西塚助手
【対談・田辺騎手③】凄い外国人騎手を見て、学ぶのはとても大事なこと
田辺裕信騎手…以下[田]
西塚信人調教助手…以下[西]
[西]そういえば、最近は厩舎関係者たちの間でも、前に行ってこそ、という傾向が強くなっているように思います。
[田]メンバーを見てないんじゃないか、と思えることがあります。レースの後に"今度は前に行ってみよう"とか、"今度はブリンカーを付けてみる"という話を耳にすることがありますけど、その時点ではいつ、どのコースで、どんなメンバーで走るか分かっていないわけですよ。ブリンカーを付けるのは投票の時点で申請するものですし。
[西]そこですよ。ブリンカーはそもそも、前に行かせるために付けるのではなく、本来は気持ちが散漫な馬に対して集中させるためなんですけどね。もちろん集中させることで前進気勢が増しますから、前に行くためにブリンカーを利用するのも分かります。でも、ブリンカーの効果と位置取りは、本質的には別もののはず。
[田]すべては作戦ですし、何が良くて何が悪いかはわかりません。ただ、結果を受けて、いろいろな角度から考えるのは良いと思いますし、新しい引き出しを作り出すために、試行錯誤することは悪いことではないとは思いますけどね。
[西]レッドファルクスの阪神Cについては、指示もあったのかもしれませんけど。
[田]難しいところですね。指示があれば、そう乗らなければなりませんから。ただ、僕が乗せてもらったときには、返し馬のときに『あれ、大丈夫?』と感じました。
[西]えっ、そうだったの?
[田]G1を連勝していた時はわかりませんけど、あのときはそういう感じでしたよ。
[西](阪神Cで騎乗した)ボウマンも、同じように感じた可能性はあるかもしれませんね。
[田]可能性はあるでしょうね。
[西]ボウマンの話に繋がるのですが、現在は外国人ジョッキー全盛の時代になっています。そのことについて、田辺さんはどう思っていますか?
[田]クリストフ(ルメール騎手)とミルコ(デムーロ騎手)はもちろん、日本に来ているジョッキーはそれぞれの国でトップですから、上手なのは当たり前ですし、日本のジョッキーにとって良い刺激になっているとは思います。ただ、『日本人ジョッキーがだらしない』とか『日本人ジョッキーの頑張りが足りない』という声を聞きますが、日本人ジョッキーたちが頑張っていないわけではありません。
[西]なるほどね。
[田]頑張っているんですけど、日本人ジョッキーは競馬学校で習っていないことがとても多いんです。外国人ジョッキーの乗り方は上手なんです。それはトップの人たちばかりだから、当たり前なんですけど、彼らの乗り方は競馬学校では教えてもらえません。それは仕方がないことで、教えられる人がいないからなんですけどね。以前は馬術の先生と、元ジョッキーの先生が1人ずつ、という状況でしたから。
[西]現在は、元騎手の方が増えましたよね。
[田]いま一番若い先生は淳一さん(小林元騎手)ですよね。淳一さんが現役の頃は、外国人ジョッキーがたくさん来ていた時代ではないので、また違った感覚だったりするんじゃないか、と思うんです。
[西]なるほどね。
[田]先生、ボウマンのように乗りたいんですけど、どうしたらいいですか?と聞かれたときに、一緒に乗っている人ならいろいろわかります。いまの時代、いろいろな国からたくさんのジョッキーが来ていて、それぞれ違った乗り方をしています。そんな中で、それを見て、考えて、勉強するのはとても大事なことです。でも、急に凄いジョッキーが来たからといって、『日本人ジョッキーは何をやっているんだ』と言われるのは、正直みんな悔しいはずですよ。
[西]また乗せる側も外国人、外国人となっているからね。馬の質という部分もあると思います。
[田]クリストフ、ミルコ、あるいはモレイラが上手というのは別にいいと思います。でも、例えば格闘技で負けた選手に対して、『お前弱いな』とか『そんなに弱いならばヤメてしまえ』ということは言わないはずですよ。それと同じことなんじゃないですかね。確かに、競馬はお金がかかっていますので仕方がないとも思いますけど、それでも、心がないとは思います。日本のジョッキーも現役で頑張っているんです。
[西]そういう感覚って、日本人特有かもしれません。海外へ行った経験がある人や実際に海外で働いている人たちが、驚いていますよね。
[田]幼い頃から乗っていることで、馬乗りに対する感覚も違いますから。
[西]海外では、アマチュアの競馬とかもあるそうですからね。ということは、田辺さんも真似しているわけですね?
