西塚助手
調教師や馬房を減らすJRAの方針に、疑問を感じるんです
スプリンターズSのレッドファルクスは3連覇ならず、残念ながら⑩着という結果になってしまいました。
できる限りのことをして送り出せましたし、調子そのものは良いという感触を持っていました。競馬ですからいろいろなことがあるわけで、その敗因についてはいろいろな面があるのでしょう。
僕自身としては、故障した馬が下がってきたときの影響や、馬場、大外枠、乗り替わりなど、様々なことがレッドファルクスの味方にならなかったということなんだろうと思っています。
例えば、全く同じシチュエーションで20回レースをして、20回すべて勝てる馬はほとんどいないでしょう。中には毎回勝つ馬が入れ替わることもあるはずです。
そんな中で、今回勝ったファインニードルは、僕としては10回以上勝つんじゃないだろうかと思うんです。そのくらい強かったと感じました。
もちろん、レッドファルクスも過去に強いレースをして勝っています。ただ、後方から行くタイプで、レースの流れや展開に左右される面がある以上、常に全能力を出し切れるわけではない。今年も勝つ順番になれば良かったんですけど、そうはならなかったということでしょう。
もちろん勝つのが一番ですし、そう思って送り出していますが、やはり無事に、という思いも年々強くなります。そういう意味では、今のところ無事ですから、そこは良かったです。
話は変わりますが、今週、静内で1歳馬のオータムセールが行われました。このセリ結果を受けて思ったことがあったので、今回はその話もさせていただきたいと思います。
僕自身、競走馬のセリはすべてチェックしています。どんな馬が、どのくらいの値段で取引されているのかということはもちろん、取引頭数や平均価格など、いろいろなことを見ます。
特に最近のセールで驚かされるのが、売却率の高さです。8月に行われた1歳のサマープレミアムセールは上場頭数が186頭に対して144頭が売却され、売却率は77.41%になりました。
この数字を見て、「そんなに売れるんだ!」と思ったんです。一瞬、勘違いかと思って、2010年の1歳サマーセールの売却率を調べてみると、確かに40%前後しかなかったんですよ。
また生産頭数も増えていて、今年9月に発表になった速報値だと約7200頭で、去年と比較して500頭も増えています。
売れるから、生産頭数が増えるのは自然でしょう。市場が活性化されることで馬資源が増える。そういう意味で、今はいい循環だと思います。
そんな一方で、JRAは調教師の数、馬房の数を減らすという方針を打ち出しています。僕自身も調教師試験を受けている身ではありますが、敢えて言わせていただくと、この方針は現状に即しているのかという疑問があるんです。
生産頭数が減少して、馬も売れないから縮小するというのならば理解できます。しかし、ここ数年の状況を見る限り、数字上は逆を示しているわけですよ。
この方針を採る理由は、少子高齢化などいろいろな側面があるようですが、中にはメリット制を導入してから調教師の価値が下がり続けていて、それを再び高めるため、という意見もあると聞きます。
もちろん、この景気がどこまで続くかどうかわかりませんし、少子化で、競馬という産業がどうなっていくのかという不安は理解できます。
ただ、だからと言って、調教師を減らし、馬房を減らすことがベストの選択なのか。まずはファンの方々、そして馬主さんにとって魅力ある競馬を提供することが大前提で、そうなると馬資源はより多い方が良いはず。
ファンの皆さんに魅力あるレースを提供するのと同時に、競馬界は収入などを含めて魅力ある世界でなくてはならないはず。そのためにすべきなのは、門戸を狭くすることではないんじゃないかと思うんです。
以前対談に登場していただいた井垣裕太調教助手は、この連載を牧場時代から読んでいて、トレセンに入ってきた方です。読者の皆さんから見ても「競馬界に入ってみたい」、さらには「調教師になりたい」と思えるように、魅力ある現場にすることも大事だと思うんですよ。そう思っていただけるように、これからも頑張っていきたいと思います。
※西塚助手への質問、「指令」も募集中。競馬に関する質問、素朴な疑問をお送り下さい! 「こんな人と対談してほしい」などのリクエストも歓迎です! |