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西塚助手

【対談・野中悠太郎騎手③】今年の中山記念で、松岡さんの凄さを改めて感じた


野中悠太郎騎手…以下[野]
西塚信人調教助手…以下[西]

[西]ところで、あなたが馬に対して「こうした方がいい」と感じていることがあるとしますよね。それに対してまったく逆の方向に進めていっても、勝ってしまうことがあるじゃないですか。

[野]そう。それは間違いないです。

[西]そうなると、どんどん臆病になっていってしまうわけですよ。もし意見したこととは逆のことをやって走ってしまったら、自信をなくしてしまって、結局は長いものに巻かれておいた方がいい、と思うようになる。僕たちや騎手にとってはそれが調教師で、調教師ならば馬主かなあ。

[野]言いたいことはわかります。

[西]本当は人間の顔色ではなくて、馬の顔色を見なきゃいけないんですけどね。22歳なのに凄いなぁと思うけど、逆に22歳だから言えるのかなぁ。人間というのは、立場が変わると考えまで変わってしまう人が本当に多いです。

[野]そうなんですかね?

[西]助手の頃に「馬を大事に」「何よりも馬の状態を最優先に」と言っていた方が、調教師になると「馬主さんが言っているから」ということでローテーション最優先となるケースは珍しくないことですよ。ただ、それも分かるんです。そうしないとダメな場合もありますから。

[野]確かに、騎手だからこそ言えることもあると思います。福島や新潟がいいとか、放牧に出してほしいということは、最終的には調教師さんが決めて、馬主さんと相談するわけで、騎手の提案でも責任は調教師さんになります。もちろん、適当に言っているわけではありませんけど、最終決定ではないからこそ、という面はあると思います。

[西]いや、こちらの立場からすると、騎手の方が大変なこともあると思いますよ。レースの結果はすべて騎手の責任にされてしまうじゃないですか。騎手を替えて上手くいくこともありますけど、上手くいかないことも多くて、それはあまり言われないんですよ。

[野]ただ、それも仕方がないことなのかなぁ、とも思います。自分がよく乗せてもらっている馬に上手な人が先入観なしに乗って、どんなレースをするのだろうか、というのを見てみたいと思うときはあります。それで勝たれて、その次は乗れないならば仕方がないと思います。替えられて悔しい気持ちは当然あります。でも、乗り替わった人に「いい馬ばかり乗って……」とは思いません。



[西]それは野中君のいいところですよ。普通だったら、替えられたことに腹を立ててしまうはずですよ。でも、そうではなくて、替えられたことよりも大事なことがあるということですよね?

[野]そうです。上手な人がどう乗るんだろうか、という興味もそうですし、何より、自分がもっと上手くならなければ、という気持ちを掻き立てられます。

[西]それは凄いよ。我々の世界でなくても、そう思える人はなかなかいないと思います。自分自身と向き合うことができて、気持ちが競馬や馬に向いているということですからね。ちょっと思ったのは、若い頃の松岡さんとダブる部分があります。

[野]僕は松岡さんほど芯が通っていませんよ。

[西]違うと思う人もいるのかもしれませんけど、松岡さんも"まずは馬"だったし、今でもそうです。今日、野中君と話ができて良かったですよ。あの頃の松岡さんを思い出しましたよ。

[野]いえ、こちらこそ、ありがとうございます。こういう話をすることは嫌いではないので。

[西]同じ頃の田辺さんは、まったくそうではなかったですけど(笑)。

[野]田辺さんも、本当によく考えていらっしゃいますよ。僕は田辺さんと話をするのが大好きなんですけど、なぜかというと話が面白いんです。とても興味深い話をしてくれるんですよね。乗り方や戦術に関しても、田辺さんが考えていることは、いままで自分自身が考えたこともなかったようなことだったりして、勉強になります。今は本場で乗っているので、「一緒にパトロールを見てください」とお願いしたりしています。「え~、面倒くさいよ」と言いながらも、たくさん教えてくれますし、いろいろアドバイスをくれるんです。

[西]「え~、面倒くせえ」って、言いそう(笑)。確かに、野中君みたいな生真面目さはなかったです。ただ、なぜ田辺さんと仲良くなったかというと、たぶん彼にとって、自分とか、父の西塚先生というのは、野中君にとっての根本先生みたいなところがあったんじゃないかと思うんですよ。要するに「お前の一番良いと思うことをやればいいから」という感じですよ。田辺が考えてやった結果だったら、文句は言わないし、馬主さんにも頭を下げます。ただ、2着、2着と来たところでの乗り替わりについての文句は勘弁してくれ、という話はしていましたけど(笑)。

[野]そうだったんですね。

[西]基本的には、田辺さんの考えで、頑張ってほしいということです。指示としては、15、16番人気の馬を8着に持ってきてほしい。しかし、その手段は田辺さんに任せる、というものでした。まあ、田辺さん自身とても人柄が良いですし、面白いので、付かず離れず、ここまで関係が続いてきています。

[野]競馬の話もされますよね?

