西塚助手
リオンリオンと武史が先頭を走る姿は、忘れられない光景になりました
先週行われた"令和"最初の日本ダービーは、ロジャーバローズの勝利という結果に終わりました。
日高の生産馬が勝利したこと、またそれが12番人気という評価だったこと、人気に支持されていたサートゥルナーリアが出遅れてしまったこと、レース前後にいろいろな話題が尽きないダービーでしたが、皆さんそれぞれ楽しんでいただけたと思います。
僕にとっての今年のダービーも、また印象深いものになりました。
現地で観戦されたことがある方ならば分かっていただけると思うんですけど、ダービーだけは他のどのレースにもない、本当に独特の雰囲気です。
ダービーを勝つために、生産者の方々は馬を配合して、育て、そして競馬場に送り出しますし、オーナーの方々はこのレースを勝ちたくて、馬を所有されます。そして僕たち厩舎関係者も、このレースを勝ちたいと思いながら、毎日懸命に頑張っているんです。
僕も携わった馬が出走することになった時には、言葉にできないくらい独特の感覚を感じました。現地で感じたあの歓声、雰囲気、すべてが特別だったんです。
そんな今年のダービーで、僕は4コーナーを回るところで涙腺が崩壊しそうになってしまいました。
その時点では、リオンリオンが後続を離して先頭に立っていました。ご存じの通り、そのリオンリオンには騎乗予定だった(横山)典さんが騎乗停止となってしまったために、急遽乗り替わりとなった息子の(横山)武史が乗っていました。その姿に、いろいろな思いが頭に浮かんだんです。
武史とは年齢もふた回り近く離れていますから、どこか父親のような、兄のような感覚を覚えるんですよね。僕自身、武史がまだ競馬学校生の頃、典さんがゴールドシップでジャパンCに挑んだレースを、厩舎関係者席で応援している姿を見ています。あの少年が今、同じコースの大舞台で先頭を走っている。その姿を見て、いろいろな思いがこみ上げてきたんですよ。
父である典さん自身も、当日は競馬場に来られていたそうです。典さんは武史と同じ騎手で、ダービーを2回勝たれていますから、その舞台の重みも、十分すぎるほど分かっているわけです。そんなレースに騎乗停止で乗れなかった。プロの騎手として、悔しさはあると思います。
ただ、父親としてはどうか。これは僕の想像ですけど、典さんも僕と同様に、目頭を熱くしていたんじゃないか、と思うんですよ。自分が騎乗した青葉賞と同じように逃げて、しかもダービーの4コーナーを先頭で直線に向いて、スタンドからの大歓声に迎えられたわけですから。
典さんは本当に真剣に馬について考えていて、僕が「この馬、こう思うんですけど」と話をすると、自分自身の感覚と経験の上で真摯に話をしてくれます。どんな馬に対しても、その馬にとって良いと思うことを常に考えています。
そんな横山典弘がプロとしてだけでなく、父親としての顔を見せていた。"巨人の星"の星飛雄馬と星一徹のような関係こそプロだ、という方もいらっしゃるかもしれませんが、これは馬のことを常に真剣に考えて、行動をしているホースマンであるからこそ、だと思うんですよ。そんなところも、僕は好きなんですよね。
残念ながらリオンリオンは15着に負けてしまいましたが、僕にとって今年のダービーの4コーナーは、忘れられない光景になったんです。この経験を糧に、武史はさらに成長していくはずですので、皆さんもぜひ注目して下さい。
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