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西塚助手

ディープインパクトの訃報に接し、真っ先に思いを馳せたのは…


先月30日、無敗の三冠馬で、種牡馬としても活躍馬を多く出しているディープインパクトが17歳で亡くなりました。

僕自身、ディープインパクトと直接の関わりはありませんでしたが、ディープインパクトが4歳時の宝塚記念に出走した頃(2006年6月)にトレセンに入っているんです。なので、トレセンに入ってから何年経つかを数える時には、その年齢から逆算するんですよ。

だからこそ、勝手な感情で失礼かもしれませんが、僕とディープインパクトは、同じ時代を生きてきたような感覚があります。

ただ、一方は日本競馬のスターで、前年に三冠を制し、宝塚記念を制していざ凱旋門賞へ向かう。それに対して、僕は右も左もよくわかっておらず、西塚厩舎に預託されていた馬たちとの生活と、厩舎の運営に必死。とてもとても、大きな差があったんですけど(苦笑)。

同じサークルで働いているのに、どこか別世界の存在というか、もっと言えば実在するのかどうか、現実感がないような感覚さえあったように思います。今思えば、日々の仕事と生活に追われていて、ディープインパクトのような馬に携われたら、という感情さえなかったと思います。

それから数年後、父が亡くなり、尾関厩舎の一員となって、グローリーヴェイズをはじめとする産駒たちに携わる機会を得ることができました。僕自身も嬉しかったですし、本当に貴重な経験をさせていただいていると思います。

現役時代、他馬よりも速く駆け抜けてきたディープインパクトですから、どうかゆっくりと休んでくださいと、心よりお悔やみを申し上げたいと思います。

その訃報は、競馬メディアはもちろん、一般ニュースでも大きく取り上げられました。そんな中、最後は"安楽死"によるものだったことについて、競馬をあまり知らない方なのかもしれませんが、"安楽死させるとは"というようなリアクションもみかけました。

しかし、この世界で"安楽死"というのは決してイレギュラーなことではありません。それはディープインパクトのような名馬であっても、例外ではないんですよね。

僕自身、この世界に飛び込んで13年が過ぎますが、その中で、決して忘れることのできない、ある競走馬の死があるんです。

競走馬を安楽死させざるを得ないのは、治療したとしても、合併症によって命を落としてしまう可能性が極めて高いとか、あるいは骨が砕けて立つことができないようなケースが多い。要するに、手の施しようがないという診断が出てしまった、という状況です。

ところがその馬の場合は、追い切り直後に跛行を発症しました。レントゲン検査などをしても原因がわからず、とにかくできる治療をしたんですが、症状が良くなることはありませんでした。その馬は結果的に、腰のあたりにある寛骨という大きな骨を骨折していたんですけど、そこはレントゲンでは撮影できず、最後まで診断が出なかったんです。

さらに跛行を発症した3日後くらいに、馬房内で起き上がった際に寛骨を大きく骨折してしまったようで、そこから日に日に衰弱していきました。骨折していますので、当然内出血をしています。そのために血が溜まってパンパンに腫れてしまい、最初は飼い葉桶まで歩くことができたのが、だんだん歩くことができなくなっていったんです。

そんな状況で、僕自身としては、何とか命だけは、という一念で、できることを懸命にやっていました。疝痛にならないように飼い葉を注意するなど、いろいろ何か馬に良いことを、という思いでやっていたんです。

しかし、事故後10日目くらいだったと思います。草をみせても起き上がれなくなっていました。今までできていた寝起きもできず、いつもより目に力もないし、食欲もなさそうです。後ろ脚もパンパンに腫れていて、正直なところ、僕はそれを見て、早く楽にしてあげたいと思ったんです。

その馬は、立てなくなったその日に厩舎で亡くなっていました。苦しかったと思いますし、せめて誰かがいてあげることができたら、と思わずにはいられませんでした。その馬のことは、僕自身決して忘れることができませんし、早く楽にしてあげた方が良かったのではないかと、悔いも残っています。

ですから、今回のディープインパクトの訃報を聞いて、僕が真っ先に思いを馳せたのは、担当していたスタッフの方のことです。

いろいろな意見があるのは承知で言わせていただきますが、人間の意思だけで、苦しむ馬を延命させるのが良いのかどうか。そうじゃない選択肢があってもいいんじゃないかと思うんです。

僕たちも、同じ馬を10年以上世話することはほとんどありません。一方で種牡馬になってから携わるスタッフは、10年以上同じ馬を世話する方もいるでしょうから、時間が長い分、その馬に対する思いも大きくなるはずです。これは僕の勝手な想像ですけど、携わってきた方も辛かったと思うんですよ。

馬は機械ではなくて、命があって、命がある以上はいずれ死を迎えます。馬の傍で仕事をしている我々自身、そういう状態になってしまった馬との向き合い方、気持ちの持ち方については、覚悟と思いを持ってやっているし、そうあるべきだと思うんです。

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