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西塚助手

【対談・小島勝三調教助手②】マンハッタンカフェの第一印象は“走りながらアクビをするような馬”


小島勝三調教助手…以下[小]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]境勝太郎先生が残された数々の伝説の中で、何か特別に覚えている話ってありますか?

[小]どうかなぁ。どれも強烈過ぎて、どれというのは言えないかも。

[西]ちなみに、ウチの祖父である西塚十勝の伝説はウィキペディアにすべて書いてあります(笑)。

[小]あ、そうなんだぁ(笑)。

[西]お年玉の金額がすごく高かったとか、高い三輪車をプレゼントされたりとか、そういうこととかはありました?

[小]そう言えば、当時おもちゃ屋さんとかでミニカーが売っていたんですけど、それがたくさん並べられたケースがあったのって、わかりますか?

[西]ありましたね。

[小]あのケースを買ってきてくれたことがありました。中身はなかったんですけど。

[西](笑)。ケースですけど、子供にしたら凄いことですよね。

[小]いまでもよく覚えていますし、凄く嬉しかったですよ。

[西]僕は小学4年生のときに、当時祖父がやっていた牧場に馬に乗りに行くことになったんですけど、そのときに乗馬靴をオーダーメイドで作ってもらったんです。その靴しかもらったことがないんですけど。

[小]でもいい話ですよね。ちなみに馬には乗ったの?

[西]乗りましたよ。小さいパドックにいる馬に対して『あの馬を引いてこい』と言われて引いたんですけど、その馬が牝馬で、周囲にいる休養している牡馬たちがブヒブヒ言って寄ってくるわけです。すると、牝馬も興奮して暴れるわけですよ。馬も引いたことがない子供ですから、馬に引きずられたりもしましたし、乗るよりもそれが怖かったぁ。

[小]それは怖い。というか、いまでも怖いですよ。

[西]そう、そう。怖いですよね(笑)。

[小]いまの方が怖いかもしれないよね。馬についていろいろ知っているからこそ、逆に怖いよ。

[西]子供ですから、牡、牝さえわかっていませんでしたからね。結局、ロンギ場みたいなところで馬に乗せられて、何も教えてもらっていないのに、後ろから砂を掛けられて、ロデオ状態でしたよ。2日間乗って、股間が痛くなってしまって、乗るのをやめました。

[小]お祖父さんは、『何くそ』ともっと頑張ってくれることを望んでいたのか、それとも『馬は諦めた方がいい』と言いたかったのか、どちらだったのかな。

[西]そのときはわかりませんけど、亡くなる直前、大学院に行っていた僕に『これからの馬の世界には来てはダメだ』と言っていました。僕がこの世界に入ろうとしたとき、唯一祖父だけが反対したんです。それが正しいかどうかはわかりませんけど、ただそれまでのような馬の世界ではなくなっていくということを言いたかったんじゃないか、と思うんです。

[小]そうなのかもしれないよね。

[西]でも勝太郎先生の、最後の年に重賞9勝は凄い。

[小]実は、祖父は重賞10勝を公言していたらしいんですよ。

[西]え? それは凄いですよ。

[小]だからなのかもしれませんが、サクラローレル秋の天皇賞に負けてしまったときに(横山)ノリさんを怒ったんですよ。豊さんに閉められて出れなくて、3着に敗れてしまったんですけど、もし勝っていたら10勝になっていた。

[西]そうでした。でも、騎乗に関しては、調教師は騎手に対してプロとして意見をしてもいいと思うんですよ。

[小]これは後から聞いたことなんですけど、『降ろすつもりがないから怒った』ということらしいんです。降ろすならば怒らないということで、怒られているうちはまだ大丈夫ということなんでしょうね。



[西]実は、同じことを父に言われたことがあります。『文句を言って、次に乗り替わりをさせるのは最低の人間がやることだ』と教えられました。

[小]次はミスが許されないからこそ、あそこで怒ったんだと思います。

[西]そういう部分というのは、調教師というだけでなく人としての生き様というか、理想だったりすると思うんです。確かに調教師としてはより良い騎手だけを乗せていればいいのかもしれないですけど、そうじゃない部分を大事にする、ということだと思います。最近は、そういう部分がなくなってきてしまっているように思うんですよね。師としての立ち振る舞いというか、尊厳みたいなものがなくなってしまっているような気がします。

[小]確かに、そういうところはあるように思います。

[西]でも、メリット制などルール上の問題ができたのは、父の時代なんですよね。そこには理由があるんだと思っています。

[小]時代の流れもあっただろうし。甘いのかもしれないけど、その当時の良さもあるし、その時代があったからいまがあると思うんですよ。

[西]もちろんです。あの時代の良さは間違いなくあると思っています。学ぶこともあると思うんですよね。

[小]調教師としてではなく、経営者としてシビアではなかったということなんじゃないかと思うんです。

[西]そうかもしれません。

[小]その反動で、いまはそういう面が強く出てきているのかもしれませんよね。

[西]あ、確かに。どちらがいいのかは価値観の違いもありますから、どちらとは言えないですけど。いまの時代は調教師というよりはビジネスマンという側面が強くなっているのは明らかだと思います。

[小]そういう部分が強く求められるようになったということなんでしょうね。

[西]でも、そうではない部分も調教師としては大事なような気がします。

[小]もちろん、どちらも必要な部分ですからね。

[西]ちなみに、勝三さんは最初から小島太厩舎だったんですか?

