西塚助手
【対談・武士沢友治騎手①】今回のゲストは7年ぶりの登場・武士沢騎手です!
武士沢友治騎手…以下[武]
西塚信人調教助手…以下[西]
[西]今回の対談は2011年以来7年ぶり3回目となる、武士沢友治騎手をお迎えしてお送りしたいと思います。お忙しい中、ありがとうございますということなんですが……先日はすみませんでした。
[武]よろしくお願いします。いや、驚きましたよ。
[西]皆さんには何のことか分からないと思いますので、説明させていただきます。以前から武士沢さんとご飯を食べに行きましょう、という話をしていたのですが、なかなか実行できなくて。それが先日「日曜日に行こうよ」とお誘いを受けました。しかし、その日は菊花賞でして。我が尾関厩舎のグローリーヴェイズが出走していたので、臨場に行くためにお断りさせていただいたんです。
[武]そしたら東京にいるじゃん(笑)。
[西]急に東京で1頭出走が増えてレースが続く形になったので、自分が東京で臨場することになったんですよ。京都にいるはずだったのが(笑)。
[武]東京にいるんだから、驚きましたよ。
[西]失礼しました。でも、改めて武士沢さんといろいろ話がしたかったので、編集部にリクエストして、お越しいただいたんです。
[武]そんなノリで大丈夫?
[西]まさに、競馬関係者が酒を飲みながら競馬について本音で話をすることこそ、この対談の目的ですから。よろしくお願いします。
[武]最近、お酒を飲んでいないんですよ。
[西]何かお酒を控える理由でもあるんですか?
[武]そろそろ忘年会シーズンですからね。ペースを考えずに飲んで、シーズンを迎えると大変なことになってしまうじゃないですか。
[西]まだ武士沢さんが中野渡厩舎所属だった頃は、よくご飯を食べに行きましたよね。
[武]お互い独身だったしね。
[西]時代が変わったなぁと思うんですよ。田辺さんともよく出かけていたんですけど、あの方も結婚されて、いまではトップジョッキーとなって、やはり以前とは変わったと感じるわけですよ。松岡さんにしても、バンドを始めた頃は寮に住んでいました。
[武]それだけ歳をとったということですよ。
[西]ふと、そんなことを考えたときに、僕もそうですけど、武士沢さんも良いお歳になられたということだな、と思ったんですよ。
[武]もう40歳ですからね。
[西]デビュー22年目ですか。
[武]そう。
[西]もう十分ベテランですね。トレセンでも"武士沢友治"という位置を確立されています。
[武]いやいや。もちろん自分のやるべき仕事をきっちり、という気持ちもありますし、自分の特色を周りがどう見ているかも分かっていますけど、歯がゆい。
[西]そうなんでしょうね。
[武]大きいレースを勝ちたいですし、数も勝ちたいですよ。そのためにどうするか、という思いで昔からやってきたスタンスみたいなものがあるわけです。
[西]武士沢さんの"位置"について皆さんにご説明するために、ひとつエピソードをご紹介します。先日ゲート練習を担当していて、その時に係員の方が『武士沢君はいろいろ考えていて、ゲートの悪い馬への対応とか、こちらも勉強になります』って仰っていたんですよ。それだけ多く、難しい馬に跨がってきているからなんだろう、と思ったんですよね。
[武]とにかく、難しい馬に乗らないことがありませんからね。
[西]そんな見方をされる騎手の人って、以前から同じだったりするんですよね。
[武]あとは、西田さんとか、江田さんとかですよね。
[西]確かにその時、西田さんの名前も出ていました。ただ、以前とは違っている部分もあります。それは何かというと、以前の西塚厩舎と武士沢さんのような関係だと、「ゲートの悪い馬がいるんだけど、競馬もセットで乗って欲しい」とお願いしていたと思うんです。それに対して、普段から乗っている西塚厩舎だから、ということもあったと思うんです。
[武]実際は乗ってみなければわからないんだけど、そういう馬だけでない、普段の関係もありますし、それは乗りますよ。
[西]ただ最近、そうでない場合が多いように思うんです。西田さんや武士沢さんに、難しい馬だけを乗せるケースがあるように思うんですよ。しかも、試験に受かるまでだけ、ということさえあって。なんで俺なのか、ということはないですか?