[田]もう遅いので、真似はしません。今年35歳では遅過ぎますから。
[西]そういう部分の違いはあるんですかね。昔、ある有名な外国人騎手に、JRAが教官としてオファーをしたことがあるらしいんですけど、『騎手を育てる環境ではない』と断ったそうです。逆に言えば、それでも日本人のトップたちは戦ってきているんだから、凄いと思います。
[田]年齢で思い出しました。以前はサシの入った肉を食べていましたけど、最近はトンカツを食べたら胃もたれをするようになったんですよ。
[西]はははは。田辺さんが胃もたれですか。こってりしたものしか食べなかったあなたが。それは年齢を重ねたということでしょう?
[田]もう一生で使える胃液を使い切ってしまったんじゃないか?と思うときがあります。家では、食事をとる前に飲む胃薬と、食後に飲む胃薬がありますから。
[西]田辺さんというと、トレセンの前にあった焼肉屋で、サシの入りまくったカルビを頬張っているか、コテコテのラーメンを食べている姿が思い浮かぶんですけどね(笑)。
[田]もう、そういう年齢ということですよ。ちなみに肉の脂は身体にいいらしいですよ。去年ベストセラーになった健康に関する本があって、そこに、肉の脂は太らないと書いてあったんです。
[西]あと、亜麻仁油とかがいいと言われていますよね。
[田]植物性の油も、どんどん摂った方がいいそうですよ。逆に、糖が良くないみたいです。特に缶コーヒーとか。朝一番にフルーツジュースを飲むのは健康的に思えて、実はあまり良くないそうです。一気に血糖値を上げてしまうそうで。
[西]俺、炭酸飲料好きなんだよね。
[田]炭酸というのは、不思議ですよね。ウイスキーを水で割ると、濃いとか、薄いというのがわかりますけど、同じ量で割っても炭酸が入ると分からなかったりします。コーラなども、炭酸が入っていると美味しいと思いますけど、炭酸が抜けると甘すぎますしね。
[西]田辺さん、随分健康志向になられましたね。
[田]いや、前から興味はあったんです。グルテンフリーもやりましたよ。実際、体重も減りました。減量をしないで競馬に乗ることができていましたし。
[西]それは凄い。
[田]『これは食べてもいい』、『これは食べられない』と考えなければならないこともいいんだと思います。
[西]麺類とかも駄目でしょ?
[田]麺でも、十割そばとかは大丈夫ですし、糖質制限はしませんでしたので、お米は食べていました。逆に、トンカツとか天ぷらはダメでしたし、うどんやパスタもダメです。そうなると、確かに食べる量も減るんですけどね。
[西]でも、大変だよね。
[田]平日に美味しいものを食べることも、僕たちにとってはある意味、娯楽というか、楽しみだったりするんですよね。
[西]田辺さんにすれば、唯一と言ってもいいかもしれませんよね。体重を考えれば、競馬が終わった日曜日の夜から木曜日の夜まで、楽しみだったりするわけですか。
[田]日曜から水曜までかなぁ。木曜に食べる量は、知れていますね。木曜に外食をすることはないです。
[西]田辺さんはギャンブルもやらないですよね。
[田]やらないですね。
[西]そんな田辺さんが胃もたれというのは、改めて年をとったということですね(笑)。
(※次回へ続く)
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