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西塚助手

【対談・武士沢騎手③】育てるという意識で、馬にできるだけ時間をかけるべき


武士沢友治騎手…以下[武]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]そういえば僕、ツイッターが好きなんですよ。あそこには本音が出ていて、悪口もたくさん書かれています。

[武]人が叩かれているのを見て、楽しんでいるんですか(笑)。

[西]武士沢さんにお金を取られた人は、みんな書いているはずですよ(笑)。そんなツイッターに出ていた話で、最近このコーナーでも取り上げさせていただいたんですけど、山田君の距離錯誤の件は、確かにダメ。でも、デビューしたばかりの青年の人格を全否定する資格は、誰にもないということを話したんですよ。どう思われましたか?

[武]確かにいけないことだし、だから騎乗停止処分を受けるわけです。でも、山田本人の人格まで否定されることは絶対にあってはなりません。

[西]あの件、同じ騎手として、気持ちはわかる的なことはあったりするんですか?

[武]さすがにそれはないかなぁ。見た瞬間、背筋が凍る思いがしました。

[西]あとは天皇賞・秋ダンビュライトの件について。あれだけパニック状態になってしまうと、もう誰の責任でもないという話をしたんです。

[武]そういう部分というのは、なかなか分かってもらえないのかなぁ。

[西]実際に馬に携わっていないと、難しいのかもしれませんよね。ただ、僕は本当にそう思ったから話したんですけど。なんとか分かっていただきたいと思って。

[武]そういう部分こそ、マスコミの人たちが伝えるべきなんじゃないかと思うんですけどね。

[西]もっと言えば、僕たちでは言えないことを、記者の人たちが自分の言葉として伝えてくれてもいいと思います。例えば、人気になっている馬が坂路でしか追い切りをしていないとしましょう。そのとき、分かっている記者の方は"あれ、坂路でしか追い切っていないということは、何かあるんじゃないか?"と思うべきなんです。それで確認をして、自分の言葉で伝えればいいんですよね。

[武]坂路だけでしか追い切っていないケースというのは、騎手からしても、何かあると感じますよ。問題がなければ、ウッドチップなどコースでも追い切りをするはずですから。

[西]それをファンの方々に伝えることも記者の仕事のはずですし、関係者の言葉だけを鵜呑みにするのではなく、実際馬をよく観察するべきだと思うんです。関係者の言葉だけを伝えるなら、誰にでもできます。

[武]馬が勝手に仕上がって、レースに出てきているわけではないですから。ゲートなどは特にそうですけど、試験ではできていても、レースに行ったら雰囲気に呑まれてしまって、できなくなってしまうことは珍しいことではありません。そういうことを分かってもらいたいですね。

[西]ファンの方々には、気持ちよく野次を飛ばして帰ってもらいたい。

[武]けっこう、衝撃ですよ(笑)。

[西]いや、同じ野次でも言い方はあるかもしれないけど、言いたいことは分かってもらえませんかね?

[武]分かりますよ。命の次に大切なお金を賭けているんですから、"バカヤロー"くらいいいですよ。ただ、人気でも、人気じゃなくても凄いんですよ。この前も"おい、なんで持ってこねえんだよ。下手くそ"と言われたんですけど、ハッキリ言って、無理な馬もいるんです。そのことは分かってください。

[西](笑)。それは面白い。

[武]東京でも中山でも、最近本当に多いんですよ。

[西]中山は近いですからね。よく聞こえるんですよ。

[武]パドックが一番ヤバい。厩務員さんに"聞こえるのは男の声ばかりだね"と笑われてしまいましたよ。

[2人](笑)

[西]武士沢さん、人気あるんですよ。

[武]いや、いや、いや。そんなことはないでしょうけど、僕自身いつも頑張ろうと思っています。でも、そんなに簡単じゃないことだけは分かっていただきたい。

[西]そう、簡単じゃないんですよね。ただ、そうじゃないなと思わせられたこともあったんです。以前、個人的にもお付き合いがあるローレルクラブさんのパーティーに出させていただいたことがあって。会員の方々と話をすると、意外にも"できるならば同じ騎手の人に乗り続けていただきたい"という声が多かったんですよ。乗り替わりが嫌だ、という方も多いみたいなんですよね。