[小]違いますよ。最初は加賀武見先生のところにお世話になりました。いやあ、本当に良くしていただいて、感謝しかありません。

[西]あ、加賀先生のところにいたんですか。

[小]すぐに調教助手になれ、と言われて、確か7月に入って、北海道に出張に行って、戻ってきたら調教助手になっていた感じでした。競馬場に入って、1ヶ月、2ヶ月の人間がそう簡単にはできないんですけど、馬には乗せてくれましたし、本当にお世話になりました。

[西]加賀先生と言えば、騎手として誰もが知る名ジョッキーですけど、騎乗のテクニカルな部分についても教えてもらったりしたんですか?

[小]いろいろ教えてもらいましたけど、まだこの世界に入って僅かでしたから、言われていることの意味がよくわかっていませんでした。加賀先生だけではなくて、名ジョッキーと言われる人たちが馬乗りを教えようとするときは、例えば長嶋茂雄監督のように"はい、取って、ビューンと投げて"みたいな感じで。言われている方はよくわからない、という感じになると思いますよ。

[西]自分はできてしまうわけですから、歯痒さも感じるでしょうね。でも、長嶋さんには長嶋さんの理論はあるんでしょうけど、それを上手く相手に伝えるのは難しいんだと思います。ノリさんもそういう感覚、ありませんか?



[小]そうだね。

[西]ノリさんは話をしていると、ロジカルだと思うんですよ。何となく、ではないんですよね。話を戻しますけど、そこから太先生のところになったんですか。

[小]いましかタイミングはないと言われて、転厩したんです。加賀先生のところには2年近くお世話になりました。

[西]ということは、横山義行さんとは兄弟弟子ですか。

[小]兄弟子ですよ!

[二人](笑)

[西]太先生のところでどんな馬が走っている頃に移られたんですか?

[小]そうですね……マンハッタンカフェが古馬になってからですね。

[西]セントライト記念にソンソン(二本柳元騎手)が乗っていた時は、加賀先生のところにいたわけですね(2001年)。

[小]加賀厩舎で見ていました。ただ、加賀厩舎というのは、競馬の開催日でも通常と同じ時間に乗ることが多かったので、馬場が開いたら乗る感じで早乗りだった小島厩舎の手伝いもしていたんです。

[西]なるほど。ちょっと待ってください。読者の方々にご説明させていただきますと、調教助手でも調教師同士が承諾していれば、お手伝いができるんです。実際、僕自身も先生に言われて、尾関先生の師匠である大久保洋吉先生のところの調教をお手伝いしたことがあります。そんなこともあって、忘年会にもよく呼んでいただきました(笑)。でも、実家の馬に、しかもG1馬に乗るというのも凄いですよね。

[小]マンハッタンカフェにも何回か乗せていただきましたよ。

[西]やはり凄かったですか。

[小]当然だけど、追い切りは乗せてもらえませんよね。初めて乗せてもらったのは坂路での普通キャンターだったんですけど、気がないような感じで、『これで本当にG1を勝ったのか……』と逆の意味で驚きました。

[西]そんな感じだったんですか。

[小]変な言い方ですけど、走りながらアクビをしているような感じと言えばいいのか、とにかく走る気を感じさせないタイプでした、だから、距離も対応できたんでしょうね。

[西]僕自身の勝手なイメージなんですけど、マンハッタンカフェってスラッとしていて、どちらかと言えば華奢なタイプという印象が強いんですよね。

[小]父親が欲しくて馬主さんに購入してもらったんですけど、そこに魅力を感じたそうです。華奢で線が細い印象を受けるところが逆に化けるんじゃないか、と思ったようです。

[西]なるほど。

[小]クラシック、そして長い距離というのが、そういう部分からイメージできたということみたいです。華奢で、一見すると頼りなさそうで、緩そうなところが魅力的に映ったみたいですよ。

[西]そう考えると、マンハッタンカフェに始まり、いろいろな名馬たちに乗っているんですね。

[小]いろいろな馬たちに乗せてもらいましたよね。

(※次回へ続く)

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