西塚助手
【対談・井上騎手④(終)】今後目指したい、美浦の先輩3人とは
井上敏樹騎手…以下[井]
西塚信人調教助手…以下[西]
※収録日・3月5日(木)
[西]話は変わるんですけど、デビューから7年目、騎手として頑張ってきて、今後目指す騎手像というか、スタイルはあるんですか?
[井]やはり、どんな馬でも少しでも上の着順を狙って、最後まで諦めないような騎乗をしたいと思っています。そのために、できることをやっていきたいですね。
[西]確かに、実際それしかない、とも思うんですよ。たとえば、ローカルで人気薄の馬に乗って5着に来る。次も同じローカルを使うとしたら、よほどの事情がなければ同じ騎手で行くケースが多いですから、そこでチャンスを掴んでいくしかないと思うんです。それをひたすら繰り返していくことでしょう。
[井]本当にそう思います。それを、どれだけ粘り強く続けていくことができるか、だと思います。
[西]田辺さんがそうでしたよ。西塚厩舎の走らない馬で、何とか8着、掲示板を目指して頑張っている状況で、ローカルで松田博先生のところの馬に乗って、結果を出してから一気に伸びていった感じですから。
[井]そうだったんですね。
[西]でも、アイツがリーディング上位になってからなんですけど、ある馬で負けたときに「どう?」って聞いたら、「手先に鉄アレイが付いているみたい」と言ったことがあったんです。それを聞いて、昔もいまも変わらないなぁ、と思いました(笑)。
[井]面白いですね(笑)。でも、本当に隙間を突いていくことしかないんですよね。
[西]田辺さんに、「西塚厩舎の走らない馬で8着に来るのと、走る馬で重賞を勝つのなら、重賞を勝つ方が簡単だ」だと言われましたからね。我々の間では、そのように隙間を突いて、内を回って……というのを"セコ乗り"と言っているんですけど、その"セコ"を肯定する人が少なくなっているような気がするんです。
[井]そうですか? でも、大事だと思うんですよね。
[西]そういう状況になってくれるかどうか、ということもあるでしょうけど。"セコ"を肯定する、つまり厩舎サイドが"なんとかして8着を狙ってくれ"と言えればいいんです。でも、同じ馬について"前々で、勝つ競馬をしてくれ"と言われたら、そこで終了ですから。
[井]もし可能性が低い馬に乗ることになったときは、やはり前半で無理をさせたくはありませんよね。
[西]セコを成功させるためには、絶対に自分から位置を取りに行ってはダメなんですよね。何もしないで好位にいることができたら、ラッキーなんですよ。
[井]まさにその通りです。
[西]"前々のセコ目"という名言を知っていますか?
[井]いえ?
[西]大庭さんの言葉なんですけど、何もしないで前に行けてしまって、内でジッと、ということですよ。たまたまゲートを出てくれたときにだけ成立する、ということなんですけどね。
[井]それは、一番の理想ですよね。
[西]そういう意味で、改めて目指すスタイルを聞いてみたいんですよ。日本人騎手、外国人騎手などの例を挙げてもらってもいいんですけど。
[井]外国人騎手ではないですね。1人ではないんですけど……西田さん、丸田さん、そして丹内さんですかね。
[西]おお。
[井]この3人を合わせたら、メチャクチャ勝てると思うんですよ。
[西]なるほど。それぞれの良いところはどこだと思いますか?
[井]西田さんは走らない馬を走らせる、頑張らせる技術だと思います。丸田さんはインを狙っていく、その洞察力と判断力は凄いですよ。そして、丹内さんの追う力です。それぞれの力を合わせられれば、間違いなく凄いと思います。
[西]自分は騎手ではないから、3人それぞれの魅力について、正直なところ違いがよくわからないんだけど(苦笑)。丹内さんの追う力というのは、どういう部分だったりするんですか?
[井]向正面からでもステッキが入って、全身で馬を動かしています。馬も相当頑張ることになると思いますし、あれだけ追うことができるようになりたいと思うんです。
[西]追うということについても、正直わからなかったりするんですけど……。言われてみると、レース後に馬がフラフラになってしまって歩けない、ということがあります。それはたぶん、それだけ動かされているんだろう、と思うんですよ。
[井]前進気勢が強いタイプで、軽くゴーサインを送っただけで加速していくなら、それでいいんですけど、こちらが懸命に促していかないと動いてくれない馬もいます。そこで、こちらも馬に負けないように、粘り強く動かし続けられるようになりたいんです。
[西]西田さんあたりも、同じタイプだよね。確かに、名前が挙がった西田さん、丸田さん、そして丹内さんは、いまでもそれを続けていて、関係者にも認められている。
[井]凄いと思います。そういう騎手を目指したいです。また、そうやって頑張り続けなければ、チャンスも来ないと思うんですよね。
[西]昔、田辺さんが言っていたんですけど、当時のローカル開催は中舘さんが一番でしたから、"どうやったら中舘さんに勝つことができるのか?"ということを考えて乗っていたそうです。中舘さんが乗るような強い馬に対して、どうやって一枚、二枚落ちの馬で勝つかと考えて、その結果がセコ乗りということなんでしょう。しかし、それは言うほど簡単じゃない。
[井]本当に、簡単じゃないですよね。ただひたすら馬を追えばいい、ということではありませんし。スタートから、もっと言えばその前の段階から、どうやって馬を走る気持ちにさせるか。さらに、レースの中でいかに距離などのロスをせず、優位に立ち回るか。様々な工夫をすることで、差を埋めていくしかありませんから。
[西]その積み重ねですよね。あ、もうこんな時間ですよ。我々も仕事がありますからね。最後に聞きたいんですけど、馬に乗っていて、今でも楽しいですか?
[井]はい、楽しいです。馬に乗ることはいまでも昔と同じ、いやそれ以上に楽しいですよ。
[西]その言葉を聞いて安心したよ。そう思えているならば、何でもできるはずだし、どんなことでも頑張れるはずですから。
[井]楽しいから騎手を続けていられるし、頑張れるんだと思います。
[西]西田さん、丸田さん、そして丹内さんのような騎手を目指して頑張ってください。
[井]はい。
[西]今日はお忙しい中、ありがとうございました。
[井]ありがとうございました。
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