々ありましたよ。

[西]7ヶ月という長い期間でしたよね。

[野]ひとシーズンいないとわからないことが必ずあるはずだと思って、そうしました。でも、行って本当に良かったと思っています。

[西]もう遅くなってしまいましたが、あとは藤田菜七子騎手ですよ。

[野]ハッキリ言いますと、こういう形でちゃんと聞かれることは嫌いではないですし、しっかりと話をさせていただきます。でも唐突に聞かれることがあって、「なんで、僕が答えなければならないのか」と思うこともあります。

[西]やはり、そういうことがあるんですね。

[野]フェブラリーSの前週にも、いきなり「菜七子騎手がフェブラリーSに乗りますけど」と聞かれました。自厩舎の馬ならまだしも、その馬に乗ったこともありませんし、しかも僕自身G1にも乗っていないのに、何を答えられるのか、と。「僕には関係ないです」と言ってしまいました。

[西]今日もそれでいいですよ(笑)。

[野]いえ、ちゃんと聞かれれば話はさせていただきます(笑)。入ってきた当初は、とんでもない後輩が入ってきたなぁ、という思いはありました。何せ、注目度が凄かったですし、見ていて本人も本当に大変そうでしたから。厩舎の中でも自然と役割があって、丸山先輩は割と乗り方について話をして、僕は何も言わない、という感じなんです。そうしないと、はけ口がなくなってしまいますから。それでも、本当に辛抱強く頑張っています。逆に言えば、菜七子が取り上げられることで、僕たちも取り上げられることがあって、それはそれでありがたいことですし、僕自身も頑張らなければならないという思いにもなります。僕自身としては、この3兄弟の感じはとても良いと思っているんです。

[西]それは君が次男だからだよ。元気さんが次男だったらこうはいきませんよ(笑)。

[野]いやいやいや。そんなことはないと思います。

[西]それにしても、藤田騎手のことを野中君に聞くというデリカシーの無さは凄い。ここは声を大にして言いたい。

[野]普段から仲が良い記者の人から「今日菜七子ちゃんの取材に行っても大丈夫かな?」とか聞かれて、「大丈夫じゃないですか?」とかいうようなやり取りをすることはあります。でも、初めて話をする記者の方に聞かれても、答えようがないこともあります。

[西]でも、本当に頑張っていますよね。この前もTBSラジオの伊集院光さんの番組に出ていました。

[野]あれは羨ましかったです。うわ、なんで出ているんだ、と思いました。

[西]そろそろ時間ですね。今後も応援しています。今日はありがとうございました。

[野]ありがとうございました。



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