西塚助手
ベストの状態で馬をレースに出す、その体制がノーザンファームの強み
9月号のサラブレ本誌で、"外厩帰り"の特集が掲載されていましたね。その記事を読んで思い出したことがあるので、今回はその話をさせていただきたいと思います。
我々関東の厩舎に所属するノーザンファーム生産馬の多くは、福島にあるノーザンファーム天栄を外厩としています。ちなみに関西馬は、滋賀にあるノーザンファームしがらきが中心ですね。
この夏、そのノーザンファーム天栄で新しい試みが始まりました。夏の新潟は先週開幕しましたが、ノーザンファーム天栄から新潟競馬場に直接入厩して、レースに向かうことを始めたそうなんです。
北海道の牧場から札幌や函館に直接入厩することができるのは、ご存じの方が多いかもしれません。それと同様に、新潟競馬場でも検疫を受けることができるんですよ。
そんな馬を受け入れるために、各厩舎から持ち乗り厩務員さんをはじめとするスタッフたちが、新潟に滞在するケースも多いようです。競馬を使ってそのまま滞在、という人もいました。
ノーザンファームといえば良血馬や実力馬揃いですし、実績が示す通り、天栄も素晴らしい施設です。もちろんハード面でなく、スタッフの方々も、ここまでの経験値があります。そんなスタッフさんたちが新潟に直接入厩させるスタイルをとることで、より競馬に近い感覚を得られるはずですし、この試みも、間違いなく結果を出されるはずです。
ただ、他の育成牧場にも負けないくらい高い技術を持ったスタッフの方々がいらっしゃって、結果も出されています。その部分に関しては、どちらが良いとは言えません。
では、何が違うのか。これはあくまで個人的な意見として聞いていただきたいのですが、僕自身が一番大きい違いだと考えるのは、馬が一番良い状態のときに出走させることができるかどうか、ということ。ここが違うと思うんです。
簡単に言うと、馬の入厩や出走のタイミングについて、ノーザンファームはオーナーサイドと牧場の意思がセットになっている。それに対して、それ以外のケースだとオーナーサイド、調教師、牧場とのトライアングルで意思疎通が必要になることも多いんですよ。
馬のコンディションは、状況によって様々な変化をみせます。ハッキリ言うと、人間は馬の調子を完璧にコントロールすることができません。生き物ですから当たり前と言えば当たり前で、疲れもそこまで溜まっているわけではないから早く戻ってくるだろう、と思った馬が、長い間帰厩しないことも珍しくはありません。
ですから、来週入厩する予定だけど、いまひとつ動きが良くなってこない、という状況はしばしばあります。状態を上げるために、あと2週間入厩を先延ばしにしたい。そんな時、他の育成牧場の場合、それが意外と大変なんです。
調教師さんに説明して理解を得られるか、また、馬主さんにも理解を得られるかどうかもわかりません。育成牧場が馬主さんとのお付き合いによって預託を受けていると、馬主さんから理解を得られたとしても、調教師からはそれが分からないケースもあるわけです。
ブッチャけさせていただければ、人間関係とそれぞれの状況や立場があって、馬の状態を最優先に決められることばかりでなくなってしまうケースもある、ということです。
それに対して、天栄は馬最優先が当たり前、というスタイルです。馬の状態が良くなってこなければ、入厩する予定が先延ばしとなりますし、逆に予定よりも早く良くなると、早く入厩してきます。
よりベストな状態に近いときにレースに出走させるということは、何よりも大きな武器です。そして、ノーザンファームはそれをスムーズに行う体制ができていることが、強さの根幹だと僕自身は感じているんです。
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