西塚助手
今年緒戦の馬がワンツーを果たした皐月賞、その要因とは
今回は、先週行われた皐月賞の結果を受けて、僕自身が印象に残ったことがあったので、その話をさせていただきたいと思います。
皐月賞を制したコントレイル、2着のサリオスには、あるひとつの共通点がありますが、それは何でしょうか。
皆さんお気付きかもしれませんが、勝ったコントレイルは前走がホープフルS、サリオスは前走が朝日杯FSで、どちらも昨年12月に行われたG1から皐月賞への直行だった、ということです。
昔の皐月賞といえば、有力馬もそうでない馬もトライアルの弥生賞ディープインパクト記念(以下弥生賞)、あるいはスプリングSや若葉Sを使って本番へ、というローテーションがほとんどでした。
それが最近は、共同通信杯やきさらぎ賞、あるいはそれよりも前に行われる京成杯などから向かうケースも増えています。そしてついに、昨年のサートゥルナーリア(前走ホープフルS)、今年のコントレイルのように、2歳12月に行われるG1からの臨戦で結果が出るようになったわけです。
これは僕個人としても興味深いので、なぜそうなっているのかを考えてみました。
ひとつの要因として、外厩、つまり育成牧場のレベルがハード、ソフトの両面で上がってきているから。これがもっとも大きな要因なのかもしれません。
もうひとつ思うのは、以前は“休み明けはマイナス”というのが定説とされてきました。今でも、休み明けより叩いた方が良いタイプはもちろんいます。ただ、今はレースでの消耗度が以前よりも高いと言われる中で、一度使うことのリスクも高くなってきているように感じます。
“ここを一度使って良化するはず"というコメントがよく聞かれますが、実際にそうなのか。本番前に一度叩くのが良いのか、直行が良いのかは馬や状況にもよることで、実際にはやってみないとわからない、というのが正直なところだと思います。
もちろん、使ったことで状態が上がることもあります。しかし一度使ったダメージが想定以上に大きくなり、その疲れが抜け切れないまま本番、というケースもあり得る。要するに、そういった部分を人間がコントロールするのは難しいんです。
もちろん、この馬は使った方が良いタイプなのか、そうでないのかということは、陣営も見極めるように努めています。しかし、3歳のこの時期では未知数の部分もありますし、それを完璧に判断することはできません。成長期ですので、以前とは違った反応をみせる可能性も高いんですよね。
これは僕が実際に馬に携わって感じることなんですが、馬の状態に問題がなく、次のレースまでに1ヶ月の時間があるなら、それに向けて仕上げていく過程にもいくつかの選択肢が出てきます。
しかし、これが2週間ということになると、レースに向けて調教することしか、やれることがなくなってしまうんです。
確かに、弥生賞から皐月賞までは1ヶ月と少しの時間があります。しかし、弥生賞も重賞ですから、そこで使ったことでダメージが大きいと、そこからリカバリーして本番に向かうには、少し足りない可能性が出てきます。
これが共同通信杯やきさらぎ賞となると、レースまで2ヶ月ほどの時間があって、短期放牧なども絡めてリカバリーできる可能性が高くなる。ただ、今回の2頭は12月にG1を勝っていますから、共同通信杯やきさらぎ賞は斤量面もありますし、まとまった休養を取る時間がなくなってしまうわけです。
これはG1に限りませんが、その馬が力を発揮できる状態に仕上げることができれば勝ち負けできる、という手応えがあったならば、そこに至るまでのリスクはできるだけ避けたい、という意識になります。今回の上位2頭も、皐月賞で95、あるいは90のデキになったとしても、その方が力を発揮しやすいという判断があったんじゃないかと。もちろん、馬のキャリアを考えて目標がまだ先にあるから、ということもあるかもしれません。
これまで話したことは、あくまで僕自身の考えですが、今回はこのようなことを総合的に考え、直行という選択肢になったのではないかと思うんです。
いずれにしても、コントレイル、サリオスが今年緒戦で結果を出した今年の皐月賞は、最近の傾向が如実に表れた出来事として、僕自身とても興味深かったんですよね。
話は変わりますが、皆さんもいろいろなところで新型コロナウイルスの影響を受けておられると思います。ビニールシートでお客さんとレジを隔てるようになったコンビニが増えていますが、トレセンでも事務所はもちろん、馬の診療所でもビニールで区切られるようになりました。
また、調教スタンドも、騎手と我々厩舎スタッフの部屋が分けられ、感染リスクをできるだけ減らすように努めています。
今週以降も無観客競馬が続くのかどうかは未発表ですが、少なくとも競馬の開催は行うことができています。そのことを感謝しながら、まずは自分が感染しないように気を引き締めて、できる限りの予防をしながら頑張っていきますので、引き続きよろしくお願いします。
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