[武]それが自分の仕事だと思って、頑張りますよ。
[西]それはそうなんですけどね。
[武]もしその馬を断ってしまったら、誰が乗るんだ、とも思うわけですよ。トップジョッキーの人たちも、難しい馬に乗りながらその位置に行ったんですから、技術はあります。ただ、上に行けばそういう馬に乗る数が減りますから、免疫が薄れているはずなんです。それに対して、ずっと乗っていると対応が利くこともありますからね。まあ、それはそれなんですけど、もう少し普通の馬にも乗りたいとは思います。
[西]そこですよ。普段からある程度の関係が保たれているのと、いきなりヤバイ状況になった時だけ"武士沢、西田"というのは、どうなのかと。
[武]まあ、それがほぼ20年続いてきているんですけどね。例えば、10頭乗るとしましょう。普通はその中の1頭に難しい馬がいるだけで「今日は凄いのがいるんだよ」ということになります。でも、こちらは10頭乗るとしたら、半分がそういう馬、という感じなんです。
[西]本当にそうなんですよね。
[武]そういう話を聞いて、人がどう感じるかは分かりませんけど、そういう馬が何頭来ても、とりあえず競馬に向けて対応していくしかないのが現実です。まだ酔っぱらっていないですけど、西塚さんばりにブッチャけさせていただきますと、歩様の悪い馬には何頭乗っても慣れることはありません。ただ、気性が難しい馬を経験することで、対応策が身に付いていくものなんです。本当にそこは"経験が宝"なんだよね。
[西]簡単に言いますけど、その経験そのものが危険だったり、難しかったりするわけですよ。
[武]簡単ではないですよ。例えば、競馬で気性が難しい馬というのは、つい刺激を強くし過ぎてしまうというか……。そう、無理をしてはいけないタイミングがあると思います。そこを我慢できたら、その上に行くことができるんですけど、その前に上の課題をやらせようと思ってもできません。
[西]それはゲートも同じですよね。
[武]もちろん。走りそうな馬がいたとしましょう。でも、その馬はゲートが難しい。そういう時は無理にゲートを出さないようにしている。ゲートはそんなに嫌なところではないんだと、理解させたいがためです。
[西]ゲートが嫌な馬の中には、早く出たいから素早く出るケースがありますよね。
[武]そこで出るからと出していくと、どんどん悪くなっていってしまうんですよ。そういう部分を分かって頼んでくれたり、了解してくれる人だと、こちらも馬も助かりますよね。
[西]最近痛感していることなんですけど、馬というのは急激に良くなることってまずないんですよ。だから一歩一歩が大事なんだと思います。
[武]ない、ない。ゲートを出るのが遅くても、能力で勝ってしまうことがあります。でも、そこでゲートをしっかりと出られるようにしていかないと、結局は上のクラスに行ったときに苦労することになってしまうわけですよ。
[西]必ずと言っていいほど、そうなんですよね。
[武]偉そうなことは言えませんけど、日本競馬のいまのシステムは、できるだけ早く競馬に出走させることで、より多くの賞金を得ることができる形式になっています。そこにニーズがあるのも事実なんでしょう。一方、ヨーロッパなどでは未勝利戦が終わったら出走しづらくなるようなシステムではなく、必要ならゲートに何ヶ月も時間を掛けたとしても大丈夫だったりします。
[西]そこは大きな違いですよね。
[武]日本はファンの皆さんに支えられている競馬で、馬券の売り上げが最優先に考慮されている状況なわけですよ。そういうなかで、自分たち騎手に限らず、厩舎関係者、そして牧場の皆さんも、よくやっているなと思います。馬の中には成長の度合いによって能力を発揮できない馬もいます。
[西]現実にそうですよね。ここは感情論になりやすいんですけど。
[武]それも、経済動物と言われる理由なのかもしれません。
(※次回へ続く)
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