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速攻レースインプレッション

思い切った変化に見事応え、ラスト1冠で完勝

文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/森鷹史


現状を打破するには何をしたら良いのか。ハードに突き詰める。それもひとつの手だ。睡眠時間を減らして働く、あるいは勉強する。一時的な効果はあるだろう。ただ、いずれ能率は悪くなる。必要な体力まで削ってしまっては先がない。

こういう時は発想の転換が必要だ。思い切って休んでみる。体力が回復すると、勉強したい、働きたいという意欲が湧いてくる。休んだ分のマイナスなど意外と早く取り返せるものだ。そして、休む前よりモチベーションは上がっている。結果として成長を遂げている…。

桜花賞オークスとも③着に敗れたクロノジェネシスがラスト1冠・秋華賞を手にすることができたのは、こんな発想の転換があったように思う。前哨戦を使うことなく秋華賞一本。もちろん、ノーザンファーム生産馬で牧場サイドにノウハウがたっぷりあることは大前提。そこに加えて、戦いの場から徹底的に離れてリフレッシュさせたことが、うまくハマったような気がしてならない。

パドックで5ヵ月ぶりに見たクロノジェネシスは別馬のようだった。オークス時には少しチャカチャカしたところを見せた。トモの張りも、あくまでそれなり。突き抜けるまでの馬体ではなかった。ところが、夏を越し、20キロ増えた馬体は一変していた。毛ヅヤは抜群。首をスッと上げ、周囲を睥睨(へいげい)するような雰囲気があった。トモは内側からメリッと盛り上がり、パワーがみなぎっていた。

これこそが関係者が狙っていたクロノジェネシスの馬体だったのだと思う。デビュー戦の440kgからわずかな増減を繰り返し、オークス時が432kg。そういう現状維持に似た動きはもういい。思い切った変化が欲しい。その結果が452kgのボディーだった。前走比20kg増での秋華賞馬は史上初。つまり、非常識と言える変化だった。だが、何か新しいことを起こすには、それくらい思い切る必要があった。クロノジェネシスは、その思い切りに見事応えた。

いろいろな思惑が交錯したレースだった。ビーチサンバがハナを切る。外からコントラチェックが迫った。コントラチェックのルメールはあっさりとは引かなかった。これはビーチサンバ福永騎手にとって誤算だったろう。

ペースはなかなか落ちず1000m通過は58秒3。おあつらえ向きの流れをクロノジェネシス北村友騎手は折り合って進んだ。4角では5番手で馬群の中。進路が空くかどうか微妙だったがパッシングスルーが下がったことでスペースが生まれた。これが最後の関門。あとは成長を遂げたトモを存分にしならせ、差し切るのみだった。苦もなくダノンファンタジーをかわす。残り200mからの伸びは秀逸だった。これが本当に桜花賞オークスとも③着に泣いた馬なのかというくらいの強さ。完勝だった。

追い切りの後、斉藤崇師が口にした言葉が頭に浮かんだ。「出来はオークス時の8割程度だと思います」。これをどう捉えるか。普通は「③着だったオークスから2割引きの出来なら掲示板に載るか載らないかでしょ?」と受け取るもの。だが、実はアスリートにとって10割の出来はいらないという説がある。100%仕上がってしまうと、これで勝たなきゃウソだろうという気になり、知らず知らずのうちに自分で自分にプレッシャーをかけてしまうというのだ。

なるほど、というところはある。中日の山井大介投手が13年にノーヒットノーランを達成した時、「絶好調というわけではまったくなくて…。だから谷繁さんのミットを目がけて丁寧に投げようと思った」と話した。8割の出来であることが快挙を引き出したという点で通じるものがある。

②着カレンブーケドールも奮闘した。最後はしっかり伸び、オークス紫苑Sとは違ったレース運びで良さを発揮した。今後も牝馬G1戦線をにぎわす馬となることを印象づけた。③着シゲルピンクダイヤは外から目立つ脚を見せた。これぞ根性娘というイメージ。桜花賞②着がフロックでなかったことを証明した。

1番人気ダノンファンタジーは⑧着。厳しい流れの中を先団で立ち回り、残り150mで脚が止まった。稍重馬場は確実に影響したはずで、そんなに悲観する敗戦ではなかった。3冠戦線で無冠に終わったことは悔しいだろうが、そういう馬が這い上がる様子を見るのも競馬の楽しみのひとつ。逆襲の時を待ちたい。


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