[西]競馬の話もしていました。2人でご飯を食べながら、キャバクラに行く前に。

[野](笑)

[西]あくまで当時ですよ。今じゃないですからね(笑)。でも、当時から「この馬で8着は厳しい」とか、「セコ、セコ、セコく乗って8着」というような話はたくさんしていました。その頃から思っていましたけど、田辺さんはとてもロジカルですよ。

[野]自分がデビューして2年目くらいまでは、田辺さんは感覚で乗っていらっしゃるのかと思っていたんですけど、全くそんなことがなくて、本当に驚かされました。

[西]「この馬がこの枠では脚がなくて、どう頑張っても厳しい」というような理論的な話は、田辺さんの方がするかも。そういう意味では、松岡さんの方が感覚的かもしれない。



[野]僕自身は、松岡さんは感覚派の職人気質と感じています。言い方は適切じゃないかもしれないけど、緻密なんですよ。

[西]松岡さんも、話をすると繊細だし、よく考えていますよね。

[野]松岡さんのすべてが表れているなぁと思ったのが、ウインブライトで勝った今年の中山記念です。あの位置でなければ絶対に勝てない、1馬身前でも後ろでもダメ、というところを1コーナーで取ることができた。「その時点で大丈夫だろうと思った」と聞いて、凄いと思いましたよ。イメージしたものを具現化したわけですから。しかもデビューから跨がって、いろいろ教えてきている馬で。とにかく凄いことなんですよね。

[西]他の競技と違って、競馬でレースをした経験がある人はなかなかいないから、理解するのはなかなか難しいはず。実際、助手だって、レースに乗った経験がある人の方が少ないわけで、その凄さは騎手の野中君だからこそ分かるんだと思いますよ。まあ、ああだこうだ、というのは本当に簡単なんだけどね。というか、野中君に来ていただいているのに、田辺さんと松岡さんの話をしていちゃ、ダメだよね。

[野]全然、大丈夫です。

[西]今回特に聞きたいと思ったのは、去年アイルランドに行ってきたことと、藤田菜七子ちゃんの話なんですよ。

[野]あ、そうだったんですね(笑)。

[西]そもそもなぜアイルランドだったんですか? それこそ松岡さんもアイルランドに行っています。

[野]僕が3年目のときに、招待レースでフランスに行ったんですけど、日本との馬文化の根付き方とかの違いに愕然としたというか、衝撃を受けました。そのときは1週間しか滞在しなかったんですけど、そこで今後同じように日本で騎乗していても、大きく成績を変えることはできないんじゃないか、という思いがあったんです。それにこの世界で生きていく以上は、海外に経験を求めて行くことはマイナスにはならないと思って、フランスから帰ってすぐに先生に「海外に行かせてください」とお願いしました。

[西]もちろん根本先生はOKだったんでしょ?

[野]行き先も含めて自分ですべて決めて、伝手を辿るなりしてやりますと言うと、「いいぞ」と言ってくださいました。

[西]アイルランドに決めた理由は、何かあったの?

[野]一番は、博康さん(田中博調教師)と食事をしながら「海外、その中でもヨーロッパに行きたい」という話をしたときに、「フランスでもアイルランドでもいいと思うけど、アイルランドはレースに乗らなくても調教に乗る価値がある」と言われたんです。そして、その後に松岡さんから「アイルランドが一番厳しい」と聞いて、なおさらアイルランドに行こうと思いました。

[西]一番厳しいところを選んだ、ということですね。

[野]それなら間違いないと思ったんです。日本は一番環境が良いと思います。香港でも、南アフリカとかオーストラリアとかで騎乗して、成績を収めた人が戻っています。それに対して、日本は世界で一番とされる施設や環境の中でデビューしてすぐ乗ることができる。こんな有り難いことはありません。

[西]デビュー戦がR・ムーアと一緒のレースとか、海外ではあり得ないのかもしれませんよね。

[野]そうです。サッカーで言えば、高校を出たばかりのルーキーが、ヨーロッパチャンピオンズリーグにいきなり出場しているみたいな感じかもしれません。そういうことを考えて、だからこそ敢えて一番厳しいところに行ってみようと思ったんです。

[西]その一番厳しい国で、けっこう競馬に乗っていましたよね。どこか厩舎に所属をしたんだっけ?

[野]J・ムルタ厩舎です。いろいろな方々に応援していただいて、乗せていただくことができました。

[西]松岡さんも応援していましたよ。

[野]それまでは頻繁に話をする感じではなかったんですけど、行っている間にメールをいただきましたし、帰国してからもいろいろ話をさせていただいています。

(※次回へ続く)

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