[武]時代と言われればそうなのかもしれませんけど、乗り替わらないことの意味もあると思いますよね。

[西]武士沢さんクラスになると、レースで教えながら、という意識もありますからね。

[武]教える、という意識がなければダメだと思います。それが求められないなら、乗る意味がなくなってしまいます。いつの時代でも馬は教えられながらやっていかないとダメになってしまうし、レースの中でしか教えられないこともあるんです。

[西]ブッチャけさせていただきますけど、最初から何でもできてしまう馬はまずいない、ということを忘れてはダメだということでしょう。

[武]出走しているメンバーの中で、勝てるのは1頭だけなわけですからね。良いモノを持ってはいるけど、その時点ではまだその能力を発揮できない、というケースは少なくありません。でも、レースの中でいろいろ教えながら、やがて能力を発揮できるようになって、活躍してくれるようにしていくことが、我々の仕事のひとつだと思うんです。

[西]2歳のこの時期なら未完成で、レースで走ることはできても能力は発揮できていない馬がいますよね。

[武]育てていくという感覚は、なくしてほしくないんですよね。

[西]その一方で、デビューする時期が早くなってきている現実があります。そうなると、苦労するのは馬、ということになってしまうんですよね。

[武]だからこそ、育てるという意識が必要なんだと思います。確かに、育成技術が向上していて、手がかかる馬は減っています。でも、そのレースサイクルのスピードに付いていけずに、落ちこぼれてしまう馬もいるんですよ。これまではそういう馬に時間をかけて、どうにかしてきたんです。

[西]今はその時間が、なかなかかけられないんですよ。

[武]そうなんですよ。でも、だからこそできるだけ時間をかけてあげるべきだと思うんですよね。馬が能力を発揮できるようになることこそが大事で、そうなれば活躍してくれる可能性がより高くなるわけです。

[西]以前、牧場のスタッフが厩舎関係者に、強い扶助のハミを使うことについてどう思いますか、という質問をしているところをツイッターで見かけたんです。それに対して、その厩舎関係者は強いハミに頼らず、普通に乗れるようにした方がいいです、と答えていました。でも、厩舎で働いていると、そうやって教えている時間がなかなかないんです。例えば今日、口を割ってしまって乗れない馬がいたとしたら、明日には乗れるようになっていないとダメ、という感じで。昔は1週間くらいの余裕はあったはずなんですよね。

[武]そういう話で言えば、新馬など緩い馬に対して、リングバミを装着していた時には、なるほどと思いましたよ。緩さがある2歳馬に対して、ハミに対して真っすぐ受けられるように、ということでリングバミを使用するのは良いと思います。でも、モタれるから、あるいは口向きが悪いからといって、その原因を考えずに、リングバミに変えるのは違うと思います。



[西]モタれる、口向きが悪いということが肉体的な要因なのか、それともメンタル面からなのか、その違いは考えなければなりませんよね。そこで馬が良くなっていくのを待つとか、あるいは時間をかけて、馬に合わせて進めていくことが大事なはずなんですよ。

[武]昔はそうだったんですよね。

[西]今はゲート試験に合格したら、3日後には追い切りという感じですよね。

[武]もっと言えばゲート試験に合格するイコール競馬、というような感覚さえありますよね。新馬戦で走り終えて引き上げてくると"走らない?"と聞かれるんですけど、そうではなくて"走れない"んです。

[西]凄くわかります。

[武]能力云々ではなく、その能力を現時点では発揮することができない。それを伝えるんですけど。でも結果は欲しいですから。

[西]そうなると、今度は乗り替わりで、ということになったりするんですけど、根本的な部分で対応していかないと結果は出ませんよね。

(※次回へ続く)

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